第7話 四人の能力(2)

「せ、清掃魔法、清潔とはかくあるべしクリーンクリア


 令子の声で魔法が唱えられた直後、玄関を含めて一部屋となっている一階の天井から床。残されていた家財道具の全てが、黄色と水色の光の粒に覆われた。


「わぁ、綺麗……」


 幻想的な光景に静香が感嘆する。

 二色の粒はしばらく存在したあと、部屋の中央に集まり、混ざり始める。やがて黄緑色に光る一つの塊となり、最後は打ち上げ花火のように爆ぜて消えた。


 後に残されたのは、リフォームしたてのような室内であった。


「凄いな……まるで新築じゃないか」


 埃っぽさは微塵もなくなった。

 これなら快適に過ごせること、間違いなしだ。


「上手くいって良かったぁ……」


 魔法という未知の力を、実際に使うという緊張。

 その重圧から開放された顔の令子が、きれいになった床に座り込む。


「まさかこれほどとはな」

「本当に凄えっす!」

「ありがとうございます、令子さん」

「えへへっ。ありがと……よし!」


 気合を入れるように言って令子は、再び立ち上がる。


「この調子で、二階の方もどんどん片づけちゃうよ〜」


 転生後、初めて役に立てたことが嬉しいのだろう。上機嫌で令子は、レンガ造りの階段へと向かう。


(あれ? ……もしかして、悪原さんてチョロい人?)


 強めのおだて文句だったとはいえ、有頂天になるのが早いのではないか。

 旬は一抹の不安を覚えた。


「……ま、二階の間取りを把握しておくとするか」


 いまは考えていても仕方がない。

 気持ちを切り替えた旬が令子の後に続くと、剛大と静香も追随する。

 踊り場を挟んで、二つ折の階段を昇った先には、両端の窓から光が差し込む廊下が二階を貫いていた。

 手前と奥の左右に、それぞれ二つの扉がある。


「切りよく四部屋あるみたいね……ベッドは」


 先行していた令子が、左手前の部屋を覗き込む。


「一人一部屋を見よう」


 旬はそう言うと、左奥の部屋の扉を押し開けた。大きさからして、ダブルベッドが部屋の右奥隅に置かれている。

 この家の夫婦の寝台だったのだろうか?


 他には何かの本が、数冊残っている本棚に机や椅子などが残っていた。


「こっちにはベッドが一つ残っている」

「俺が見た部屋もそうっす。シングルベッドっぽいですね」

「あたしが見たこっちの部屋は、シングルベッドが二つあったわ」

「この部屋は物置きみたいです。ベッドとかはありませんでした」

「……ここで俺たちのリーダーを決めませんか?」


 ずっと考えていたのか。性格故か。

 右腕で挙手しながら剛大が、迷いを見せずに提案する。


「リーダーを決めておかないと、さっきのガーゴイルが襲って来たみたいな、いざという時まずいと思うんですよね」

「それは言えているわね」


 剛大の言葉に令子が同意する。


「そ、そうですね。いまみたいな、何もないときに決めておかないと」


 言いながら静香は三人の顔を伺う。


「……ふむ。そうしようか」


 異論はないが、こういう役職は年長者が務めるものというイメージが、旬の脳裏をよぎる。


(何にせよ、確率は四分の一で、誰かが務めなければならん……心の準備だけはしておくか)


「全員同時に、リーダーに相応しい人を指すということで」


 剛大の言葉に三人は無言で頷く。


「じゃあ、せーのっ」


 自分で自分を指し示すのは過信ではないか? かと言って、誰も差さないのは無責任だ。そう思った旬は、右手で令子を指すも他の三人の腕は、全てが旬に向けられていた。


(やっぱりか……)


 薄々そんな気がしていただけに旬は、心の中でため息をこぼすに留めた。


「もちろん旬さんに、全てを押しつけるなんてことはしませんし、俺たちも全力で旬さんを支えますんで」

「……ああ。俺で良ければ、最善を尽くさせてもらう。まずは初仕事として部屋割りを決めるか」


 単なる割り振りだ。

 初仕事と言っても、深く考える必要はないだろう。


「剛大は身長が高いからな。俺が見たダブルベッドがあるこの部屋を使ってくれ」

「あざっす!」

「俺は剛大が見たこの部屋を使って、悪原さんと湯栗さんは、二つベッドがある部屋を使ってくれ」

「「はい」」


 混雑時の厨房に比べれば、朝飯前以前の仕事であった。




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