第9話 四人の能力(4)

(あれはどう見ても、ケルベロスイーグルだよな、やっぱり)


『書く人になろう』において、総合一位の座に君臨し続けている、王道異世界ファンタジー小説。その作中に出てくるモンスターだ。


 すぐに埋もれてしまう自分とは違い、ダントツ一位の座に君臨している小説とはどんなものなのだろう?

 研究も兼ねて旬は、総合一位の小説『ブレイブファンタジア』を読破していた。


 他の作品の追随を許さない人気と、それを支える完成度の高さは流石だ。そう旬は唸ったが、そこは悪い意味での玄人と言うべきなのか。料理人として気になる点はあった。


 作中に登場したこの魔物を主人公パーティーは倒し、その肉を調理していた。

 ダンジョングルメ物の小説の作者でもあるが故に旬は、このモンスターを含む、作中で調理される魔物と、その時の調理法をしっかりと覚えていた。


 作中ではシンプルに、ケルベロスイーグルの肉を串に刺し、焚き火で塩焼きにしていただけだった。

 俺ならもっと上手く調理出来るのに。

 料理人としてのさがを疼かせながら旬は、物語内の料理シーンを読んでいたのを思い出す。


(育ち盛りの剛大には唐揚げで。女子の悪原さんと湯栗さんには無難に、蒸してポン酢掛けあたりか)


 旬は秒で献立を作り上げる。

 二つの料理に必要となる調理器具や調味料、副食材などは、旬のザックからいつでも取り出せる筈だ。月光が設定通りなのだから、ザックもまた、旬が設定した機能を備えている可能性が高い。


「湯栗さん。この魔法を解除出来るか?」

「えっ……解除は出来ますけど……」


 何を言っているの?

 そう言わんばかりの、キョトンとした目で静香は旬を見た。


「こいつを倒す気ですか? 旬さん! 俺も手伝いますよ。俺も力を試してみたいですし」


 レギュラーだが、ベンチに控えていた選手のように剛大はやる気を漲らせる。


「そうか……ならすまないが、魔法解除後に少しでいい。ケルベロスイーグルの注意を引いてくれないか。最高の状態で料理したいから、俺が血抜きする。出来るか?」


 ザックを下ろしながら旬は、士気が高い剛大に問うた。


「は! もちろん出来るっすよ。その代わり、美味いもんをたらふく食わせて下さいよ!」

「そこは任せろ! ……湯栗さん」

「は、はいっ!」


 弾かれるように静香は反応する。


「今から魔法を解除します……気をつけて下さい」


 魔物が跋扈ばっこする、縁もゆかりも無い世界。

 四人で行動した方が安心安全だ。

 成り行きで行動を共にした面子だが、静香の目は打算無しに二人を案じていた。

 言ってから静香は家の中に入る。


「……」


 本当にあの魔物を食べるの?

 逆に令子は引き気味だった。


「確かこいつは、物理攻撃しかしてこなかった筈だが、油断するなよ」

「大丈夫っすよ! 俺は飛び道具も使えるんで。注意を引くのは任せて下さい」

「任せた」

「静香ちゃんが解除したわ」


 中継役を務めていた令子が、よく通る声だが、どこか気乗りしない口調で言った。


「了解っすよ」


 体育会系そのもののノリで剛大は、手甲越しに両拳を叩き合わせた。剛大は旬から距離を取る。


(尻込みしないのは良いが、熱中するあまり周りが見えなくなるタイプかもな)


 リーダーとして、仲間の性格は把握しておかなければ。使命感から旬は観察した。

 ケルベロスイーグルが降下してくる。


「ダイヤモンドバレットぉ!」


 単純明快な技名に、飛翔するダイヤモンドの塊が旬の頭に思い浮かぶ。

 想像した通り、怪鳥の左端の頭にバスケットボールほどの大きさをした、ダイヤモンドの弾丸が命中した。


「オラァ。こっちだ。三羽烏!」


 見ると剛大が、身振りを混じえながら大声で挑発していた。

 見るからに怒れる魔物は、ホバリングしながら剛大に向きを変える。


 その間にも、正拳突きを繰り返す剛大の手の先から、金剛石の弾丸が射出される。

 三つ頭の怪鳥は、剛大を標的に定めたようだ。


 パーティの指揮者として、必要以上に仲間を危険にさらす訳にはいかない。

 旬は月光を抜刀した。

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