Episode.16「戦う理由 後編」
1
マツリは目を開くとそこには見覚えのある空間が広がっていた。
空間の中心には大きな川がゆっくりと流れており、至る所に岩場や岩山、岩壁があり、発光体の様なものが埋め込まれた謎の石碑らしき物と大小様々な湖らしき水溜まりがあった。
「綺麗....」
「前来た時も思いましたけど、神秘的ですね」
シオリはそう言いながらマツリと共に辺りを見渡した。
そんな中、その神秘さを壊すかの様にグリードワン級の咆哮が空間内に響いた。
「!」
「この岩壁の裏側か!」
そう言いながらミサキは走り出すと岩山から身を乗り出し、辺りを見渡した。
そんなミサキの目の前でカズキが変身した巨人が55メートルはあるグリードワン級に飛び蹴りを喰らわせていた。
49メートル対55メートル。カズキはその6メートルの差を感じさせないぐらい勇ましく戦っていた。
だが相手は2頭身且つ頭部独立型。戦うのは簡単ではない。
「どうやって援護します?」
「それを今考えていたところよ」
ミサキの問い掛けにそう返したマツリは目付きを鋭くしながらグリードワン級を観察した。
するとマツリらの存在に気が付いたグリードワン級の右頭部がマツリらの方を向いた。
「ッ!」
「不味い。総員退避!」
マツリはすぐさま退避命令を出すがそれをさせまいとグリードワン級の右頭部は火炎ブレスを吐いた。が、それをマツリらに当てさせまいとカズキが動いた。
カズキはマツリらの側に滑り込む様にしゃがみ込むと左腕でブレスを受け止めた。そして左腕を朱色混じりの水縹色に輝かせながらブレスが止んだ隙を突くと一気に距離を詰めたのち右頭部にサマーソルトキックを喰らわせるとグリードワンの前に回り込み左腕に纏わせた水縹色の魔力の塊をゼロ距離で喰らわせた。
「凄いカウンター技ですね」
「間違いなく、“進化”してますね」
シオリの褒め言葉を他所に、カズキとグリードワン級の戦いは続いていた。
カズキは右頭部に回し蹴りを喰らわせたのち左頭部を掴むと一本背負いで地面に叩き付けた。
だがグリードワンも一方的にやられまいと口から火炎ブレスを吐いた。左頭部から吐いたのが顔面、右頭部から吐いたのが胸に当たると、グリードワンはカズキが怯んだ隙に立ち上がると左頭部をクルリとマツリらの方に向けた。
「(させるか!)」
カズキはアームドスレイヤーに埋め込まれたリベレーションから【魔力エネルギーの投てき用ダガー“ストラトスマヒュリ”】を出現させるとグリードワンの左頭部に向かって上投げで投てきした。投てきされたダガーは左頭部に命中すると爆散した。
左頭部の隙をカバーする様に右頭部がカズキに向かって火炎ブレスを吐いた。カズキはそれをジャンプで交わすとカズキは何かを掴んだ。
「(これ、飛べるんじゃ?)」
そう思ったカズキはブレスを交わすと同時に思いっきり飛び上がった。
「(行ける!)」
カズキは風を切り裂きながらそのまま上昇すると空中で体勢を立て直したのちグリードワンを見下ろした。グリードワンは空に浮くカズキに向かって火炎ブレスを吐いた。カズキは数発は避けたが脚に当たって怯んだところを胴体に3発喰らい、体勢を立て直せないまま地面に落下した。
「ッ」
「あのグリードワン、やっぱり強い」
「俺が、俺が仕留められなかったせいだ」
「ッ!」
サトミに続いてマツリらは声のする方を向いた。
彼女達の視線の先にはレナードとソフィアが居た。
「俺のせいだ。....カズキ、今援護するぞ」
そう言うとレナードは剣に炎を纏わせながら走り出した。普段よりも多い量の炎と魔力を纏わせたレナードは自分に振り向いたグリードワンの左頭部と目を合わせた。
「これでも喰らえ!【“ドラゴンウェーブ”】!」
通常よりも強力な炎の塊を放出すると炎の塊は5体のドラゴンへと変わった。ドラゴンは火を噴きながらグリードワンに近付いた。
が、グリードワンの左頭部は怯む事なく口を開けるとレナードが放ったドラゴンウェーブを吸収した。
「何⁉︎」
レナードが驚いたのも束の間、グリードワンはドラゴンウェーブを吸収したことでより強力となった火炎ブレスをカズキに喰らわせた。
立ちあがろうとしたところに強力な一撃を喰らったカズキは大きく後ろへ吹き飛ばされた。それに追い討ちをかける様にグリードワンはカズキにブレスを吐きまくった。
「不味い」
「総員、援護射撃開始!」
マツリの号令のもと、ストライクアルファの面々が一斉にグリードワンへ攻撃を開始した。マグナムマジックショットや魔力生成された矢がグリードワンを襲う中、グリードワンはブレスを吐くのを辞めたのち左頭部をマツリらに向けた。
やっとの思いで立ち上がったカズキはグリードワンの左頭部が向く先を見るや否やすぐさま走り出した。
右肘から生えるブレイドを赤く輝かせるとブレスを吐こうとしたグリードワンの左頭部下、首の右側を斬り裂いたのちそのまま回し蹴りを喰らわせた。
胸元で光らすY字のエナジーコアの光を僅かに暗くしたカズキは左頭部を軸に身体の向きを変えたグリードワンと目を合わせた。
「ドラゴンウェーブが効かなくても」
「レナード、待って」
ソフィアは“審判者の剣”を使おうとしたレナードを制止した。
そんな中、ブレイドによって斬られた左頭部の右側から出血するグリードワンは怒りを込めて口からブレスを吐いたがカズキはそれを全て叩き落としながらグリードワンに近付くと両肘から生えるブレイドを赤く輝かせるとグリードワンの胸元と腹にブレイドを挿入すると思いっきり斬り裂いた。
「・・・」
レナードはソフィアに制止されたにも関わらず“審判者の剣”を使う機会を伺いながら無言で剣に魔力を溜めた。
そんな事も知らずにカズキはグリードワンを蹴り飛ばした。胸元と腹から出血し、怒りの咆哮を挙げたグリードワンは両頭部の口内に炎を溜めると強力な火炎ブレスを吐いた。それをジャンプで回避したカズキはその勢いで空を飛んだ。
「(飛べる。俺にも飛べる)」
『(この空間内だけだがな)』
「(それでも充分だ。・・・戦う理由、なんとなくわかったかもしれない)」
『(今は目の前の怪物を仕留める事に集中しろ)』
「(ああ。わかってる)」
カズキは大きく宙返りしながら地面スレスレを飛ぶとリベレーション同士を重ね合わせ、発生させた魔力を圧縮させると両腕を外側に広げ【三日月型の魔力製光刃“フライトパーティクルウェーブ”】を前方に放ち、グリードワンの首元に命中させた。
※
フライトパーティクルウェーブを喰らった衝撃で横転するグリードワン。
それを観たレナードは「好機」と呟くと剣を振り上げると同時にグリードワンの頭上に巨大な魔法陣を出現させた。
「(!)」
「レナード!駄目!」
ソフィアの静止も聞かぬまま、レナードが剣を振り下ろそうとした瞬間、グリードワン級は魔法陣から魔力を吸収し始めた。
「⁉︎」
「学習してる」
ソフィアがそう呟く間にもグリードワン級は魔法陣から魔力を吸収していった。カズキに付けられた傷を治すと同時に身体を青白く輝かせるグリードワン級。
「野郎!」
怒り半分で剣を振り翳すレナード。するとグリードワン級は魔法陣の中から出現した光刃も吸収し、魔法陣が消滅すると同時に立ち上がると身体を80メートルにまで巨大化させた。
「(嘘だろおい⁉︎)」
『(過去に受けた攻撃を学習し、自身のエネルギーに変換したか)』
自身の倍近くまで巨大化したグリードワンを見上げるカズキ。グリードワンは気高い咆哮を挙げると火炎ブレスを吐きまくった。カズキは小ジャンプでそれを回避するがショットガンの様に放たれるブレスを全弾を回避する事は出来ず、脚に喰らったのを始まりに身体中に火炎ブレスを喰らった。
それを観たマツリらは再び援護射撃を開始する。が、80メートルのグリードワン級には豆鉄砲当然だった。
「!」
「撃って!撃ち続けて!」
マツリらの武器から放たれるマジックショットを気にする事なくカズキに近付いたグリードワンはカズキを蹴り飛ばした。
蹴り飛ばされた衝撃で岩壁に身体を打ち受けた瞬間、カズキの胸元にあるエナジーコアが点滅を始めた。それを観たグリードワンはカズキに興味を無くしたのか左頭部をマツリらの方に向けると口内に火炎を溜め始めた。
「ッ!」
「不味い。総員退避!」
「(!)」
『(カズキ。“水”を利用しろ)』
「(水?。ッ!、そうかそう言う事か)」
グリードワンの左頭部から火炎が放たれる瞬間、カズキはマツリらの側にある水溜りに魔力を飛ばすと右手でそれを操ったのちマツリらを囲う様に水製のドームバリアを作り上げた。
「!」
「これは?」
水で作られたドームバリアはグリードワンの左頭部から放たれる火炎ブレスを全て防いだ。
※
2
(見つけた。見つけたぜ、戦う理由!)
グリードワンの左頭部から放たれた火炎ブレスが止んだのを確認したカズキはドームバリアを自壊させるとエナジーコアの点滅を止めたのちグリードワンに向かって走り出した。グリードワンは左右両方の口から火炎ブレスをカズキに向かって吐き出す中、カズキは身体を15メートルまで縮めるとブレスを避けながら走った。
(知るんだ、自分を。自分を知らなければ、戦えない。自分を知らなければ、何も護れない。俺は“自分を知る為”に戦う!)
そう思いながら走ったカズキはグリードワンの身体に飛び乗るとそのまま駆け上がり、胸元で飛び上がったのち身体を49メートルまで巨大化させた。両肘から生えるブレイドを赤く輝かせると両方の喉元にブレイドを挿入すると外側に思いっきり斬り裂いた。
喉元から血を流しながら後ろに蹌踉めくグリードワン。カズキはグリードワンが尻尾を使って体勢を立て直して居る事を見逃さなかった。着地すると同時に再び飛び上がるとグリードワンに飛び蹴りを喰らわせ、その勢いで後ろに下がると地面に着地するとアームドスレイヤーのリベレーションから発生させた魔力を腕をスライドさせる事で手の平に移し両手に包み込むと左脇腹付近で両手をゆっくりと重ね魔力を圧縮させた。
「「「!」」」
カズキが何をしようとしているか理解したマツリ・ミサキ・シオリの3人はグリードワン級の顔面目掛けてマグナムマジックショットを撃ち込んだ。
そしてグリードワン級の視線が一瞬マツリらの方に向いた瞬間、カズキは左前転でグリードワンの右側に回り込むと魔力を圧縮させた右手を外側にスライドさせると同時に右指先から【魔力製の光粒子刃“オーバーパーティクルインパルス”】を飛ばし、グリードワンの尻尾に命中させるとグリードワンの尻尾を分子分解させ、消滅させた。
「凄い技、ですね」
「尻尾を失えば、幾らサイズ差があっても」
カズキは飛び上がると同時にグリードワンの火炎ブレスを宙を飛び回りながら回避すると地面スレスレを飛びながらリベレーション同士を重ね合わせ、発生させた魔力を圧縮させると両腕を外側に広げ【三日月型の魔力製光刃“フライトパーティクルウェーブ”】を前方に放ち、グリードワンの両顔面に1発ずつ命中させた。
尻尾を失ったグリードワンは自身の身体を支えきれずにそのまま倒れた。カズキは宙を飛びながらアームドスレイヤーをエナジーコアに添えたのちリベレーションから【青葉色のマジックソード“リベリオンソード”】を出現させると横転したグリードワンを飛行しながら地面ごと斬り裂いた。
地面に着地したのちリベリオンソードを消滅させたカズキの後ろでは朱色の光に包まれたグリードワンが自身を量子化させると数回小さな爆発を起こし、半透明状態になると分子分解され散り散りとなった。
カズキはゆっくりと立ち上がると身体からウォーターグリーンカラーの魔力を放出すると空間の外側を岩に変えたのち空間を崩壊させ始めた。
※
3
「ッ!」
「ビーストが、退いていく」
マイの言葉通り、深層へと戻るマルールビースト達。マナミは「終わった様ね」と呟くと刀を空振りした。
「想定の1.3倍ほど、時間が掛かったな」
マナミの後ろでそう呟いたヴィクトルはチームを率いて地上へ上がった。
「・・・」
後ろをゆっくり振り返ったマツリはグリードワン級が空けた穴から地上に登るヴィクトルらを見上げながら表情を鋭くした。
そんな事を気にする事なく地上に降り立ったヴィクトルは変身を解いた状態で四つん這いになって肩で息を切らすカズキを見た。
(今度は、気絶しなかったか)
ヴィクトルは魔導書を消滅させると若干離れたところからカズキを見ていた。
カズキがゆっくりと呼吸を整える中、マツリらがカズキのもとへ駆け寄った。
「大丈夫ですか?」
「・・・なん、とか....」
カズキはゆっくり立ち上がろうとするが、身体に思う様に力を入れる事が出来ず、上手く立ち上がれなかった。
「俺も、まだまだですね....」
「でも、気絶しなかった分マシね」
カズキは苦笑いを浮かべながら息を整えると自分の目の前に差し出された手を見た。
「カズキさん」
「?」
カズキに手を差し伸べて居たのはサトミだった。サトミはカズキと目を合わせると頷いて返した。カズキは再びサトミの手に目線を移すとサトミの手を掴んだ。サトミはカズキの手をしっかり握るとカズキを引っ張り、立たせた。
「ありがとう、ございます」
微かに息を切らしたカズキはサトミに礼を言うと後ろを振り返り、地上に上がったディフェンスアルファチームの面々と顔を合わせた。
「グリードワン級の撃滅、お見事です」
「ありがとう、ございます。・・・仲間の援護が無かったら、無理でした。俺もまだまだです」
「自分1人で戦う必要なんてありませんよ」
「そうですよカズキさん。私達を頼って下さい」
「ありがとう....」
マナミとマイの言葉に御礼で返したカズキは帰還を宣言した。
※
一方で、
「クソッタレェ!」
地面を蹴りながらそう叫んだレナードは荒い呼吸で怒りを露わにした。
「俺が、俺が倒さなきゃいけない相手だったのに!。倒す何処ろか、俺は....ッ!クッソ....」
「・・・」
「レナード先輩....」
怒りと悔しさに埋もれるレナードに言葉を掛けれないセシリア達は怒りを露わにするレナードをただただ見るしか出来なかった。
「俺のせいだ。クソッタレ!」
そう叫ぶレナード。すると遠巻きにそれを観ていたクラウスが舌打ちをしたのちレナードに近付くとレナードを殴り飛ばした。
「ッ⁉︎」
「お前は1人で戦う気か?」
「⁉︎」
「ビーストはお前だけの敵じゃない」
「わかってる!」
「分かってない!。だから自分の獲物を取られて怒ってるんだ」
「⁉︎」
「足引っ張る?。時にはそう言う事もあるだろ。・・・お前はチームのリーダーだ。もっと視野を広く持て」
そう言ったのちクラウスは顔を挙げるとセシリアと目を合わせた。
「お前はチームの副リーダーだろ?。隊長が冷静さを失ったら、お前がフォローしなくてどうする」
そう言うとクラウスはレナードらに背を向けると自分のチームメイトのもとへ戻った。
『(殴る必要は、無かったんじゃないのか?)』
「場の勢いって奴だ」
ハチロクにそう返したクラウスは軽く溜息を吐いたのち顔を上に挙げた。
「(“戦う理由”か....なんか、なんとなくだけど見えた、かな....)」
※
4
「そうか」
水縹色の空間で再びベルナールと対面したカズキは自分が見出した戦う理由を伝えた。
ベルナールは胸元と手を添えたのち野球ボールサイズの球体を体内から取り出すとカズキにそれを差し出した。
カズキは表情にハテナを浮かべながら恐る恐るその球体に手を添えると球体は弾けると7枚のカードの様な物に変わり、カズキの周りを浮遊した。
そしてベルナールが右手を振り下ろした瞬間、7枚のカードは束になるとカズキの体内に入り込んだ。
「⁉︎」
「歴代破壊者の力で君に相応しいと思ったものを選んだ。状態に応じて使い分けろ」
「・・・」
「お前なら使い熟せる。・・・頑張れよ」
そう言うとベルナールはカズキに微かに微笑むと光となって消えた。
「歴代破壊者の、力....」
カズキは両手を強く握りしめると表情を鋭くした。
「やってやる!」
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