Episode.20「刺客」
1
「・・・分かりました。行きます」
セシリア、ソフィアの話を聞いたレナードは渋々とした態度でストライクアルファとの合同探索を了承した。
「・・・レナード。貴方は今、自分を見失ってます」
眉を顰めながらソフィアの方を向いたレナードは微かに表情を鋭くした。
「自分を見失っていては、越えなくてはならないモノも見えません」
「・・・」
ソフィアから視線を逸らしたレナードは俯くと軽く溜息を吐いた。
(自分を見失っている、か。....確かに俺は、....今の俺は、そうかもしれないな....)
そう思ったレナードは顔を挙げたのち表情を鋭くすると数回頷いた。
「レナード。困難に直面した時、皆一度は自分を見失うわ」
「・・・」
「そう言う時は、初心の頃を思い出してみて」
「初心。....そう言えば此処に来た時は、何も考えずにがむしゃらに戦ってたな」
「下手に悩むより、その方が良いんじゃないかしら?」
「....」
セシリアとソフィアは顔を見合わせたのち頷き合うとレナードの部屋から出ようとした。
「何も考えずに戦うって、隊長には不向きなのでは?」
「?」
レナードの発した言葉に反応する様に振り向いたセシリアは微かに呆れた表情を浮かべた。
「その“隊長”って言うのも、もう少し気楽に考えてみなさい。隊長だからって、何もかも自分1人でやる必要は無いし、力む必要も無いわ」
そう言うとセシリアはソフィアに続いて部屋から退出した。
丁寧に扉を閉めたソフィアはすぐさまセシリアの横を歩いた。
「“初心に帰れ”ですか?」
「昔の自分がレナードそっくりだからね。その時言われたことを、まんま言ってみた」
「確かに来た当初と今じゃ、悪い意味で戦い方が違いますからね。ですが....」
「ある意味この言葉はギャンブルよ。一応レナードは意味を理解していたみたいだけど、色々と引っ掛かる節があるからね」
「そうですね。良い方向に転ぶ事を祈りましょう」
※
「・・・25、・・・26、・・・27、・・・28」
自室の床の上で夜の筋トレを行うカズキの脳内は不安で一杯だった。
レナードのチームと合同、と言うだけでも不安なのに、それに追い討ちをかける様にマルールビーストの四天王の存在と新種との遭遇リスクがカズキの不安を益々仰いだ。
そんなカズキに語り掛ける様にドアがノックされるとカズキは腹筋を止めた。
「はい?」
「サトミです」
「あっ、少し待って下さい」
カズキは慌てて立ち上がると拭ける範囲の汗を拭き、室内着を着るとドアを開けた。
「あっ、お取り込み中でした?」
「いえ特には」
カズキはサトミを部屋に招き入れた。
サトミはカズキが汗ばんでいる事と部屋の様子から、カズキが何をやっていたのかすぐさま察した。
「夜にも筋トレですか?」
「あっ、わかっちゃいました?」
「今日、訓練中に倒れたんですから、少しは休んで下さい」
「アッハイ」
サトミは微かに呆れた表情を浮かべながら椅子の上に座り込むとベッドに腰掛けるカズキと顔を合わせた。
「明日の出撃、不安ですか?」
「・・・出撃、と言うよりは四天王の存在が不安ですね」
「確かにそうですね。けど、カズキさんなら大丈夫ですよ」
「え?」
「カズキさんが負けるところ、想像出来ませんから」
「・・・」
軽く鼻息を吐きながら難しい表情を浮かべたカズキは頷いて返す事しか出来なかった。
「それに、カズキさんは放っておけない方なんです。だから、その....」
「?」
「成る可く、カズキさんの力になりたいんです。カズキさんが作戦を立て易い様にとか、カズキさんが怪我しない様にとか、カズキさんが負けない様にとか、そんな感じで」
何処か納得行った様な感じで頷いて返したカズキは僅かに表情を和らげた。それをみたサトミも表情を和らげた。
「私だけじゃありません。ずっとカズキさんを側で見守って来たシオリさんや副隊長のマツリさん、ナナミさんにミサキさんだってそうです」
「・・・人に支えて貰えるって、凄く有難い事ですね」
「?」
「本当、いつもありがとうございます」
「いえいえ、此方こそです」
サトミは表情を笑みを浮かべながらそう言うと声に出して笑った。それに吊られてカズキも笑った。
※
2
次の日....
濁流を降り、深層へと入り込んだストライクアルファとチャーリーは目の前に広がる光景に唖然とした。
「雪山⁉︎」
「軽く吹雪いてますね」
「こんなの、初めて....」
目の前に広がって居たのは雪で覆われた山岳地帯。
風で舞った雪、降り注ぐ雪、深層特有の薄暗さが彼らの視界を遮る中、カズキは前に歩み出た。
「下へ、向かいましょう」
カズキの発言にマツリらは頷いて返すと雪の中をゆっくりと進んだ。
(こりゃ長時間の活動は難しいぞ....)
そう思ったカズキは雪に脚を掬われない様、慎重に歩いた。それを続く様にチャーリーチームもゆっくりと後を追った。
5分後、
一行の耳に咆哮が入り込んだ瞬間、ヘレナとマシュは身構えた。それをみたジュピターは鋭い表情を浮かべ、
「ジャイアントの咆哮だな。近い」
「・・・」
「....」
(うーん。此処は、)
「カズキ」
「はい?」
「咆哮の主が近い。どうする?」
レナードの問い掛けにカズキは考え込んだ。
「探して出して戦う?」
「・・・いや、そんなメンドクサイ事しなくても」
「?」
カズキはすぐさま全身から魔力を放出した。それを見たレナードも同じ様に全身から魔力を放出すると彼女達はすぐさま変身の構えを取った。
「!」
すぐさまカズキは右腕にバスターソードを装着すると雪や岩壁を崩しながら姿を現した四足歩行のジャイアント級の顔面を振り向き際に斬り裂いた。
「向かうから来たのなら、好都合」
「レナード待て!」
「!」
「後ろ!」
カズキの言葉を前にハッとしたレナードは後ろを振り向いた。するとそこにはラージ級に率いられたミディアム級の群れが複数迫って居た。
「!」
変身を終えたジュピターはすぐさま前に出ると重力のある一撃でラージ級を左右真っ二つに斬り裂いた。
「挟み撃ちかよ」
カズキがそう呟いた瞬間、ジャイアント級は身の一部を分離すると複数のスモール級を産み出した。
「ッ!。マツリ・ミサキ・シオリはチャーリーを援護、他2人はジャイアントが産み出した個体を頼みます」
「わかった」
「了解」
「ジャイアント級は自らが産み出したビーストの死骸を吸収しては産み出し、吸収しては産み出すを繰り返すわ。早急にジャイアント級を倒して」
「分かりました」
カズキは魔力を使って高く飛び上がるとジャイアント級の左前脚を切断するとバスターソードの右側のレールにランチャー砲を装着させた。が、
「!」
切断した筈の傷口は既に塞がっており、強固な皮膚に覆われて居た。
(学習しただと?)
カズキは眉間に皺を寄せたのちバスターソードを消滅させると左前脚の再生を許した。
しかも、切断部位が分裂し、ミディアム級に変わったのを見たカズキは戦い方を切り替えた。
「ミヅハノメ。ちょっと新しい剣と銃を借りるぜ」
『(自由に使え)』
カズキは【打撃と防御に特化した複合剣“メイスソード”】を右腕に装着し、左腕に【貫通性能の高い光線を放つ複合銃“サイクロンインパルス”】を装着するとサイクロンインパルスのチャージを開始したのちメイスソードでジャイアント級の頭部を殴打した。
(外壁装甲が割れた。んじゃ装甲が再生する前に、)
カズキは魔力で空中ジャンプしたのちヒビ割れた部位にサイクロンインパルスの銃口を合わせ、光線を撃ち出すとジャイアント級の頭部を貫いた。
「あれは、新しい武器ですか?」
「流石ですね」
頭部を貫かれたジャイアント級はその場に倒れ込むと自らが産み出したミディアム級を道連れに絶命した。
※
3
メイスソードとサイクロンインパルスを消滅させて地面に着地したカズキは微かに切らした息を整えると今だに戦闘を続けるレナードの方を向いた。
「大丈夫ですか?」
「?。ああ、大丈夫だ」
サトミにそう返したカズキ。が、カズキはすぐさま目を見開くと右腕にミディアムソードを装着したのち左手でサトミを突き飛ばすと土煙りの中から飛び出して来た二足歩行型マルールビーストの剣撃を受け止めた。
「グリードワン?。いや、ジャイアント?」
「どちらにしても3メートル弱の個体なんて、聞いた事も見た事もありませんよ」
「新種か....」
カズキは呆れながらジャイアント級の剣撃を交わすとミディアムソードを横に振り、ジャイアント級ナイトタイプと鍔迫り合いになった。
(此奴....)
カズキは左腕にノーマルピストルを装着するとジャイアントに銃口を向けた。
するとジャイアントはすぐさまカズキのソードを払い除けると後ろに下がった。カズキはお構い無しに引き金を引き、マジックショットを放った。だが放たれたマジックショットは全て弾き返され、ジャイアントにはノーダメージだった。
「(これすらも防ぐか)」
『(学習してるな。厄介だぞ)』
「(あれは魔力コーティングか?)」
『(少し違う。もっと厄介だ)』
「(え?)」
ミヅハノメの発言を前にハテナを浮かべるカズキ。するとジャイアントの隙を突くようにナナミがジャイアントに斬り掛かった。
「貰った!」
勢い良く刀を振り下ろすナナミ。が、ナナミの振り下ろした刃はジャイアントに挿入される事はなかった。それどころか、
「痛っ!」
「⁉︎」
攻撃を仕掛けた筈のナナミが逆にダメージを受けると言う、訳のわからない現状が起きた。
(まさか....)
不審に思ったカズキはジャイアントに斬りかかった。ジャイアントの剣撃を複合銃の盾で受け止めるとジャイアントの胴体を下から上に大きく斬り上げた。ジャイアントはバックステップで剣撃を避けたが浅いながらもジャイアントを斬れた。....様に思えたが、
「ガッ!」
逆に斬られたのはカズキだった。ジャイアントに付けたのと同じ傷を喰らってカズキはその場に崩れた
「カズキさん!」
「来るなサトミ!」
「!」
「・・・」
「(カウンターシールドか。厄介だな)」
『(だが魔力の層の向こう側を斬れれば、奴にダメージを与えられる筈)』
「(成る程。だからナナミは斬れなくて、俺は斬れたのか。・・・だったら、)」
カズキはその場にしゃがみ直すと複合剣と複合銃を消滅させ、別のものを装着すると複合銃を前に構え、カウンターの構えを取った。
(カウンター勝負だ)
ジャイアントは気味の悪い笑い声を挙げると剣を構え、突っ込むと刃先を立ててカズキを突いた。
「!」
「カズキさぁん!」
何かを貫いた様な音がしたのち雪煙に包まれる両者。サトミは悲鳴に近い声を挙げ、カズキを呼んだ。それと同時にマツリ・ミサキ・シオリがサトミらのそばに着地すると雪煙に包まれる両者を見た。
すると雪煙が晴れると同時に何か貫かれた腕と血で染まる雪が彼女達の目を映った。
「「カズキさん!」」
「「!」」
前に飛び出そうとするサトミをナナミが、シオリをミサキが止める中、マツリは信じられないものを見たかの様な表情で目を見開いた。
「カズキさん、カズキさん!」
「サトミ、良いから落ち着いて」
「全くだよ」
「え?」
「!」
「・・・」
雪煙が晴れると同時にカズキの声が彼女らの耳に入った。
カズキは左腕を貫かれながらも身体は無事だった。
複合銃と腕を囮に間一髪のところで、ジャイアントの剣を避けたのだ。
「掛かったな。マヌケめ!」
そう言うとカズキは目を見開くと左腕に装着した複合銃の盾からジャイアントの魔力を吸収し始めると同時に右腕に装着した複合剣をジャイアントの左腕に当てた。
「テメェの身体はカウンターシールドで覆われてる。なら、これどうだ!」
カズキが左腕に装着して居た複合銃は“カウンターマグナム”。相手の魔力攻撃の魔力を吸収し、自身の魔力に変換するカウンター武器。
一方で右腕に装着されて居たのは【相手の攻撃を切断するか弾き返すかに特化した“カウンターソード”】
全身をカウンターシールドで覆われたジャイアントにとってはカウンターした攻撃をカウンターて跳ね返されると言う有様だった。
「凄い....」
「カウンター武器に、あんな使い方が....」
カズキはカウンターソードで左腕を切断し、左脇腹に刃を挿入した。カズキは相手の剣からある程度魔力を奪い取ると相手の剣から自分の腕を引き抜くと同時に奪い取った魔力を変換すると左脇腹に作った傷にカウンターショットを正確に撃ち込んだ。
魔力を奪い取られた状況且つシールドに亀裂が入った状態ではカズキのカウンターショットを防ぎ切れず、ジャイアントは大きなダメージを負った。
(まだか。なら、)
カズキは一度カウンターマグナムを消滅させてからもう一度カウンターマグナムを装着すると盾の先端をジャイアントの喉元に突き刺し、再び魔力を奪い取った。
「纏ってるシールド自体が魔力攻撃だから....」
「カズキさんのカウンターマグナムの吸収対象になる....」
カズキは目を見開くと盾を引き抜くと同時に魔力変換を行い、カウンターマグナムをゼロ距離で喰らわせた。
急所に強力な一撃を喰らったジャイアントはもはや虫の息より下だった。
(トドメだ)
カズキは複合剣と複合銃を消滅させたのち【剣状に収束した魔力で相手を焼き切る複合剣“マジックソード”】を右腕に装着させるとマジックソードを展開したのち地面にしゃがみ込むジャイアントを斬り裂いた。
カズキが複合剣を消滅させた途端、ジャイアントは電流が流れる様な音の後に凍結した様な音を出しながら分子分解されると風の前の塵の如く、崩れ去った。
※
4
分子分解された分子がカズキの後ろを漂う中、カズキは左腕を抑えるとその場にしゃがみ込んだ。
「カズキさん!」
サトミはすぐさま雪の中を駆け、カズキの側に駆け寄った。
(これは、私の負け....かな?)
心の中でそう思ったシオリはサトミの後を追う様にカズキの側に歩み寄った。
「ドジりました。盾の中層で防ぎ止めか刺さる箇所を逸らすつもりだったんですが....」
「全く、無茶し過ぎですよ」
カズキは一瞬だけ左口角を挙げると左手を握り締めたのち傷口に魔力を集中させた。
「カズキ!」
マルールビーストの群れとの戦闘を終えたレナードはカズキの側に駆け寄るとカズキの左腕を右手で持ち、左拳に左手を添えると自身の魔力を流し込み、カズキの傷口を完全治癒した。
「助かりましたレナードさん」
「こう言う事は、多分ヴィクトルの専門なんだがな」
そう言うとレナードは静かに立ち上がるとカズキに右手を差し出した。カズキはそれを右手で掴むとレナードの助力を借りながら立ち上がるとレナードに頷いて返した。
「アァア、アァア、アアァア〜ア」
「「!」」
2人はすぐさま声のする方を向いた。
「シーザー!」
「覚エテ貰エテ光栄ダヨ。雑魚君」
「!」
「リョウタも居るな」
「アリャ、バレテタカ」
そう言うとリョウタは崖から飛び降りるとシーザーの隣に着地した。
「僕ノ送リ込ンダ刺客ヲ2体トモ倒ストハ、流石ダネ。チョットハ強クナッタノカナ?」
「「・・・」」
「僕ノ可愛イペットヲ殺シタ御礼、キチントサセテ貰ウヨ」
そう言うとシーザーは全身を青い光に包み込むと40メートルはあるダークナイトに変身した。
「レナードさん」
「わかってる」
レナードは純白の光に包み込むと体内からナイフと鞘の様なものを出現させると鞘を右腕に嵌め、ナイフのグリップを指と指の間で挟む様に持つと鞘にナイフを挿入した。
「レナードさんなら、負けませんよ」
「?」
「レナードさんは、アイツなんか殺されませんよ。レナードさんが生きてる限り、レナードさんに負けはありません。レナードさんは、強いですから」
レナードは何処か納得した様な表情を浮かべながら頷くと表情を鋭くしたのち右腕に装着されたそれを高く掲げ、稲妻を集めたのち右腕を微かに青味掛かった純白の魔力で包み込んだのちそれを振り下ろすと全身を強く純白色に発光させると40メートルのパラディンナイトに変身した。
「サテ、僕モ行クカ」
リョウタは全身を青い光に包み込むと50メートルはある闇の巨人に変身した。
それを観たカズキも、表情を急変させた。それと同時に指先や爪先、頭部などから朱色の光が紋様の様な物を描きながら血管を辿る様に胸元に集まった。
「俺は絶対に、お前だけには、負けねェェェッ!」
朱色の発光体を吸収し、収束する事で胸元に出現したY字の発光体が朱色に点灯するとカズキは瞳をアクアグリーン色に輝かせた。
高濃度の魔力の塊であるY字の発光体が点滅する度にアクアグリーンの発光体を血管を辿る様に全身に送り出した。その度に身体を包むウォーターグリーンカラーの魔力を強くしつつ、発光体が腕を通過する度に両腕にアームドスレイヤーやエルボーエッジ等を具現化させていった。
そして一瞬だけウォーターグリーンカラー閃光を放ったカズキは49メートルの“スレイヤー”に変身した。
「「((行くぞ!四天王!))」」
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