第3話 まずは私から

 しばらくして――ロエが目を覚ました。

 いつの間にかシャーリィも眠ってしまっていたようで、ロエに起こされる。

 どうやら、色々と心労が溜まっていたのは間違いないようだ。


「さて、まだ時間は少し早いですが――今日のところはゆっくりしたいと思っています」

「……今、寝て起きたばかりなのに?」

「仮眠程度でしょう。ですが、私も少しは休めました。それに、もう夕方近くになっていますから」


 そう言われて確認すると、確かに日が傾きつつあった。

 どうあれ、シャーリィはロエに従うしかない――そういう契約なのだから。

 すると、ロエは何か思いついたように口を開く。


「そうだ。せっかくですし、お風呂に入りましょうか」

「!」


 ロエの言葉に、シャーリィは少しだけ目を輝かせる。

 お風呂は、シャーリィにとって安らぎの一時で――好きなものの一つだ。

 冒険者として遠征している時は、特にお湯など入れる機会が少ないこともある。

 水浴びでも十分と言えば十分だが――やはり、温かい湯というのは身体が休まるものだ。


「えっと、それは、つまり……?」


 入ってもいいということか――シャーリィは、ロエに確認するように視線を送る。

 すると、ロエは頷いて答える。


「はい、一緒に入りましょうか」

「え、一緒に……?」


 思わず、シャーリィは驚いてしまう。

 ――先ほど、キスをされたことを思い出して、思わず視線を逸らしながら、


「で、でも、ロエさんも一人の方がゆっくりできるんじゃ……?」

「私はあなたと一緒に入りたいと言っています。嫌ですか?」

「嫌、というわけではないけど……」


 ――シャーリィに拒否権があるわけではない。

 それに、ここで変に渋ると、お風呂に入れない可能性だってある。

 少し悩んで、シャーリィはロエに言う。


「…・…分かった、一緒に入ろう」

「そう言っていただけると嬉しいです」


 半ば強制だったようにも感じるが、ロエは確かに嬉しそうではあった。

 二人で脱衣所に向かい、身に着けていた衣服を脱ぐ。

 ロエは意外と着痩せするタイプのようで、膨らんだ胸がシャーリィの視界に入る。


「……気になりますか?」

「あ、ご、ごめんなさい!」

「? 謝る必要などありませんよ。一緒にお風呂に入るのですから」

「た、確かに……」


 ――とはいえ、相手は元とはいえ、貴族の令嬢だった人だ。

 どことなく、そういう高貴な身分の人の裸を見るのは、シャーリィにとって抵抗感がある。

 だが、こんなところで一々反応していては、身が持たない。

 意を決して、シャーリィも服を脱いで、ロエと共に風呂場へと入る。


「少し狭いからもしれませんが」


 確かに少し狭くて――二人で入ると、身体が触れる距離くらいで立つことになる。

 一人で暮らしている家なら、これくらいが普通だろう。

 家に浴室のない家だってあるくらいなのだから。


(……何でだろう、あんまり顔見知りじゃない人と、こういう狭い空間に入るのは、やっぱり緊張する……!)


 そんなシャーリィの気持ちをよそに、ロエは相変わらずの澄まし顔のまま、浴室に備えつけてあった椅子に腰を下ろし、


「お互いに背中を流すことにしましょうか。まずは私からお願いしますね」


 流れるように、そんな風に言い放った。

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