Episode.12「測るべき物差し」

1


次の日....


色々悩むに悩んだレナードは自分のチームであるストライクチャーリーチームに招集を掛けた。


「出撃か?」


ジュピターの発言にレナードは頷いて返すと副リーダーのセシリアの方を向いた。


「色々考えたが、考えるだけじゃ始まらないし、同じ破壊者としてカズキやクラウスに遅れは取れない。深層へ潜り、行けるところまで行こうと思う」

「わかりました。他のチームはまだ深層の入口付近までしか潜ってません。そう言う意味では、」

「上手くいけば、他のチームよりリード出来るな」


セシリアの言葉を遮る様にそう言ったジュピターは軽く腕を鳴らした。


「よし、皆んなが行けるなら今すぐにでも出発しよう」

「「「「「了解!」」」」」

「・・・」


少し離れたところからストライクチャーリーチームの会話を立ち聞きしていたヴィクトルは長めに瞬きをしたのちその場を後にした。


(歴戦のストライクですら見た事の無い様な新種が現れるだろ。だがレナード、お前なら対抗出来るはずだ。冷静にな。自分を乱すなよ)







2


濁流を降り、深層へと入り込んだストライクチャーリーチーム。レナードは隊の先頭に立つと辺りを見渡した。


「森?」


山岳の森林地帯を思わせる光景が彼らの目の前には広がっていた。が、山岳や森林ほど、空気は美味しくはなかった。


「クラウスさん達が潜った時には、“渓流”って聞いてたんですが....」

「見通しが悪いですね。奇襲に警戒しながら進んだ方が良さそうね」

「ひとまず下を目指しましょう。深層は下に潜れば潜るほど、奥に進んだ事になりますから」

「わかった」


ソフィアの助言に返事を返したレナードはギロっと視線を左に向けるとゆっくりと歩き始め、勾配を降り始めた。

敢えて僅かに距離を離しながらレナードの後を追うセシリア達にはレナードの中になんとも言えない漠然とした不安の様なものがある事に勘付いていた。


「どうフォローします?」

「今は、見守りましょう」


ソフィアの問い掛けにそう返したセシリアは僅かに表情を鋭くすると取り出したデルニエフォルトを強く握った。


「この瘴気と妙な薄暗さが無ければ、ちょっとしたハイキングって気分になれるんですが....」

「いつ襲われるかわからないって言うのが、ね....」

「それは普段山道を歩いているのも同じでしょ?いつ熊が出て来るか分からないんだから」

「「・・・」」


ソフィアの一言に返すべき言葉を失ったヘレナとマシュは互いに顔を合わせるとなんとも言えない表情を浮かべた。

そんな彼女達を他所に、レナードは鋭い表情に僅かな不安を混ぜ始めた。


(何故だ。妙な感じはするのに、ビーストは全く感じない。気味が悪くてしかないぜ)

「・・・ッ」


彼女達の中でいち早く“何か”に気が付いたジュピターはデルニエフォルトを使って変身するとバスターブレイドを構えながら前に飛び出した。


「「「「!」」」」


それと同時に“何か”の正体に気が付いたセシリア達もデルニエフォルトで変身するとすぐに散開した。


「ッ?」


何が起こったか状況が掴めないレナードに4メートルはあるミディアム級が突進して来た。


「な゛っ!」


突然の事で対応出来ないレナード。そんなレナードを庇う様にジュピターはバスターブレイドでミディアム級の突進を受け止めた。


「!」

「ささっとしろ。囲まれてるぞ!」

「あっ、ああ!」


レナードはすぐさま全身から魔力を放出すると右手に【片手剣“ヴィルトゥの剣”】、左手首に【盾“メイジシルト”】をそれぞれ装着した。

そんなレナードを他所にジュピターはバスターブレイドを弾いてミディアム級の体勢を崩すと飛び上がったのちミディアム級を勢いある斬撃で粉砕した。


(凄いな)


そう思うレナードを他所に彼女達は自分なりのやり方で戦いを進めて行った。

セシリアはアサルトモードの銃口からアサルトマジックショットを連射しながらミディアム級と距離を詰めつつ二足歩行のスモール級を蹴散らすとアサルトモードからバスターモードに切り替えると勢いのある横斬撃で四足歩行のミディアム級の胴体を上下真っ二つにしたのち自分に突進してくるミディアム級の突進をジャンプで回避すると空中で身体を回転させながらその勢いでミディアム級の頭部を斬り落とした。

ソフィアはブレイドモードからリボルバーモードに切り替えるとスモール級の頭部に風穴を開けたのち左手首に装着されたシールドを構えるとシールドバッシュでミディアム級の頭部を粉砕した。それと同時に右手に構える武器をリボルバーモードからブレイドモードに切り替えると自分の背後から迫るスモール級の頭部を斬り飛ばした。


(流石だな。俺が介入する隙もない)


ヘレナとマシュは互いに背中を護りながら戦っていた。

マシュの構える大型なシールドがミディアム級が放つマジックショットを受け止めている隙にヘレナはマシュの背後から迫るスモール級を全滅させると武器をブレイドモードからリボルバーモードに切り替えたのちマシュを攻撃するミディアム級に風穴を開けたのちミディアム級の群れの隙を突く様に距離を詰めるとリボルバーモードからブレイドモードに切り替えたのちミディアム級を前後真っ二つに斬り裂いたのちシールドバッシュで1体仕留めた。そんなヘレナをカバーする様にマシュは前に出ると身丈程の大きさがある大型なシールドから繰り出されるシールドバッシュでミディアム級を粉砕した。


「・・・」

「前から来てるぞ!ボサッとするな」


ジュピターの喝に反応する様に前を向いたレナードは自分のもとに迫る5メートルはある四足歩行のラージ級4体を鋭い目付きで見た。


(あれを一掃するには....)


一瞬目を見開いたレナードは片手剣の刃先に魔力を集めるとラージ級の頭上に巨大な魔法陣を出現させた。


「審判者の剣!」


技名を唱えると同時に魔力の集約した片手剣を勢いよく振り下ろすと出現させた魔法陣から光の剣が飛び出した。飛び出した光の剣はラージ級を頭上から貫くと前後真っ二つに斬り裂き絶命させた。


「凄い....」

「4体のラージ級を、たた一撃で」

「これは、負けていられないわね」


ソフィアの言葉に頷いて返したセシリアはすぐさま前に出た。それに続く様にソフィア・ヘレナ・マシュも前に上がった。


(速ッ)


レナードがそう思うのを他所にジュピターと合流した一同は絶命したラージ級の死骸の後ろから迫るマルールビーストの群れに斬りかかった。


「・・・」


介入する隙を見つける事が出来ぬまま彼女達の戦いぶりをただただ見るしかなかったレナードの中には様々な葛藤があった。


「レナード、左から来てるわ」


ソフィアが示した方向を振り向いたレナードは7メートル前後はある四足歩行のラージ級を瞳に写した。


(さっきよりもデカいな。同じ方法で倒しても良いが....)


そう思った矢先、ラージ級はレナードに向かって無数のマジックショットを放った。

すぐさまレナードはシールドを構えると同時にシールドに魔力を集中させたのちそれを放出するとドーム状の魔法防壁を展開した。

そしてラージ級が放ったマジックショットを全て魔法防壁で受け止めると同時に魔力を吸収すると防壁の魔力ごとそれを圧縮させたのち剣の刃先に纏わせた。


「浄化者の反撃!」


再び技名を唱えると同時に刃先に纏った魔力の塊を刃状にしてラージ級に向けて飛ばした。

飛ばされた刃状の魔力の塊はラージ級の頭部を斬り落とすとラージ級を絶命させた。







「凄いカウンター魔法ですね」


軽く目を見開きながら振り返った先には戦闘を終えてレナードのもとに集まるセシリア達が居た。


(たったのラージ級5体か....チッ、何処まで未熟なんだ俺は)


戦闘が終わった事を悟ったレナードは武器を消滅させると戦闘体勢を解いた。それを見たセシリア達も変身を解くともとの服装に戻った。


「皆んな凄いですね」

「レナードさんだって凄いですよ。ラージ級を一撃で、しかも複数体同時に倒しちゃうんですから」

「でも、俺は....」


何か反論しようとするレナードを見たセシリアは呆れ笑みを浮かべながらため息を吐くとレナードの肩にそっと手を置いた。


「?」

「1つの物差しで測りすぎですよ。隊長の戦果も素晴らしいじゃないですか」

「そうよ。まだ着任したばかりなんだから右も左も分からないの当然でしょ?一緒に頑張りましょう?」

「セシリア、ソフィア....わかり、ました....」


セシリアはもう一度軽くレナードの肩を叩くと今後の方針を尋ねた。


「進みましょう」

「「「「「了解!」」」」」


レナードは先に歩き始め、隊の先頭に立つとそのまま歩き始めた。


「今回は自己判断で戦ったけど、次はどうする?」

「暫く、このままで行きましょう。ただ、任せられそうなら、任せましょう」

「了解よ」


(レナード。カズキやクラウス、ヴィクトルと比べるのは間違いよ。貴方には貴方にしかない強さがあるのだから。1つの物差しで測りすぎないで)


そう思いながらセシリアは静かにレナードの後を追った。







3


「・・・?」


妙な何かを感じ取ったレナードは不意に脚を止めた。


「?」

「・・・」


目を見開きながら辺りを見渡すレナード。すると彼らの耳にズッシリと重い足音が入り込んだ。


「デカいわね」

「グリード....いやこれは....」


レナードはすぐさま全身から魔力を放出すると片手剣と盾を構えた。それを見たセシリア達もすぐさま変身すると武器を構えた。

そして重い足音が近くで止まった瞬間、それは姿を現した。


「ァッ!」

「何、あれ....」

「グリードワン?、いや違う」

「・・・」


彼らの目の前に現れたのは50メートルはある“グリード級”だった。しかも右手に剣、左手に盾を構え、竜とトカゲを足して2で割った様な外観のマルールビーストだった。


「ビーストも、ああ言った武器を持つのか?」


レナードの問い掛けにセシリアは驚いた表情のまま首を横に振った。


「あんなの、見た事ない」

「しかも、グリードは大きくても20メートルしかない。・・・あんな巨体が居たなんて....」

「まさか新種?」

「だとするなら“グリードナイト”ってところか?」


ジュピターは吐き捨てる様に言うとレナードに指示を求めた。


「・・・任せて貰って良いですか?」

「!」

「まさか、」

「その、まさかです」


そう言うとレナードは数歩前に出ると全身に純白の光に包み込むと体内からナイフと鞘の様なものを出現させると鞘を右腕に嵌めるとナイフのグリップを指と指の間で挟む様に持つと鞘にナイフを挿入した。そして光に包まれる右腕を勢い良く振り下ろすとレナードは目が眩む程の純白の光に包まれた。

その純白の光は人の形を保ちながら巨大化した。

つまり、レナードは“変身”した。

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