第8話 偏見ナシ

 旅は道連れとはいったものの、いずれにしろ行くあての無い僕と、特に目標が無いアルフはリリアの遺跡研究へ同行することとなった。


「それで、その遺跡っていうのはどこにあるんだ?」

「近いところだとウィローブルック村ね。詳しいことはそこで聞けるはずだわ」


 そのウィローブルック村は、王都エリシアの南に位置するノースフォレスト森林地帯を抜け、そこから更に南にある小さな村。人口は50人に満たず、緑豊かな草原と静かな川に囲まれた美しい場所なのだそう。

 しかし、美しいだけでは人は寄らず、かといって王国から見放されているわけでもなし、なぜそんな辺鄙な場所で生活ができるかというと。


「彼らは遺跡の権利を全て所有しているのよ」


 その遺跡は希少な鉱石や、その他素材が多く眠る宝物庫であるのだが、内部は日替わり迷路のように道がランダムに変化し、かなり扱いが難しいのだとか。そのおかげで利権目当てで近づく貴族もいなければ、お宝を略奪しようと遺跡に入る賊もいないらしい。


「ある意味、守られた村ね」


「じゃあ、リリアはその遺跡の謎を解こうと?」

「まあね。村にずっと住みながら研究をしている人がいて、その人に会いたいってのもあるけど」


 研究者同士、色々と積もる話でもあるのだろう。僕らには分からないが。


 ウィローブルック村への道中、僕とアルフは険しいノースフォレスト森林地帯を進むことになった。

 木々が茂り、時折小鳥のさえずりが聞こえる静かな道は、どこか心を落ち着ける場所だったが、気がつけば道に迷うことも少なくない。


「あ、見えてきたわ」


 ほどなくして視界が開け、草原と穏やかな川が見えてきた。ウィローブルック村はまさにその風景の中に溶け込んでいた。

 中心に聳え立つ大きな木。それは村の入り口からも望むことができ、リリアによればこの村のシンボルとなっている柳の木なのだそう。


「通行料、ひとり銅貨1枚だ」


 ちゃんと僕も払うこととなってしまい、今回はアルフが立て替えてくれた。まあ、ここまでのほとんどの道のりを僕に乗って楽をしていたのだし、その分と考えれば安いものだが、自分でも通行料くらいは稼ぐ手立てを考えないとな。

 

 そんなことを考えながら村に住むという研究者の家を探すが、どうもこの村の住人は感覚が王都とは違うようで、それというのも僕を見ても表情ひとつ変えず、あるいはにこやかに笑みを向けて会釈をしてくれるのだ。これも遺跡の影響なのかは分からないが、思っていた以上に随分と暮らしに余裕がある様子。男性も女性も非常に恰幅が良い。


「たぶん、ここだ……」


 村の中心にある柳の木から少しの場所、これまた大きな家が建っている。リリアが指を差したのはその隣にある小屋――いや、小さめの家だった。


「何か御用ですか?」


 今にも壊れそうな扉の前で僕らが入ろうか躊躇していると、中から年配の男が顔を出した。彼の痩せた体、白髪と眼鏡の組み合わせから学者らしい威厳を感じた。


「お、お久しぶりです!」

「うん? なんだ、リリアじゃないか。お連れさんもどうぞ中へ」

「僕は入れませんよね」

「あ、ああ……じゃあ外に机と椅子を持ってこよう」


 反応から察するに、どうやら僕は荷台か何かだと思われていたらしい。だが流石は学者。すぐに生きている者だと察して気を遣ってくれた。


「私はここでルミナス古代遺跡の研究をしている、ジェラルドという者です」

「俺は冒険者のアルフレッドで、コイツは亜人種のケンジだ」 


 ジェラルドは「ほお」と興味深そうに僕を観察している。オッサンに見つめられるのはなんとも気まずいので話を切り出した。


「それで、おふたりの関係は?」

「ああ、実は私とリリアは親子なんです」


「「お、おやこおおおお?!」」



 ここまで似ていない親子もいるものか。 

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