第7話 仲間

「じゃあ、一緒に旅をしよう!」


◇◇◇◇◇




「今、貴方が何を考えているのか当ててあげましょうか」


 話を聞いていたのか、リリアがテントから顔を出した。


「結構、当てられる気がする」

「罪を償って楽になろう、でしょ?」

「……」


 女の勘はやはり当たる。

 リリアはテントから這い出てぶるるっと身を揺らすと、焚き火の側まで来て俯くアルフの顔を覗き込んだ。


「それは絶対に許されないことよ。冥界の女神は貴方がどれだけ残忍で、非常な選択をしてきたのかを知っている。でも同時に貴方が助けた命の数が測りきれないほどあることも知っているわ」

「俺は人を助けたことなどない、ただの殺人鬼さ」

「いいえ」


 彼女はまるで幼子を叱る母親ようにアルフの両手を握り、また慰めるように優しく呟いた。


「目に見えないだけで助かった人は多いわ。貴方が殺さなかったら、その人は体内からゴブリンが這い出てくるまで痛みに耐え、やがて絶望し、その嫌悪と憎悪の中で死んでいくしかなかったの。例えその人が貴方に命乞いをしていたとしても、ね」


 瞼の裏に映る残酷で最悪の夢。それは紛れもなく彼が見て感じた風景であり、目を瞑ることも耳を塞ぐこともできず、そして生涯忘れる事のできない現実。「乗り越える必要も、逃げる必要も無い」と彼女は続ける。どんなに楽しい記憶で上書きしようとも、こびり付いた記憶は拭うことのできない汚れだ。


「貴方がどうしてこの険しい道に進んだのかは聞かない。でも、別の道はすぐ近くにあるはずよ」


 彼が正義を胸に選んだ道は僕たちが経験しようもない、想像すらできない過酷なもの。自分で言うのもなんだが僕たちに出会ったのは、彼の人生において最大の岐路と言えるのでは無いだろうか。当然、それはリリアにも僕にも言えることだ。

 この運命に導かれるも拒むも、それぞれの自由であり、神様が見てくれているのだとしたら、決してその選択を咎めたりはしないだろう。


「そうか、そうだよな……」


 赤く暖かい焚き火が灰色に変わるその時まで、彼は大剣を握りしめながら大粒の涙を流し続けた。


 翌朝、ピーチクという小鳥の囀りで目を開けると、焚き火の前、大きな倒木に腰をかけたまま寄り添うように寝ているリリアとアルフがいた。「僕だけ仲間はずれかよ!」なんて、気の利かない言葉をかけることはしない。でも妙に心地良さそうに寝ている2人を見ると悪戯をしたくてたまらなくなった。


 鼓膜が破れないように、ちょっと離れて――と。


〈ドッゴオオオオン〉


「な、なんだあ?!」

「なになになになに!!??!」


 どっきり大成功――のはずが、あまりの衝撃に2人は抱き合ったまま固まっていた。

 やがて状況が読み込めると、彼らはまるでバネのような勢いで瞬時に離れた。そこまでか、とも思ったが2人とも年頃なのだから致し方ない。


「い、いい朝だなあ……」

「そ、そうねえ」


 空は至って曇天である。

 支度を整えつつ、僕は2人に「戻ったらどうするのか」を尋ねてみた。


「私は旅を続けるわ。遺跡の研究のために会わなくてはいけない人がいるのよ」


「俺は冒険者を続けるさ。でも、ゴブリンはもう辞めだ」


 僕は「お前はどうするんだ」と聞かれる前にこの運命に誘われてみることにした。


「じゃあ、一緒に旅をしよう!」


 キョトンとする2人。

 でも僕は本気だよ?見てよこの目を!

 え?目なんてないだろうって?

 

「マジで言ってるのか……?」

「もちろん」

「本当に本当?」

「うん」


 旅は道連れ、戦車は大剣士アルフレッドと魔法使いリリアを仲間にした!

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