Episode.13「“パラディンナイト”の目覚め」

1


40メートル程にまで巨大化したのち、純白の光が霞んでいくとそれは姿を現した。


「あれが....」

「パラディン、ナイト....」

「やはりレナードさんが、パラディン」


純白の鎧に身を包み、紺色のマントを棚引かせ、大きな丸盾と剣を構えたその姿はまさに“パラディンナイト”だった。


【破壊者“パラディンナイト”】


レナードはゆっくりと剣を構えると50メートルはあるグリードナイトに突っ込んだ。

互いに横に振った剣の刃先と刃先が勢い良くぶつかる中、レナードは兜の裏側で目付きを鋭くするとそのまま刃先を滑らせてグリードナイトの剣撃を弾くとシールドバッシュを喰らわせた。その際の衝撃を利用してバックステップで後ろに下がるとレナードは再び剣と盾を構えた。


「ソフィア、ヘレナ。グリード級ナイトタイプのデータ収集、お願いね」

「わかったわ」

「了解」


セシリアは逸らしていた目線を再びレナードに戻した。

レナードはシールドを前に構えたままグリードナイトに突っ込んだ。するとグリードナイトは口から火炎を吐いた。すぐさまレナードはシールドでそれを防いだ。が、


(あれ?防壁が展開出来ない。しかもこれ、ただ防いでるだけだ。・・・“浄化者の反撃”は使えないのか....)


レナードはシールドを構えた状態でけん制の意味も兼ねて剣を下から上に振るとグリードナイトの火炎放射を無理矢理終わらせた。

そしてレナードはバックステップで後ろに下がると剣に魔力を送り込んだ。が、


(これ、斬撃力を上げてるだけだ。・・・魔法陣も出せない。“審判者の剣”も使えないのか!)


レナードは舌打ちをしたのちグリードナイトに斬り掛かった。グリードナイトはそれを剣で防いだ。

刃先と刃先が軋み合い、火花を散らす中、レナードの中に焦りなどが生まれ始めた。


(待てよまさか)


レナードは剣を下に滑らせたのちグリードナイトの剣撃を交わすとしゃがみ込みながらグリードナイトの左側に回り込むと低い姿勢のまま剣を右から左に振った。グリードナイトは当然の如くそれを交わした。するとレナードは剣に魔力を送り込んだ。が、


(炎が、纏わない?)


嫌な予感を感じながら剣を振るレナード。

レナードの嫌な予感は的中した。


(“ドラゴンウェーブ”も使えないのか。チッ、変身の代償かよ)


レナードは表情を険しくしながら剣を構え直すとグリードナイトに斬り掛かった。







2


一方....


「バックパックの重りを10キロまで減らして足枷を3キロずつまで減らして漸く走れるってところね」

「その前に重り無しで此処を3周走ってますけどね」

「重り無しで走っても、効果は薄いわ」


サトミの言葉に真剣な表情で返したマツリはシオリに追走されながら2周目に突入したカズキを見た。


「深層を進む事自体、それなりのスタミナを有するわ。このぐらいを軽々こなせない様じゃ、深層の奥を目指すのは難しいわ」

「確かにそうですね。魔力や戦闘能力、これらを支える根本的なものが、カズキさんは出来てない気がします」

「これが終わったら手首と足首に重り付けて重り入りのバックパック背負ってクライミングよ」

「・・・」


マツリの容赦ないやり方に僅かに驚いたサトミはシオリと共に急勾配を登るカズキを見た。

急勾配を駆け上がるカズキをシオリは数歩離れたところから応援していた。


「2周目入りましたよ。その調子その調子」

「はい!」


汗を掻きながら急勾配を駆け上がるカズキ。

だがカズキの身体は不思議と軽かった。


「妙に身体が軽いな」

『(君が寝てる最中に、身体をある程度治癒した。筋肉痛でトレーニング出来ないんじゃ、話にならないと思ったからな)』

「そう言う事だったのか。助かったぜ」

『(気にするな。此方も中途半端な力の使われようをされたら、逆に負荷が掛かるからな。その為にも、可能な支援はするさ)』

「ありがとう」

『(ッ!)』

「どうした?」

『(レナードが、目覚めたぞ)』

「そうか。レナードさんも....」


表現を鋭くしたカズキは僅かにペースを上げると坂を登り切った。







「・・・」


ベッドの上に胡座で座り、目の前に魔力出現させた魔導書を浮遊させるヴィクトルはゆっくりと目を開いた。


「レナード....目覚めたか」


そう呟いたのちゆっくりと目を瞑ると右手をゆっくりと魔導書に翳した。


「・・・」

(やはり想像通り、新種が現れたか。しかも、変身前に使えていた技が使えず苦戦気味か。....レナード、冷静に戦えば、苦戦する相手ではない筈だ。焦らず、自分のペースで戦え)


そう思ったのち魔導書から手を離すと魔導書を閉じて消滅させるとヴィクトルは再び目を開いた。


「あとは、俺だな」


そう呟いたヴィクトルは胡座を崩し、ベッドから立ち上がった。







3


「ッ」


刃先で地面を削りながら地面を滑ったレナードは立膝に崩れたのち右手を地面に付いた。


(中々やるな....)


そう思ったのち顔を上げたレナードはグリードナイトと目を合わせた。グリードナイトは咆哮を挙げたのちレナードに突撃した。

レナードは立ち上がって体勢を整えるとグリードナイトの剣撃を受け止めた。

グリードナイトの汚らしい涎が地面に垂れるかレナードの鎧に付着する中、レナードはグリードナイトの剣撃を弾き返した。


「推されてますね。どうします?」


ヘレナの問い掛けにセシリアは何も答えず口元に手を添えて考え込んだ。その間にもレナードはグリード級ナイトタイプと激しく刃先をぶつけ合った。


「・・・今は、見守りましょう。レナードなら、勝てます」

「・・・」

「不安がっても仕方ないでしょ?此処は、任せてみましょ?」

「....はい」


ヘレナは心配そうな目でレナードを見た。

レナードは盾で剣撃を防ぐと剣を下から上に振り上げた。するとグリードナイトはバックステップでそれを避けた。それを見たレナードはある事に気が付いた。


(彼奴、あまり盾を使ってないな)


レナードは表情を険しくすると盾を前に構えた状態でグリードナイトに突っ込んだ。グリードナイトは口から火炎を吐くがレナードはそれを軽々避けてグリードナイトの右側に潜り込んだ。するとグリードナイトはすぐさま剣を振り下ろした。


(やれるか、いややる。責めて一撃だけでも)


レナードはグリードナイトの剣撃を盾で防ぐとそのまま剣を振り上げた。グリードナイトはすぐさまバックステップで下がった。が、


(浅い。けど、)


レナードの剣撃を避けきれなかったグリードナイトは浅いながらも胴体を大きく斬られた。


(怯んだ。今なら、)


レナードはすぐさまシールドバッシュの構えを取りながらグリードナイトと距離を詰めた。するとグリードナイトは再び火炎を吐こうと口を開いた。

だがレナードは相手より10メートル小さい事を利用して再び背を低くするとグリードナイトの右側に潜り込んで後ろに回り込むと剣を下から上に振り上げ、グリードナイトの右腕を肩ごと切断した。


「シールドバッシュをフェイントに⁉︎」

「凄い....」

「剣は奪った。残るは....」


レナードはバックステップで距離を離すとグリードナイトが振り返った瞬間、剣を前に構えて思いっきり前に突っ込んだ。

そしてグリードナイトが火炎を吐こうとした瞬間、レナードはグリードナイトの頭部を口内ごと貫いたのち剣を振り上げて斬り裂いた。








「フッ、やるね」


フードを深く被り、顔を隠した女は少し離れたところからレナードのパラディンナイトとグリード級ナイトタイプの戦いを見物していた。


「本当は一種だけ出すつもりだったけど、あの子にはもうちょっと頑張って欲しいんだよね」


そう言いながら女はベルトポーチから1枚のメダルらしきチップの様なものを取り出した。

その後、ホルスターから拳銃の様なものを取り出すとチップを挿入口に押し込むと上部スライドを1回引いた。


「これを混ぜたら、どうなるかな?」


そう言ったのち片手で拳銃を構えた女は引き金を引くと銃口から霧状の何かを出した。


「新種をもう1種類見せてあげるよ。最も、君らから見たら新種は1種類だけだろうけど」


撃ち出された霧状の何かは瘴気に変わるとすぐに深層の中に充満する瘴気に混ざり、姿を消した。


「お手並み拝見、と行こうか」








真っ二つに割れた頭部から血を噴き出しながら倒れるグリードナイト。それを見たレナードはグリードナイトの横を通り過ぎたのちセシリアの側にしゃがみ込むと全身を純白に輝かせたのち変身を解き、もとの姿に戻った。


「レナード!」

「レナード先輩!」


息を切らしながらゆっくりと立ち上がるレナードのもとに駆け寄ったセシリア達は変身を解いたのちレナードと顔を合わせた。


「何とか、勝てました」


息を整えながらレナードはそう言うと血を噴き出しながら倒れ込むグリードナイトの方を向いた。


「やりましたね。一時期はどうなるかと思いましたよ」

「自分でも、やばいと思いました」


そう言うとレナードは何処か悲しげな表情でグリードナイトを見つめたのちセシリア達と目を合わせると、


「先、いけますか?」

「・・・」

「....」

「?」


何かを警戒する様な表情でグリードナイトを見つめるセシリア達に疑問を持ったレナードは再びグリードナイトの方を見た。


「・・・?」


レナードが表情にハテナを混ぜた瞬間、死骸となったグリード級ナイトタイプ周辺の瘴気が濃くなるとグリード級ナイトタイプは黒いモヤに包まれた。


「!」


セシリアに合わせる様に彼女達はデルニエフォルトで変身した。そんな事に気付かないままレナードは表情を険しくしていった。

次の瞬間、

グリード級ナイトタイプの死骸は青白い光に包まれるとまるで生き返ったかの様に立ち上がると右腕を生やした。

それを見たレナードは全身から魔力を放出すると片手剣と盾を装備した。







黒い“何か”に包まれたのち青白い光を放ちながら立ち上がったグリード級は55メートルまで巨大化すると光を消し去り、“グリードワン級”へと変貌した。


「なっ!」

「そんな、バカな....」

「こんな事って....」


混乱するヘレナとマシュ。レナードは見開いていた目を鋭くするとセシリアの方を向いた。


「グリード級が、グリードワン級に変異した事は?」

「・・・」

「....今までなかったわね。同タイプ内での巨大化や変異はあっても、クラスそのものが変わるなんて」


硬直するセシリアの代わりにそう答えるソフィア。レナードはゆっくりと振り返るとグリードワン級を見上げた。

斬られた頭部を繋ぎ合わせる事なく二頭身へと変貌させたその姿はまさに怪獣だった。

左と右で高さの違う咆哮を挙げたグリードワン級はレナード達に向けて火炎のブレスを連続で吐いた。

レナードはすぐさま盾から魔法防壁を自分の前方に展開するとランダムに吐かれるブレスを防いだ。

そしてブレスが止むと同時にブレスの魔力を吸収した魔法防壁を圧縮させ、自身の剣に纏わせると、


「浄化者の反撃」


技名を言うと同時に刃状の魔力の塊をグリードワン級へと飛ばし、胴体に命中させた。

呻き声を挙げるグリードワン級に追い討ちを掛ける様に刃先に魔力を集中させ、剣を高く掲げるとグリードワン級の頭上に巨大な魔法陣を出現させた。


「審判者の剣」


技名を唱えながら剣を振り下ろすと魔法陣から巨大な光刃が出現し、グリードワン級を貫いた。


「やった!」

「・・・いえ、」


かの様に見えたが、

グリードワン級は辛うじてのところで避けた。胴体の2割を斬り裂かれたが致命傷とまではいかなかった。胴体から血を流しながらグリードワン級はレナード達を見下ろすと目付きを鋭くした。


(“審判者の剣”を避けた⁉︎。・・・なら!)


レナードは再び刃先に魔力を溜めるとそれを炎に変えたのち力を溜めると思いっきり横に振った。


「ドラゴンウェーブ」


横に振られると同時に放たれた炎の刃は分離し、5体のドラゴンへと変わった。ドラゴンは火を噴きながらグリードワン級に襲い掛かった。

が、短射程の範囲攻撃系魔法ではグリードワン級には大したダメージは与えられなかった。

グリードワン級が喰らったダメージは真ん中のドラゴンの火炎を掠らされただけだった。


「チッ」

「レナード先輩の攻撃でも、流石にグリードワンのあのサイズには....」


マシュがそう呟くとヘレナはリボルバーモードの武器を強く握ったのち鋭い表情でそれを構えると狙いを定め、3発のマグナムマジックショットを撃ち出した。撃ち出されたマグナムマジックショットは“審判者の剣”によって作られた傷口に命中。グリードワン級を大きく怯ませた。


「やった」


マグナムマジックショットを受けた傷口を抑えながらグリードワン級は後ろへ蹌踉めくと身体を180度回頭させ、レナード達に背を向けるとそのまま歩き始めた。


「!、逃すか」

「レナード、待って」

「え?」

「・・・レナード。貴方、自分の身体の事、分かってる?」

「....」


変身の反動かのせいか、レナードはセシリアに言われて自身が酷く疲れている事に気が付いた。


「アレを倒せるのは、恐らく貴方よ。そんな貴方が、そんなに疲れてるんじゃ....」

「・・・分かった....」


レナードは武器を消滅させると再びセシリアと顔を合わせると帰還を宣言した。







4


地上に戻り、報告書をハーシュルに提出したレナードは部屋から退出すると自室へと戻った。


「・・・」

「ッ?」


レナードは通路の端で立ち止まるとたった今すれ違ったヴィクトルの方を向いた。


「....」

「?。レナード、どうした?」

「・・・いえ。何でもありません」


そう言ったのちレナードはヴィクトルに背を向けると再び通路を歩き始めた。


「・・・」

(新種2体に遭遇した挙句、ビーストを仕留め損ねた自分が許せないんだろうな。・・・だがレナード、それは違うぞ。お前含め、全員無事に生きて戻った事が大切なんだ)


語りかける様にそう思ったヴィクトルはレナードから目を離すとレナードとは逆の方へ歩いた。

そんなヴィクトルの思いが届くこともなく、レナードはぶつけ場の無い怒りを抱えていると前から歩いてくるソフィアと顔を合わせた。


「レナード、お疲れ様」

「お疲れ様、です」

「・・・新種に遭遇した挙句、取り逃しちゃったけど、あまり気にしないで」

「へ⁈」

「それなりに場数を踏んでる私達ですから、あの新種相手には驚きと恐怖を持ったわ。そんな新種に怯む事なく立ち向かえた貴方は凄いわ」

「・・・」

「折角皆んなで無事に戻って来れたんですもの。次も頑張りましょ」


そう言うとソフィアはレナードに挨拶したのちその場を後にした。


「・・・」

(強いな。あの人は、いやあの人達は)


両手を強く握りしめたレナードは鋭い表情を浮かべたのち前を向くと再び歩き始めた。

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