第4話 総合一位の小説世界へ(4)

 ガーゴイルの残骸は、轟音を立てて地面に激突。その様を見たもう一体は見るからに怒り狂う。


「ゴギャアアアアアアッ!」


 石像の怪物を両断したことで、月光つきみつへの信頼は揺るぎないものとなった。

 ぱっと見だが、刃こぼれの一つもなさそうだ。


 増援への警戒を怠らずに旬は、月光を正眼に構える。


 理性を失った魔物は、一直線に飛び掛かってきた。

 冷静さと武器への信頼を併せ持つ、旬の敵ではない。

 単調な突撃を難なく左に躱した旬は、上から下に月光を振るい、ガーゴイルの頭を胴体から切り離した。


「ふぅ――――――っ」


 細く長く息を吐いた後で旬は、魔物二体の沈黙を確認。月光を鞘に納めた。


「……す、すげぇ。すげえよ旬さん。ガーゴイルを瞬殺じゃないっすか!」


 剛大は歓声を上げた。


「本当です。飯島さん」


 一見プライドが高そうな令子も、手放しで感激している。


「……は、はい。お見事でした」


 まだ名前を知らない、眼鏡の若い女も、軽くためらいながら旬の腕前を褒めた。


「俺のな……いや」


 眼鏡の女性に名乗ろうとしたところで旬は、口を閉ざした。ここが魔物の領域であるのはいましがた、身をもって味わった。


 遮蔽物と言える物は草しかない。空から丸見えなこの場所で、のんきに自己紹介は出来ない。


「どこか身を隠せそうな場所まで行こう。話の続きはそこで」


 月光を納刀しながら旬は口を開く。


「そ、そうですね。それが賢明だと思います」


 旬と眼鏡の女は、辺りを警戒しながら会話する。剛大と令子も、強張った顔で辺りを見渡していた。


 白い眼鏡の女の髪は紺色で、肩の下辺りで切り揃えられた髪を、顔の両端だけを残し全てヘアゴムで纏めている。

 身長は百五十後半くらいだろうか。

 大人びた顔つきの令子と違い、低めの身長と相まって、幼い印象を旬は覚えた。


 黄色の長袖の上から、黒いジーンズタイプのサロペットの組み合わせは農家を思わせた。くわや野菜類を持たせたら、さぞかし似合うだろう。

 旬は勝手な想像を浮かべた。


 スタイルは並だが、知的さが魅力の彼女を含む三人から異論は出なかった。


「……旬さん。あそこ。家のような物が幾つも見えます」


 上司に伺いを立てる部下のような言い方で剛大は、彼方を指差す。

 旬は目を細めた。

 そうすることで辛うじて、彼方の小さな点が家であるのに気づく。


「よく見えたな。あんなに小さい物を」

「昔から視力は良いんすよ。ゲームも学校の勉強もやらなかったから。WEB小説も最近書き始めたんです」


 自慢気に剛大は胸を張る。


「とにかくあそこまで行こう。人がいたら聞き込みが出来るかもしれない」


 いま必要なのは、落ち着いて話し合いが出来る場所である。

 村人が排他的である。その可能性もあるだろうけど、そのことを前提に考えていても仕方がない。

 四人は一塊になって歩き出した。


(流石に石は食えないからな)


 料理人として。ダンジョングルメ物ライトノベルの作者として旬は、ガーゴイルの死骸に目を向ける。


 旬が知る限り、生きた石像なんて物語の中にしか存在しない。

 俺は夢の中にいるのではないか?


 物語の中にしかいない存在を前に、その考えが思い浮かぶも、旬は即座にそれを否定した。


 先ほどのガーゴイルとの一戦。

 夢の中にいるにしては、体が思い通りに動き過ぎであったし、手の感触など。生々しい刺激に溢れていた。


 これは夢であるという線も、濃密な現実感の前では、水に沈めたマッチの火でしかない。


 三人も口には出さないが、旬と同じことを考えているように思えた。


(どう考えてもここは、現代日本じゃないよな、やっぱり)


 それでも旬は、三人をいたずらに不安がらせないよう、心の中で呟くに留めた。

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