第5話 総合一位の小説世界へ(5)
幸い、家屋にたどり着くまで魔物の襲来はなかったが、剛大が発見したのは廃村の家だったようだ。
「これは……村人を探すまでもないだろうな」
四人の目の前にある、村であったろう場所は、草の海に半分ほど沈んでいた。
色褪せたレンガ造りの家々は、損傷も激しい。
半ば崩壊している家もあった。
どれくらい放置されれば、ここまで荒れ果てるのかは分からない。ただ、住民が一人もいないのは分かる。
村人を探す手間が省けた。
そのメリットよりも、デメリットの方が遥かに大きいのは言うまでもない。
特に精神的な意味での。
「「「……」」」
旬以外の三人は一様に言葉を失う。
見知らぬ世界に放り込まれた挙げ句がこれでは無理もない。旬は呆然とする三人を横目に見ながらそう思った。
旬は柏手を二回打ち鳴らす。
「残念な気持ちは分かる。だが、現実から目を背けていても何も変わらない……と言っても今日は色々あり過ぎた。動くのは明日からで良いだろう」
空からは青みが抜け、昼から夕方に傾きつつある。
この村で情報を探るにしても、時間が遅すぎる。
今日は寝床の確保と食事。軽い打ち合わせ程度に留めておくべきだろう。
旬はそう判断した。
「みんなはどうだ?」
俺の一存で決めるのはまずい。
そう思った旬は三人に提案する。
「……あたしは飯島さんの意見に賛成します。いまから村内を色々探すにしても中途半端になるだろうから」
「そうっすよね。それだったら、今日は寝る場所の確保とかにした方が良いですよ。明るい内に」
「そ、そうですよ。私も……あ、そう言えば私、まだ名乗っていませんでしたね。私は
言って静香は勢いよく一礼した。
簡素な自己紹介に気負い過ぎだが、嫌味が一切ないひたむきさに三人は、微笑ましさを表に出した。
「俺は飯島旬。本業は料理人だ」
「あたしは悪原令子。よろしくね。静香ちゃん」
「俺は無双剛大。高校生。子供の頃から空手をやってて。最近になって、小説投稿サイトで小説も書き始めたんだ。えっと……あれ? スマホがない」
剛大は困惑気味に、全身を両手で探りながら、家を出た時はあったのにと言った。
「無双君もそうなんだ。あたしも主役がゲームの悪役令嬢に転生した小説を書いているんだ」
「恥ずかしながら私もです……農大生の女子が異世界でスローライフするお話を書いています」
「!」
旬は心の目を見張った。
四人共が小説を書いている。
偶然の一致。
その一言で片づけるには無理がある。
「……いまは現状の把握に努めたい。落ち着いて話せる場所を確保しよう」
三人は頷き、四人で廃村内を捜索した。
ほとんどが平屋であるのに対し、目立った破損のない、二階建てのレンガ造りの家屋をほどなく発見した。
(村長の家だったのだろうか?)
答える者がいない疑問を旬は、心中で唱えた。
廃棄されたとはいえ、他人の家に不法侵入することに後ろめたさを感じるも、部屋数も多いだろうし、何より破損がない。
(緊急避難なので仕方がないんです。少しの間お借りします)
旬は心の中で弁明する。
採決を取った結果、全員一致で今夜の寝床は決定した。
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