第4話 可能性

 戦闘が終われば後は穏やかな風景が続いた。車輪キャタピラはガタガタと頑張ってくれているが、気になるのは燃料が保つのかどうか。そもそも、燃料という概念が存在しているのかどうかも分からない。こんな時は、便利なに聞くしかない。


【燃料はありません。動力源は大気中の魔素や、倒した魔物からの経験値で補います】


 なるほど、実に環境に優しい。さっきの砲撃で何体かのワイバーンに直撃したから、経験値の得られているはず――とすれば、しばらくは燃料切れの心配は不要だな。


「おい、もっと早く動けないのか」

「うるせえよ。これでも全速力だ」


 言い返すと大剣の男は黙り込んだ。確かに馬よりは早いが、少女の体調は悪化していくばかりでそれが気掛かりなのだろう。先の行動やその仏頂面からは想像できないほど情に熱い男のようだ。


「そういえば自己紹介がまだだったよな。僕はケンジ・タンク、自分が亜人だか魔人だかはよく分からんが、元は人間であることに間違いはない」

「元人間なのか……?」

「ああ、人間だった頃の記憶はあるから、きっと呪いの類だろう」


 と、いうことにしておいた。


「そうか、それは災難だったな」


 あれ?やっぱり案外いい奴なんじゃね、コイツ。


「俺は人族のアルフレッド・ブレイク。見ての通り大剣使いだ」

「わ、私はリリア・ウッド。一応魔法使いです……」


 少女は「自分も言わないと」と思ったのか、息を切らし、吐きそうなほど小さな声で自己紹介をしてくれた。

 

〈ガタンッ〉


「キャア!」


 小石を踏んだことでリリアが倒れてしまった。幸い車上から落ちることはなかったが、それよりも僕が気にするのは――。


「おい、俺の上でイチャイチャするな!」

「し、してねえよ!」


 衝撃で倒れた彼女をアルフレッドが受け止めてくれたおかげで、気せず座ったままお姫様抱っこのような形になってしまっている。


「す、すみません……」


 何だか頬が赤いお2人さん。まあ、どちらも美男美女って感じだし?悪くは無いんじゃないかな、うん。

 それにしてもこの数時間足らずでアルフレッドの印象はだいぶ変わった。クールで冷血、血も涙も無い男かと思っていたが、これほどまで女性に弱いとは。それはリリアだから、なのかもしれないけど。


 ああ、こんな時は人間の姿になりたかったな。進化次第では可能なのかな?


【可能、ではあります】


 珍しく歯切れが悪い。条件的な何かがあるのか。


【はい、人族、その他への進化をすると、別機体の戦車や戦艦への進化は不可となります】


 なるほど、人間か戦者、どちらかを選ばなければならなくなるわけか。これは後から聞いた話だが、人族になった時点でこれまで培ってきたステータスや攻撃方法は全て削除されるらしい。いわば第3の転生をすることになる――と。


 それでも恋はしたいよなあ。


 そんなこんな考えていると、段々と陽が落ちてきた。


「しゅ、しゅみません……ちょっと吐き気が……」

「おおっと!」


 僕が止まると、彼女はすぐ草陰に入ってゲーゲーと吐いた。


「ヤバいな。アルフ、あとどれくらいで着く?」

「かなり順調にきたから後少しではあるが――っというか、俺をアルフって呼ぶんじゃねえ!」

「だって長いから面倒じゃん」

「そこまでの仲になった覚えはない」


 ツンデレなのかもしれない。

 数分後、帰ってきたリリアを再び僕の上に乗せ、なるべく整った道を走るようにしながら進んだ。当たり前だが、舗装されている道なんて存在しない。だから整った道と言っても、この速さで砂利や硬めの草木なんかを踏むとそれなりに衝撃がくる。


「見えた、見えたぞ!」


 林の影から伸びる大きな鐘塔。出発から3時間半、ようやく僕たちは王都まで辿り着いたのだった。

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