Episode.18「必要とされる者」

1


カズキ・クラウス・ヴィクトルのチームが深層に潜っている頃、


「畜生....」


自室の椅子に座り込みながら悔しげに両手を強く握り締めるレナードは怒りとも何とも言えない感情を抱えて居た。


(確かに、俺は弱い。けど....けど、・・・ッ)


両眼を強く瞑り、より一層強く両手を握り締めるレナード。そんなレナードはドアがノックされる音で我に帰った。


「?、どうぞ」


ドアが開くと同時に椅子から立ち上がったレナードは自室に入室して来たソフィアと顔を合わせた。


(やっぱり....まっ、無理もないわね)


レナードの表情を観て全てを察したソフィアは呆れ笑みを浮かべながらドアを閉めた。


「何故、自分だけが。って顔ね」

「・・・」

「貴方は分かる?。何故自分が此処に残されたか?」

「俺が、....俺が弱いからです」

「そう思うなら何故動かないの?」

「ッ!。それは....」


レナードなソフィアから視線を外すと悔しげな表情を浮かべながら俯いた。ソフィアは溜息を吐くと表情と目付きを一瞬にして鋭くした。


「何故私達を頼らないの?」

「ッ!」

「確かに総合戦闘力では、貴方には劣るわ。けど、経験と基本なら、私達の方が上よ」


それを聞いたレナードは目を見開くと再びソフィアと目を合わせた。


「ついて来なさい。それを証明してあげるわ」







トレーニングルームの一室に到着したソフィアはデルニエフォルテで変身するとブレイドとシールドを構えた。


「・・・」


それを見たレナードは瞳の奥に怒りと似たものを宿しながら全身から魔力を放出すると【片手剣“ヴィルトゥの剣”】と【盾“メイジシルト”】を構えた。

すると微かに呆れた様な表情を浮かべたセシリアが2人の間に立った。


「ルールは単純。相手を降伏させるか私が戦闘続行不可と判断した時点で終了。魔法等の使用は禁止。素手による直接攻撃は認める。・・・構え!」


レナードは剣を前に、ソフィアはシールドを前に構えた。セシリアは後ろに下がると右手を挙げた。


「確かにレナードを色んな事に気が付かせる為には、“物理的に”指導するしかないって事か」

「でも、レナード先輩は充分強いと思いますが」


ジュピターは目付きを鋭くすると「どうかな?」と呟いた。


「始め!」


そう言いながらセシリアは右手を振り下ろした。

レナードはすぐさまソフィアに斬りかかった。ソフィアはそれを盾で受け止めるとレナードの剣を弾き返した。


「ッ」

「・・・」


ソフィアと目を合わせたレナードはすぐさま体勢を立て直すとソフィアに斬りかかった。

ソフィアはレナードの連撃を全て盾で防ぎながらレナードを観察して居た。


(攻めてくる気配が全く感じられない。....なら、)


レナードはソフィアが構える盾に刃先を擦り付け、滑らしながらソフィアの右側に回り込むとシールドを前に構え、シールドバッシュを仕掛けた。


「・・・」


ソフィアは何処か呆れた様な目付きをしながらレナードのシールドバッシュを盾を防ぐとそれを払いのけたのちレナードの背中に蹴りを入れた。


「ッ」


脚に全体重を載せて体勢を立て直したレナードはソフィアの方を振り向くと再び突っ込んだ。


「可笑しい」

「?」

「レナード先輩の戦い方じゃない」

「そうね」

「え?」

「明らかに勢いと感情で動いてる」


セシリアは鋭い表情でマシュにそう返すとジュピターは軽く鼻で笑った。


「深層攻略組から外された事が、よほどショックだったのか?」

「それは私達も同じ気持ちだよ」


ヘレナの発言にセシリアは頷いて返した。


(そろそろ仕掛け期ね)


レナードの剣撃を全て盾で防ぎ止めて居たソフィアは僅かに目付きを鋭くするとレナードの剣撃を突きで弾き返し、隙を作るとレナードの右脇腹に峰打ちを喰らわせた。


「ガッ」

(見えた!)


ソフィアはレナードの剣の平地部分を素早く突いたのちレナードの死角に潜り込み、後ろに回り込むとレナードの首に刃先を添えた。


「それまで!。勝者、ソフィア」

「・・・」


目を見開きながら自分に触れる刃先にゆっくりと視線を落としたレナードはその場に崩れた。


「凄い。破壊者に勝つなんて」

「“天才”って呼ばれるのは、伊達じゃないわね」

「良いもの見れたな〜」

「流石“天才”」

「・・・」


見物に来て居た野次馬の声に溜息で反応したソフィアは変身を解くとレナードの目の前に歩み寄るとゆっくりと手を差し伸べた。


「・・・」


レナードは数秒躊躇ったのち武器を消滅させ、戦闘体勢を解くとソフィアの手を掴んだ。







「何故負けたか、分かる?」

「・・・魔力を、封じられて居たから....」

「・・・」


トレーニングルームを出て、チームの待機室へとやって来た2人。

ソフィアはレナードの発言に溜息で反応すると壁に寄り掛かったまま天井を見上げた。


「単刀直入に言うわ。貴方が負けた理由は、“自分を制御出来てない”からよ」

「ッ!」

「兵士なら誰しもが当たる壁があるわ。けど、今の貴方はその壁にぶち当たる以前の問題よ」

「・・・」


椅子に座り込みながら俯くレナード。ソフィアはそれを気にする事なく話を続けた。


「グリード級のナイトタイプとの戦闘、覚えてる?」

「はい....」

「あの時の貴方なら、多分私は負けていたわ」

「・・・」

「今の貴方に必要なのは2つ。1つは自分の力や感情を制御し、与えられた膨大な力を使い熟す事。もう1つは、様々な事をもっと前向きに捉える事よ」


そう言うとソフィアは壁から背中を離し、姿勢を治すとゆっくり歩き始めた。


「頼っちゃいけない仲間は居ないわ。いつでも、声を掛けて」


そう言うとソフィアはレナードを置いて部屋から出た。

レナードは俯いていた顔を挙げ、天井を見上げるとゆっくりとため息を吐いた。


「グリードワンを倒せなかった挙句、ソフィアにも負けた。俺、居る意味あるのか?。・・・俺、俺は....」


レナードがそう呟いた事も知らず、ドアノブから手を離したソフィアは足速く通路を歩き始めた。


(レナード。皆んな貴方を必要としているわ。だからこう言う手段を使ってでも分からせようとしているの。貴方の範囲防御力と魔力は、私達、いやストライク全体に無くてはならないものよ。だから早く壁に辿り着いて、それを乗り越えて)







2


深層を突き進むストライクの3チーム。

エンジェルアーチャーからの変身を解いたクラウスは両手を膝に当てると前屈みになりながら息を切らした。


「クラウスさん!」


アニエスはすぐさまクラウスのものに駆け寄るとクラウスの身体を支えた。


「ありがとう」

「気にしないで下さい。それより、大丈夫ですか?」

「ああ、なんとかな。・・・ッ」


クラウスは目を見開くと顔を挙げて自分らを狙うミディアム級と視線を合わせた。


(不味い!)


クラウスが弓を構えようとした瞬間、左腕に【拳銃と盾の複合銃“カウンターマグナム”】を構えたカズキがクラウスらの前に滑り込むとミディアム級が放つマジックショットを複合銃の盾で受け止め、魔力を吸収・変換したのち銃口をミディアム級に向けると強力なカウンターショットを撃ち出し、ミディアム級を跡形も無く消し去った。


「凄いカウンター技だな」

「流石です。助かりました」

(レナードさん程範囲広くないし、威力も高くないんだよな〜。やっぱ防御とカウンターならレナードさんだな)

「クラウスさん達は一旦下がって下さい。此処は俺達が」

「助かります」

「すまない」


カズキは頷いて返すとカウンターマグナムを消滅させたのち左腕に【拳銃と盾の複合銃“マシンピストル”】を装着するとギロっと辺りを見渡した。


「サトミ・ナナミと俺で前衛。マツリ・ミサキ・シオリはクラウスとアニエスの後退と俺達の援護。頼みます」

「わかったわ」

「わかりました」


アニエスに支えられながら少し速いペースで歩くクラウスは「こう言う時、レナードとレナードのチームが居ればな」と呟いた。

マシンピストルから放たれるマジックショットでけん制を掛けながらマルールビーストと距離を詰めるカズキも同じ事を感じていた。


(レナード、君は俺達に必要だ。これだけの大軍と連戦ともなれば、君の魔力は必要不可欠だ)


“アイスインパクト”でスモール級の群れを粉々にしたヴィクトルは3チームで行ける限界を感じ始めていた。


(帰還分を考えると今日はこの辺が限界か?)

(深層の奥に行けば行く程、雑魚が手強くなる。練度が足りないな....)

(1回の変身で、此処まで来るとはな....情けないぜ)







3


その頃....


「それなりの大群だな」

「もうすぐストライクチャーリーが到着する。耐えるんだ」


深層から湧いて出てくるマルールビースト相手に防衛ブロック内で交戦するディフェンスブラボーチーム。無人兵器の援護もあり戦況はほぼ互角だった。

だがそんな状況を易々と許す程マルールビーストは甘くない。が、今回は少し違った。


「“ドラゴンウェーブ”!」


剣の刃先から5体のドラゴンを放ち、範囲攻撃を仕掛けたレナードに続く様に他のストライクチャーリーの面々が前に出た。


「来た!」

「救援、感謝します」


「へ〜。アレガ破壊者?」


「⁉︎」

「この声は、ビースト?」


素早い斬撃で無人兵器を破壊したのち“それ”は地上に降り立ち、姿を現した。

黒を中心に青紫・赤紫の3色で構成された身体に大振りな片手剣を右手に、小振りな盾を左腕に装着した人型ビースト、いや限りなく人に近いマルールビーストだった。


「またグリードワンが化けてるのか?」

「・・・いや、」

「破壊者モオマヌケダネ〜。僕ガ化テル様ニ見エル?」


そう言いながら人型は左手で顔を抑えながら甲高い笑いを挙げた。


「とりあえず敵だって事は間違い無さそうだな」


そう言ったのちレナードは人型に刃先を向けると片手剣と盾を構えた。


「僕ハREINA様ニツカエル四天王ノ1人。破壊者ノ力、ミセテ貰ウヨ」


レナードは再び刃先を人型に向けると「ほざけ!」と言ったのち人型に斬りかかった。

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REINA 村渕和公 @sinotukuame

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