Episode.19「壁を越えた者の力」

1


四天王の1人を名乗る人型とレナードが振り翳した刃先がぶつかり合い、鍔迫り合いになる中、レナードは人型が睨み付けた。


「四天王とか言ったな?名は!」

「“シーザー”、トデモ名乗ッテオコウカ」

「シーザー?」


その名を聞いた途端、レナードは表情を鋭くするとシーザーの片手剣を弾き返した。


(シーザー?その名前、何処かで....)


片手剣を握り直したレナードはもう一度シーザーに斬りかかる。が、シーザーは軽々レナードの斬撃を受け止めた。


「迷イヲ勢イデ誤魔化シテルネ。練度低過ギ、破壊者モタイシタ事ナイネ」

「何?」


シーザーは軽々レナードの斬撃を弾き返すと呆れた表情でため息を吐いた。


「時間無イカラ、ソロソロ終ワリニスルヨ」

「何⁉︎、ッ」


レナードが反応出来ない程の速さで距離を詰めるシーザー。レナードは本能的に身体中を纏う魔力の濃度を高めて防御体勢を整えた。


(馬鹿ジャン)


シーザーは刃先を纏う魔力の質を変えるとレナードをそのまま斬り裂いた。


「ガッ⁉︎」


シーザーはレナードの身体に纏った魔力を斬り裂くと同時にレナードの身体を纏う魔力を吹き飛ばし、レナードに強い衝撃を与えるとレナードを後方へ吹き飛ばした。


「コレガ破壊者?。相手ニナラナイナ〜」


シーザーは呆れ笑みを浮かべながら剣を空振りすると再び構え、レナードにトドメを刺そうとした。


「ッ!」


が、動こうとした瞬間、足元にマグナムマジックショットを撃ち込まれた事で動きを止めたシーザーは射線の方を向いた。


「・・・」


マグナムマジックショットを放ったのはソフィアだった。ソフィアは武器をマグナムモードからブレイドモードに切り替えるとシーザーに斬りかかった。


「ヘェ〜。少シハヤルノカナ?」


そう言いながらソフィアの剣撃を弾き返したシーザーは地面に着地したソフィアに斬り掛かった。


「・・・」


盾を前に構え、シーザーに突っ込んだソフィアはそのままシールドバッシュを仕掛けた。シーザーはそれを盾で防ぐとソフィアの剣撃を避けた。ソフィアはそのまま姿勢を低くしながら左に身体を回すと再びシーザーに剣撃を喰らわせた。シーザーはそれを剣で受け止めた事により2人は鍔迫り合いとなった。


「スコシハヤルネ〜。久々ニ血ガ騒グヨ」


そう言ったのちシーザーは荷重を利用しながらソフィアの剣撃を弾き飛ばすとソフィアが体勢を整える前に距離を詰めたのち剣を振り上げた。

ソフィアはシーザーの剣撃を盾で払い退けると体勢を立て直せない状態で剣を振り上げた。

当然の如くシーザーはそれを交わした。が、ソフィアはその隙を突くように体勢立て直すとブレイドとシールドを構え直した。







「何ヲシテイルシーザー」

「アァン?」


シーザーは苛立った表情で深層の方を向くと深層から飛び出して来た1人の人型に目を向けた。


「邪魔スルナヨ。“ガンツ”」

「貴様、REINA様カラノ命令ヲ忘レタカ?」

「・・・」


シーザーは舌打ちをしながら剣を鞘に仕舞うと二つ返事をしながらガンツと名乗る人型の元に歩み寄った。


「四天王ガ二人揃ッテモ、破壊者ガ雑魚ジャネ〜」

「彼奴ガ弱イダケダ。行クゾ」

「ハイハイ」


シーザーは呆れた表情を浮かべながら深層の出入口の側まで行くと指を鳴らした。すると交戦中だったマルールビースト達が2人の後を追う様に撤退すると深層の中に消えていった。


「退いて行く?」

「あの2人の男、一体....」

「・・・」


サイリは鋭い表情を維持しながら構えを解くと両眼瞑り、ゆっくりと息を吐いた。


「四天王、か....」


そう呟いたサイリは後ろから駆け寄るセシリアの方に顔を向けた。


「救援、感謝します」

「間に合った様でよかったわ。それより」

「えぇ....」


2人は深層の方に身体を向けた。

四天王を名乗るほぼ人間と同じのマルールビースト。そして彼らが放った“REINA”と言うワード。

謎は深層の如く、深まる一方だった。







2


アルファ・ブラボー・デルタの3チームは帰還途中だった。

その道中、40メートルのグリードワン級と50メートルの四足歩行型ジャイアント級に遭遇した事によりカズキはスレイヤーに変身していた。

アルファとデルタの援護もあり、カズキは2体を追い詰めるとアームドスレイヤーに埋め込まれたリベレーションから“リベリオンソード”を展開。両腕から展開した事で二刀流の構えを取り、2体同時に斬り裂き分子分解させた。


「(両方から展開出来たんだな)」

『(一応はな)』


胸元のエナジーコアを薄暗く点灯させた状態で変身を解こうとしたカズキはハッすると後ろを振り返った。


「ヤルジャナイカ。僕ノ送リ込ンダ刺客ヲ倒ストハ」


崖の上でそう話した人間そっくりのマルールビーストは不気味な笑みを浮かべた。


(成る程。アレが“四天王”か)


「僕ノハ“リョウタ”。久々ニ血ガ騒グヨ。楽シマセテクレヨ」


そう言ったリョウタは崖から飛び降りると全身を水色に発光させると地面に着地すると同時に50メートルの巨人へと変身した。


「(面倒なのが来たな。だがやるしかない)」

『(その様だな。行こう)』


リョウタとはワンテンポ遅れて走り始めたカズキは身を屈めた体当たりを喰らわせてリョウタの動きを止めた。が、すぐさま胸元にカウンターの如く蹴りを喰らった事によりカズキは後ろへと蹌踉めいた。その隙を逃す事なくリョウタはカズキに回し蹴りを喰らわせた。


(此奴、)


カズキはすぐさま体勢を立て直すとリョウタに殴り掛かった。が、そのストレートは軽々受け止められた。リョウタはそのまま一本背負いを仕掛けるとカズキを地面に叩き付けた。


「コンナモノカイ?」

(・・・)


カズキはもう一度とリョウタに殴り掛かった。当然の如く止められたがカズキは自分のストレートが受け止められた瞬間、すぐさまサマーソルトキックを仕掛けた。リョウタはすぐさまカズキの腕から手を離すとサマーソルトキックを回避し、着地寸前のカズキに勢いのある回し後ろ蹴りを喰らわせ、カズキを吹っ飛ばし、岩壁に叩き付けた。


(此奴、マジで強いな)


胸元のエナジーコアを更に薄暗くしたカズキは蹌踉めきながら体勢を立て直すとリョウタの蹴りを両手でカードしたのちリョウタの右ストレートを受け止めたのち腕を掴むと自分がやられた様にそのまま一本背負いを仕掛けた。が、リョウタは受け身で防ぐと後ろ蹴りでカズキを蹴り飛ばした。


「強い....」

「あれって一体何者?」

「カズキさんが、あんなに追い詰められるなんて....」

「君達が知らないって事は、新種か?」


一方的にやられるカズキを観て困惑する一同。

すると鋭い目付きでリョウタを観察していたヴィクトルが「少し違う」と呟いた。


「違う?」

「多分、ビーストによって産み出された“人造人間”みたいな奴だと思う。グリードワンがマツリの弟に化けていた時とは似ては居るが違う部分の方が多い気がするからな。多分、ビーストの主の“親衛隊”的存在なんじゃないか?」

「・・・本当、何でも知ってるわね」

「知ってる訳じゃない。分析と仮説と直感だ」


呆れた気味のユリウスにヴィクトルがそう返してる間にも、カズキはリョウタにほぼ一方的にやられていた。

それを見るに堪えなくなったマツリ・ミサキ・シオリはアサルトモードの武器を構え、マジックマグナムショットをリョウタに向けて数発放った。

が、リョウタには全くそれは通じなかった。


「ッ!、効いてない?」

「そんな、馬鹿な....」

「ウザッタイナ〜」


リョウタはカズキを投げ飛ばすと右手の平に赤紫色の魔力を集め始めた。


「ッ!」

「不味い!退避、退避!」

(!。ヤバい)


カズキはすぐさま右手指先に魔力を集め、マツリらの側にある滝を指差すとそのまま水を操り、マツリらを包み込む様にドーム状のバリアを形成させ始めた。


「コザカシイ」


リョウタは手の平に集めた魔力をそのままマツリらに向けて放った。が、辛うじてバリアの形成が間に合った事で直接的なダメージは受けなかったがバリア崩壊の衝撃でマツリら一同は後ろへと吹き飛ばされた。

水操作を解除するとカズキは肩で息を切らしながらしゃがみ込むと胸元のエナジーコアを点滅させた。


「そんな....」

「変異型グリードワンの火炎ブレスを何発も防いだバリアが、こんな簡単に....」

「ッ!」

(こう言う時、俺が変身出来れば、カズキを援護出来るのに....)

『(クールタイムは時間が掛かる。悔しいがな)』

「ハチロク....」


リョウタは鼻で笑ったのち胸元のエナジーコアを点滅させるカズキを振り向くとゆっくりと歩み寄った。


「タワイナイ。時間切レカ?」

(・・・)

「見様見真似ト勢イダケデハ、僕ニハ勝テナイヨ」


そう言いながらリョウタは余裕たっぷりの態度でカズキに歩み寄った。


(今だ!)


カズキはすぐさま顔を挙げると左アームドスレイヤーに右手を添えたのち、リベレーションから【魔力エネルギーの投てき用ダガー“ストラトスマヒュリ”】を出現させ、右手に掴むとリョウタに向かって投てきした。


「ナニ⁉︎」


投てきされたストラトスマヒュリはリョウタの右脚に命中、リョウタにダメージを与えると同時に体勢を崩した。


「!」

「慢心は命取り、って事ね」


そう言ったマツリが僅かに微笑む中、カズキは勢いよく走り始めると魔力を使って滝壺から水を吸い取り右脚に纏わせると、水縹色の魔力に変換し、体勢を崩すリョウタの顔面に思いっきり蹴りを入れた。


「ヤルナ....」


左顔面を抑えながらそう呟いたリョウタは立ち上がると姿勢を崩し、しゃがみ込むカズキを見下ろした。

物凄い速さでエナジーコアを点滅させるカズキにもはや戦闘能力はなかった。が、


(チッ、無断出撃ガバレタカ。ヤロウ、コッチガ時間切レカヨ)


リョウタは舌打ちをしたのち全身を赤紫色の魔力で包むと姿を消した。

それを観たカズキはその場に倒れ込むと全身をウォーターグリーンの魔力に包まれると閃光を発し、カズキを元の姿へと戻した。


「「カズキさん!」」


地面に倒れ込むカズキに駆け寄るシオリとサトミ。

2人はカズキの肩を担ぐと急いで移動を開始した。


「・・・」







3


「!」


カズキは見慣れた水縹色の空間に居た。

カズキの傷や疲れを癒し、カズキに妙な安らぎを与えるその空間の正体はカズキも知らなかった。


「カズキ」

「?。ッ!」


声のする方を振り向いた先に2人の男が居た。

1人はカズキの知る男だった。


「ベルナールさん、と、」

「俺の名前はヴァンだ」

「ヴァンさん。・・・お二人に、お願いがあります」

「「?」」

「俺を鍛えて下さい。今まで何となくなやり方で戦って来ましたが、それには限界があります。どうか、お願いします」


ベルナールは僅かに笑みを浮かべると「だと思った」と言うと再びカズキと目を合わせた。


「そう言うと思って、ヴァンも連れて来たんだ。彼は26人目の破壊者だ」

「!」

「お前は今、見様見真似と勢い、破壊者の恩恵で戦ってる。ビースト相手には通用するが、リョウタクラスには通じない、基礎と応用が必要になる」

「明日から、2人係でお前を鍛える。今日は、傷を癒せ」

「ありがとうございます。感謝します」


ベルナールは頷いて返すとヴァンと共に光の中に消えていった。

するとカズキはミヅハノメの方を向いた。


「ありがとう」

「君は自分に足りないものをすぐに理解し、それを補おうとすぐに動けるからな。可能なバックアップはさせて貰うよ」

「本当、助かる。・・・なんか、助けられてばかりだ」

「そうでもない。あと、間違った終わりの破壊、と言う使命がある以上、それを失敗に終わらす訳にはいかないからな。時間が無いんだ、この空間でした方が良い事はこの空間ですれば良い。・・・つまり、」

「現実では、基礎体力とスタミナを付けつつ、実戦経験を詰めって事だな?」

「そうだ」


カズキは頷いて返すと空間を見渡した。







ベッドの上で目を覚ましたカズキはゆっくりと身体を起こすと辺りを見渡した。


「・・・」


ゆっくりとベッドから立ち上がったカズキはシャワーで身体を洗ったのちや着替えなどの身支度を済ませたのち部屋を出た。


「ッ!。カズキさん!」

「サトミさん」

「お身体は、大丈夫なんですか?」

「は、はい。・・・俺、どのぐらい寝てました」

「13時間です。マツリさんの想定より、かなり短いです」

「ハハッ、そうですか」


部屋を出たタイミングで偶々出会ったサトミとそんな会話をしたのち2人は朝日に照らされる廊下を歩き始めた。


「私達が深層に向かってる最中に、レナードさんが怪我をした様です」

「レナードさんが?」

「はい。防衛戦の最中に、四天王を名乗る人間そっくりのビーストに襲われて....」

「それって、」

「はい。リョウタって方と同じだと思います」

「・・・」


僅かに表情を鋭くしたカズキは拳を僅かに強く握った。


(仲間の足を引っ張れない。強くならねば)

「・・・カズキさん」

「はい?」

「無理は、しないで下さいね」

「え?」

「カズキさんがリョウタって方に勝てなかったのは、単純にカズキさんが弱いからじゃないと思います。グリードワンとジャイアントとの戦いで疲弊していたのも、理由だと思います」

「サトミさん....」

「カズキさんは、充分強いです。私達とは比べものにならないぐらい」

「・・・グリードワンやジャイアントに勝てたのは、皆さんの支えがあったからです。俺1人の力なんてちっぽけですよ」

「・・・ハァ〜、....カズキさん」

「はい?」


サトミに合わせる様に足を止めたカズキはサトミの方を向いた。サトミは呆れた表情を浮かべながら顔を挙げるとカズキと目を合わせた。


「カズキさんはレナードさん同様、自分を過小評価し過ぎです!私達のリーダーなんですから、もっとシャキッとして下さい!」

「⁉︎。・・・」

「前世ではどうだっか分かりませんが、今のカズキさんは私達の頼れるリーダーなんです!。もう少し、自分に自信を持ってください」

「....」

「(破壊者の力に頼ってばかりの俺に、そんな事言われてもな)」

『(それは少し違うぞ)』

「(え?)」

『(私の力を如何に引き出し、如何に使うかも君の実力次第だ。しかも変身中含め、戦闘中の動作は全て君自身のものだ。君は確かにまだまだな節があるが、決して弱くはない。もう少し自分に自信を持つべきだ)』

「(ミヅハノメ....)」


カズキは口元に手を添えて数秒考えると軽く溜息を吐いたのち再びサトミと目を合わせた。


「ありがとう。そう出来る様、努力してみるよ」

「はい!」


優しく微笑むサトミから顔を逸らしたカズキは再び廊下を歩き始めた。それを追う様にサトミも歩き始めた。


「・・・」


一方、通路の角から2人の会話を聞いていたシオリは壁に寄り掛かると天井を見上げた。


(カズキさん....何故だろう、カズキさんが他の女性と話してるのを観ると、胸が締め付けられる様な気持ちになる。・・・私はずっとカズキさんを側で見ていた。今までも、これからも、そうして、いたい....)







4


2日後....


「カズキさーん、良いペースですよ。そのままそのまま〜」

「はい!」


25キロの重りが入ったバックパックと両脚10キロずつの重りを付けた状態で坂を降るカズキ。それを追うシオリはそんなカズキの背中を観て優しく微笑んだ。


(良い感じ走れてる。少し前の変異体グリードワンとの戦闘以来、カズキさんに色々磨きが掛かった気がする)

「それにしても、」

「はい?」

「!、ううん。なんでもない。今は前だけ見て」

「はい」

(いつ頃からかな?。カズキさんと2人きりが、心地良く思えたのは。・・・カズキさん....私、多分知らない間に、私、....私、)


シオリは首を横に振るとカズキの背中に顔を向けた。

シオリは勿論、マツリですら想定しない程の速さで体力を付け、変化していくカズキ。だが、カズキとて人間。そんな急激な変化に、身体が付いてくる訳もなかった。


「ガッ、」


坂を降り終えたところで、カズキは体勢を崩し、前のめりに倒れ込んだ。


「カズキさん!」

「・・・ッ!」


カズキはすぐさま両腕に力を入れて立ち上がろうとするが25キロの重りを前に、身体は地面から離れずに居た。


「大丈夫ですか⁉︎」


シオリはすぐさまカズキの肩を持ち、カズキを起こしたのち座らせるとバックパックを降ろさせた。

酷く息を切らすカズキ。カズキ自体も、何故身体がこうなったか分からずに居た。


「クッソ」

『(睡眠中のトレーニングの影響で、ヒーリングが疎かになっていた。すまない)』

「(ミヅハノメのせいじゃないさ)」


息を整えながらカズキは重りの入ったバックパックに手を伸ばした。それを見たシオリはすぐさまカズキの手首を掴み、それを止めた。


「⁉︎」

「少し、休みましょう。カズキさん、頑張り過ぎですよ」

「・・・すまない俺は、」

「気にしないで下さい。今はとにかく、休んで下さい」


カズキはシオリの言葉に折れるとゆっくり手を下ろした。シオリはカズキの隣に座ると少し長めに息を吐いた。


「シオリさんは....」

「はい?」

「眩しい、ですね」

「え?」

「なんだか、そう思いました。チームを照らす、太陽みたいな感じがします」


シオリは何処か納得した様な表情を浮かべながら頷くと再び空を見上げた。







「・・・」


執務室で過去の報告を見返していたアーネストはホログラムを閉じると咥えて居た煙草に火を付けた。


「壁を乗り越えたか否かの違い、って訳か....」


そう呟いたのち煙草を咥えたまま口から煙を吐いたアーネストは背凭れに寄り掛かり、視線を上に挙げた。


「カズキやクラウスは兵士ならば越えなくてはならない壁を越えた。レナードはその壁に気が付いてすら居ない。同じ四天王クラスを相手にしてもこれだけ違う結果が出るのは、多分そう言う事なんだろうな」


アーネストは煙草を指を挟み、口から離すとゆっくりと煙を吐いた。


(レナードは、恐らくかなり波があるタイプだ。今は多分、波に乗れてない。波に乗れれば強いが、一度波から落ちると、再び波に乗るのに時間が掛かる。波に乗れた際に壁に気付けるか否か。レナードが強くなれるか否かは多分そこだな)


そう思いながら椅子から立ち上がると窓から外を眺めたのち再び煙草を咥えた。


「セシリアやソフィアがそれに気付けるか否か。多分そこも関係してくるな」


そう呟いたアーネストは僅かに視線を鋭くすると再び椅子に座り、ホログラムを起動させた。







「レナードと2人で?」

「ああ」


ヴィクトルの提案を前にクラウスは考え込んだ。

“アルファチームとチャーリーチームの合同出撃”

クラウスはヴィクトルの考えが読み切れなかった。

それを察したヴィクトルは、


「レナードは、俺たちが越えた壁、越えなくてはならない壁にも気が付けてない。そこで、カズキを利用する」

「・・・確かに、カズキとレナードは考え方も似てるから、レナードも何か掴めるかもしれないな」

「カズキは壁を越えた者が持つ強さを持っている。それをレナードに見せるべきじゃないか?」


クラウスは口元に手を添えて考えると軽く頷いた。


「アリだな。やってみるか」

「ああ」

「問題は、レナードが乗るか否かだな」

「多分問題ないだろ」

「?」


そう言ったヴィクトルはゆっくりと後ろを振り向くと微かに呆れた表情を浮かべた。


「セシリア、ソフィア。居るんだろ?」

「・・・」

「....」


2人は無言で通路の角から現れるとヴィクトルと顔を合わせた。


「出来るな?」

「・・・」

「2人とも、俺からも頼む」


クラウスはセシリアとソフィアの2人に頭を下げた。

2人は顔を合わせたのちクラウスとヴィクトルに頷いて返したのち、


「クラウス、顔を挙げて」


クラウスは無言で頭を挙げると立ち去る2人を見送った。


(レナード。周りは波に戻す手助けは出来る。壁を越える手助けも出来る。だが最終的には、お前の力で何とかするしかないんだ)


ヴィクトルはそう思いながらクラウスの元から立ち去った。

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