第7話 私がほしいと思ったら

「――それで、何で命を狙われてるの?」


 お風呂から出て、シャーリィは改めてロエに問いかけた。

 当然、狙われる理由くらいは聞いたっていいだろう。


「私が魔女だからです」

「……? それって答えになってるの?」

「答えですよ。魔術師の最高位の称号の一つですから。この地位を狙っている者はいくらでもいるんです。つまり、ライバルを蹴落とす意味でも、ね?」


 ロエの命が狙われた理由は単純――魔術師としての実力があるから、というものだ。

 魔術師の世界がどういうものか、ロエは詳しいわけではない。

 けれど、ロエはまだ若く、魔女と呼ばれるようになってからも間もない。


「だから、ちょうどいいタイミングでしたよ――あなたほどの実力者が奴隷として売られていたのは。多少、値が張ったとしても、手に入れる価値があると判断しました」


 なるほど――理由としては十分に理解できる。

 ロエは命を狙われているのなら、シャーリィは護衛として買う理由はある。

 当然、不当な扱いをする理由もない――だって、命を守るために必要なのだから。


「私があなたを買った一番の理由とも言えますね」

「そういうこと……」


 シャーリィとしては、やはり不幸中の幸いだったと言えるだろう。

 ロエにとって、シャーリィは身の安全を任せたい相手なのだ。

 ただ、そうなるともう一つだけ――疑問が残る。


(……どうして、キスしたんだろう?)


 そう、ロエはシャーリィに対して突然、キスをした。

 護衛にするだけなら、別にキスをする理由などどこにもない。

 キスのことを思い出して、シャーリィの頬は少し赤く染まる。


「……もしかして、キスをした理由を知りたい?」

「……へ? いや――えっと、はい」


 否定しようとしたが、やはり気になるものだ。

 すると、ロエはシャーリィに迫る。

 再び、キスをするような距離で、だ。


「それは、私があなたのファンだから」

「……ファン?」

「そう。その年齢で、『Sランク』にまで上り詰めた――私とあなたは同世代ですから。憧れの気持ちくらい持つのは普通ではないですか?」

「その、憧れの気持ちとキスに、どういう繋がりが……?」

「どうだと思います?」


 さらに近づいて、耳元で囁くように――シャーリィの身体が少し震えた。

 そんなシャーリィの姿を見て、ロエはくすりと笑う。


「そんなに何度もキスはしませんよ。でも、私がほしいと思ったらする――主人と奴隷というのは、そういう関係です」


 ロエはそう言って、部屋を出て行った。

 残されたシャーリィは、脱力するようにへたり込む。


「……結局、どういうことなの……!?」


 シャーリィにとって、キスをする関係というのは、恋愛感情を持つ相手だと考えている。

 護衛のためにシャーリィを買った――本当にそれだけなのか、ロエの真意は分からない。

 けれど、彼女を守る以外にも、時々キスをすることも確定している――そんな日々が続くことだけは、確かだった。

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騙されて奴隷になったSランク冒険者が没落令嬢に買われるお話 笹塔五郎 @sasacibe

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