第10話 探索
「大丈夫よ、私たちなら」
心配そうに見つめた父の目が、歓喜へと変わる瞬間を僕は見逃さなかった。
「そうか! なら準備が整い次第、すぐに向かってくれ」
「ちょっと、待て待て。なんで俺たちも……」
もはや、この遺跡バカ親子には側の声など届くはずもなく、半強制的に遺跡の内部へと連れて行かれた。遺跡内は1メートル先も見えないほど暗く、まさに一寸先は闇といった感じだ。
「ケンジ、光とか出せない?」
「そんな便利な――いや、昨日購入したアレがあったな」
昨晩、総走行距離が1000キロに達したことでポイントが貰え、そのポイントで煙幕発生装置と夜間視界装置を購入していた。この暗視機能があれば遺跡の中だってスイスイだ。しかし、暗視が使えるのは僕だけ。目の前を照らすライトとは違い、このふたりは先ほどまでの景色と何ら変化は無い。
「ということで出発!」
ふたりを僕の上に乗せるのにも慣れたものだ。っていうか、親父さんから探索用のアーティファクトでも借りてくればよかったのに。
戦車は慎重に遺跡の入り口を通過し、キャタピラが石の床を静かに滑る音だけが響き渡った。内部は苔むした壁が続き、石造りのアーチが頭上に低く迫っていた。戦車(僕)は慎重に、狭い通路を無理なく進んでいく。
「なんだコレは」
「凄い……」
やがて正面に無数の古代の刻印や壁画が現れた。僕らはその異様な光景に圧倒されながらも更に奥へと進む。突然、戦車は前方の大きな石板に行く手を阻まれた。その石板は何世紀も前の文明の産物であり、微かに動き出す気配を見せた。
「ここから先は特に慎重に行こう」
緊張感が伝わるリリアの声で僕は後退し、別の通路を探した。これがドライバーによる操縦なら狭い空間の移動は至難の業だったろうが、自身の体なので割とスムーズに遺跡の内部を進んでいった。
壁には無数の文字が刻まれており、それがどんな物語を語っているのか、僕らには知る由もなかった。
やがて、広い空間に出た。そこは、巨大なホールのような場所で、天井は高く、四方に続く通路がいくつも存在した。
「この場所が中心のようね」
リリアがそう呟いた瞬間、遺跡内に置かれた灯籠が四方を照らし出し、中心に立つ巨大な石像が浮かび上がった。
「アーセルディア、カールヴァン、レアナ、ヴァイゼル……」
「何それ」
「大昔の神々の名前さ。俺もその名を聞くのは久しぶりだ」
その石像はかつての神々の姿を模しているらしく、その威圧感に息をすることも忘れそうだ。リリアは興味深そうに石像とその周りを見ているが、僕とアルフは今すぐにでもこの場から逃げ出したい気分になっている。石像が今にも動き出しそうで、怖くてたまらないのだ。
「な、なあリリア……ここまで危険は無かったのだし、もう良いんじゃないか?」
「いいえ、この先に何があるのか益々気になってきたところよ」
学者気質は興味の無い者にとっては毒でしかない。
結局、僕らの説得も虚しく更に遺跡の奥へと進むことになってしまったわけだが、石像のいた空間から伸びた通路の先はそれぞれ行き止まりで、誰が何のために造った遺跡なのかこの場では分からず終いであった。
「どうだった!?」
遺跡を出るなりジェラルドが興奮気味にリリアの両肩を掴んだ。
「そうか……」
遺跡内の状況を説明すると、彼は少々寂しそうに項垂れた。遺跡といえばお宝、だが今回の探索では何も――いや、あったはあったがお宝と言って良いものかどうか。
「古代神の石像オオオオオ?!! それを早く言わんか!」
ジェラルドはどこから出したのか探索用の荷物を担ぎ上げると、他の村人数名と遺跡へと入って行った。
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