Episode.10「“エンジェルアーチャー”の目覚め」

1


全長40メートルにまで巨大化した人型の光は徐々に輝きを失うとその姿を現した。

銀色と赤色でカラーリングされ、胸に金色のV字ラインが入った鎧の様な物を身に纏い、内側が白・外側の端が赤の翼を背中から生やし、右手に『善なる弓“ヴェルチュアルク”』を持ったその姿はまるで『弓を持った天使“エンジェルアーチャー”』だった。


「やはり、クラウスさんが....」

「“空を制する天空の覇者”....」

「エンジェル....アーチャー....」


クラウスが変身した姿を見て伝承の一部を呟くストライクブラボーチームの面々。


【破壊者“エンジェルアーチャー”】として目覚めたクラウスは胸元にある朱色のエナジーコアを輝かせるとヴェルチュアルクに纏う炎をより一層強く燃やした。


「空を飛ぶ者同士の対決。どうなるのかしら?」

「・・・」


(力は互角かクラウスさんの方が上、けどクラウスさんは今回が初めての変身。・・・)


アニエスは無言でそう思った。

そんなアニエスを他所に50メートルはあるグリードワン級飛行型は目付きを鋭くすると気高き咆哮を挙げたのち空に飛び上がった。







クラウスは丁度エンジェルアーチャーの目元の中に出来た空間内に居た。

カズキとは違い、インナースペースを思わせるコントロールセンターの様なところでクラウスはエンジェルアーチャーを“操作”する事となった。


「行こう。ハチロク」

『ああ。翼は人間には生えていないものだ。注意して扱うんだ』

「わかった」


クラウスは空に飛び上がったグリードワンを見上げるとそれに同化してエンジェルアーチャーも空を見上げた。

クラウスは脚に力を入れて飛び上がると同時に翼を羽ばたかせると空に飛び上がった。


(行くか)


弓を構え、アローアームドから出現させた矢を弦に引っ掛けると翼を操り、グリードワンを追った。


「ッ」

(翼を操りながら弓を構えるのって、こんなに難しいのか!)


そう思いながら弦を引くクラウス。

普段、体に無いものを操り且つ空を飛びながら何かをするのは、クラウスにとっては未知であり苦に近かった。


「うわっ」


すぐさま体勢を崩し、そのまま地面に落下する。その光景を見たクラウスは「不味い不味い不味い」と言いながら翼を羽ばたかせ様とするが....


「グッ」


健闘虚しく墜落した。クラウスはゆっくりと身体を起こすと空中を飛び回るグリードワンを見上げた。

クラウスは軽く舌打ちをするとそのまま弓を構えて再びアローアームドから矢を出現させると弦を引いて矢を放った。

風を切り裂きながら飛翔する炎の矢。しかし、それは軽々と避けられてしまった。

クラウスは怯む事なく狙いを定めて矢を放つが、


「チッ!。・・・やっぱり飛ばないと無理か」


クラウスは立ち上がると再度翼を羽ばたかせて浮かび上がると翼を操って再び空へ飛び上がった。







翼の操り方も知らぬまま必死に翼を羽ばたかせて空を飛ぼうとするクラウスを見上げて居たアニエスらは表情に心配を混ぜ始めていた。


「やっぱり、扱いきれてない....」

「翼なんて人間には無い。人間に無い部位を操るって言うのは、相当な苦である筈です」

「勝てない、のでしょうか?」


サイリに続いて不安を口にするデュース。するとアニエスは僅かに微笑むと、


「大丈夫ですよ」

「え?」

「今は、信じましょう」

「信じる?」


デュースの疑問に頷いて返したアニエスは再び空を見上げた。


「今の私達に出来るのは、破壊者....いえ、クラウスさんを信じる事。クラウスさんの勝利を信じる事です」


そう言いながらアニエスは不慣れながらも必死に空を飛び、必死に矢を放とうとするクラウスを目で追った。

だがグリードワン級が口から吐いた火炎ブレスを喰らったクラウスはそのまま体勢を崩し、地面に落下した。


「信じる、か。確かに、それが1番の援護かもしれませんね」

「信じましょう。クラウスさんを」







「クッソ....」


ゆっくりと身体を起こしたのち立ち上がろうとしながらそう呟くクラウス。宙を優雅に舞うグリードワンを見上げたクラウスは必死に頭を回した。


『両方いっぺんにやろうとするな』

「何?」

『今は飛ぶ事に専念してみてはどうだ』

「・・・成る程なッ」


何かを掴んだクラウスは再び翼を羽ばたかせて浮かび上がるとグリードワンを追う様に空を飛んだ。

グリードワンの翼の動きを観察しながらゆっくりと飛びつつ、グリードワンの吐くブレスを上手く回避するクラウス。


「・・・そう言う事か!」


そうハッキリと言ったクラウスは翼を動かしながら急上昇したのちグリードワンの真上に飛び上がるとそのまま弓を構えて矢を引いたのちグリードワンがブレスを吐くタイミングで矢を放った。

炎の矢と火炎ブレスが空中で衝突するとグリードワンは急加速しながら火炎の中を突っ切って来た。


「成る程。そうやるのか」


クラウスは翼を羽ばたかせて上昇し、空中でバク転するとグリードワンの突撃を回避したのちすぐさま矢を放った。

放たれた矢はグリードワンのケツに命中した。


「確かに。分けた方がやり易いな」


そう呟いたクラウスはグリードワンが旋回すると同時に急降下するとクルッと身体を回転させて弓を構えるとグリードワンの腹を射抜いた。

2発も矢を喰らった事に怒りを覚えたグリードワンはクラウスに向かってブレスを吐きまくった。

だが、数分前のクラウスと違い、ブレスに背を向けた状態で地面スレスレを飛んでいるにも関わらずそれを回避した。


『飲み込みが早いな』

「アンタのお陰さ」


そう答えたクラウスは翼を操って急上昇すると勢いが消えないうちに再び矢を引いた。

だがクラウスは何を思ったのか構えを解くと弓と矢を消滅させたのちブレスを回避する為に翼を羽ばたかせた。


「ハチロク。アームドからマジックブレイドを出せるか?」

『勿論だ』

「よし。・・・決定打を撃ち込むには、翼が邪魔だな」


そう言ったクラウスは両腕に装着されたアローアームドに魔力を集中させると地面に降り立った。

目の前で両腕をクロスさせて、両手を思いっきり強く握るとアローアームドの先端から魔力製の刃を出現させたのちそれを腕を外側に振り下ろすと“マジックブレイド”を出現させた。


「いくぞ」


ブレイドを出した状態で両脚に力を込めて飛び上がったのち翼を羽ばたかせて空に戻るクラウス。

グリードワンも本気になったのかアクロバットな飛行を繰り広げながら只管口からブレスを吐いた。

クラウスはそれを回避するかブレイドで斬り裂きながらグリードワンとの距離を詰めた。


「よし、こうだ」


翼を操り、急上昇させるクラウス。

グリードワンよりも高い場所を飛び回るクラウスはチャンスを伺いながら、


(俺、飛べる。飛べて来た)


フラつきを無く飛びながらブレスを避けるクラウスはそう思いながらふとある事を思った。


(なんか違う。本来なら、こんなに早く慣れる訳無い。・・・ここまで飛べるのは、多分俺だけの力じゃない。ハチロクと、俺を信じてくれる人達のお陰だ)


下に居る仲間の気持ちを感じ取ったクラウスは鋭い目付きでグリードワンを観ると、


「・・・ラインが見えた」


クラウスは翼を操り、自身を急加速させるとブレスを避けながらグリードワンと距離を詰めた。


『奴はおそらく上に行く』

「了解だ」


クラウスは両手を強く握りながらグリードワンと距離を詰めた。

そして予想通り上に逃げたグリードワンを追う様に急上昇するとすれ違いざまに腹を斬り裂くと怯んだ隙に後ろに回り込むとグリードワンの両方の翼を斬り落とした。

翼の8割を失ったグリードワンはそのまま地面に落下した。







地面に落下したグリードワンは先程吸収しそびれたマルールビーストの死骸がある方へ移動を開始した。


「させねぇぜ」


そう言ったのちクラウスは左腕のアローアームドからマジックブレイドを消滅させると再び弓を召喚した。


『使う気か?』

「確実にトドメを刺すには、これが1番だ」


そう言ったのちエナジーコアを輝かせるとその光を弓に纏わせたのち弓を燃え盛る炎で包み込み、それを構えた。


「ッ!」

『大丈夫か?』

「問題ない」

『この技は使用者に負荷が掛かる。1回の変身につき、1回きりの技だ』

「そうか。なら尚のこと外せないな」


鋭い表情のままそう言ったのち右腕のアローアームドから伸びるマジックブレイドをそのまま矢にすると弦に引っ掛けた。


(行くぜハチロク)


そう思いながら左腕のアローアームドから弓に魔力を送り込みつつゆっくりと弦を引いた。

弦は非常に重く、膨大な魔力を纏って居た。それに負けじと鋭い目付きのまま弦を引くクラウス。

やっとの思いで弦を引き切ったのちチャンスを伺うクラウス。そしてグリードワンが翼の再生が始まった瞬間、クラウスは目を見開くと弦から指を離した。







「ッ!」

「なんて膨大な魔力!」


クラウスが構える弓から感じ取れる膨大な魔力を前にアニエス達は怯まずには居られなかった。


「これが、破壊者の魔力....」

「膨大だな。ストライクよりも、遥かに凄そうだ」


アジーが僅かに怯みながらそう言うと限界まで弦を引き絞ったのか、クラウスは腕を止めた。


「あんなの喰らったら、幾ら50メートル級のグリードワンでも、」

「ひとたまりもないですよ」

「ッ!不味い、グリードワンが翼の再生を始めたぞ」


ガエルがそう言った瞬間、クラウスは弓から矢、と言うより弓と同等のサイズの炎の塊を放った。


“オーバーキル・フェニックスストライク”


そう呼ばれる技によって放たれた炎の塊は大きな鳥の様な形状を保ちながらグリードワン級に向かって飛翔した。


「まるで、不死鳥、ですね」


アニエスがそう言った瞬間、放たれた不死鳥はグリードワン級に振り返る余裕を与える事なく貫いたのちそれだけでは飽き足らずそのまま貫通して地面に大穴を開けた。

不死鳥に貫かれたグリードワン級は真っ二つに裂かれると貫かれた効力で燃え盛るとそのまま焼失した。


「・・・オーバー、キル....」

「凄い威力....」


デュースとユリアが目を見開く中、アニエスとガエルは前に出て歩くと渓谷下を見下ろした。

グリードワン級だけでなく、さっきの戦闘で出来たマルールビーストの死骸までも焼失していたのを見て2人は顔を見合わせた。


「吸収防止か、或いはただ単に飛び火を喰らったか。どのみちとんでもない威力だな」

「これだけの威力、恐らくクラウスさん本人にも相当な負荷が....」


アニエスはそう言ったのち自分らの側にゆっくりと降り立つクラウスの方を向いた。







軽く息を切らしながらクラウスは弓を握ったまま左手を胸元に添えると余った魔力を光に変えてエナジーコアに戻した。


「流石に、強力なだけあってキツイな」


そう呟いたクラウスは辺りを見渡したのち翼を操作してもう一度飛び上がると翼や身体を動かして辺りを見渡した。


「・・・ビーストは、....いない、か?」

『確かに、反応は無いな』


クラウスは頷きながら翼を動かすと再び地面に着地した。そして弓から手を離し、消滅させるとゆっくりと息を吐きながら両腕を伸ばして下でクロスさせたのちゆっくりと上げると空間を光で包み込んで変身を解いた。

朱色の光に包まれながら地面に着地すると自分らに駆け寄ってくる面々に目を向けた。


「クラウスさん、大丈夫ですか?」

「俺はな。其方は?全員無事か?」

「はい!」

「此方も問題ない」


クラウスは頷いて反応すると辺りを見渡したのちアニエスと顔を合わせた。


「辺りにビーストは居ない。一応当初の目的は達成だが、どうする?ディフェンスチームが平気なら、探索を続けるべきだと思うが?」

「私達は大丈夫だが....」


サイリはチラッとアニエスの方に目を向けた。

するとアニエスは溜息を吐いたのち呆れた様な表情を浮かべながらクラウスに近付いた。


「クラウスさん。酷い顔ですよ」

「?」

「そんな状態で、戦闘や探索が出来るとは思えませんが?」

「・・・」


クラウスは短く笑いながら息を吐くと後頭部に手を添え、


「そんなに酷い顔してるかな?」

「はい。今にも倒れそうなぐらいに」


照れ隠しの様に頭を掻くクラウス。するとクラウスは手を下ろすと顔を上げた。


「皆んな、ありがとう」

「え?」

「?」

「皆んなの支えが無かったら、あんなに早く飛べる様にはなってないし、アレにも勝てなかった気がする」


そう言うとクラウスは改めて礼を言ったのち頭を下げた。


「ちょっと、クラウスさん?」

「我々は何もしていない。ただ、信じただけだ」


クラウスは頭を上げると「それが有り難かったんだ」と言った。


「クラウスさん....」

「信じて貰うだけで、それは凄い力になるって知ったよ。本当に、ありがとう」

「・・・」


(やっぱり、信じて正解でした)


アニエスは心の中でそっとそう思った。


「・・・当初の目的は達成したし、戻るか」







2


「....そうか」


地上に戻り、アニエスと2人で報告書を纏めたクラウスはそれをアーネストに提出した。


「ふむ。・・・んで?」

「?」

「深層の恐ろしさ、自分が得た力、少しはわかって来たか?」

「少しずつ、ですが」

「そうか。まっ、俺からは特に指示は出さん。やりたい様にやって、知って、進んで行け」

「わかりました」

「行って良い」

「ハッ、失礼します」


クラウスはアーネストに敬礼をしたのち部屋から出た。それを見送ったアーネストは煙草を1本取り出して口に咥えて火を付けると煙草を咥えたまま煙を吐いた。


(クラウスは平気だったか。・・・だとするなら、)


そう思ったアーネストはホログラムデータをスライドさせると数時間前にハーシュルから提出されたデータを見た。


(やはり“器”の問題か....)


ホログラムを閉じたのち煙草を咥えたまま「ふむ」と呟くと視線を上に向けた。

そして煙草を指で摘み、口から離した瞬間、部屋の扉がノックされた。


「?。誰だ」

「ハーシュルです」

「入れ」

「失礼します」


ハーシュルは丁寧にドアを開けて入室すると丁寧に閉めたのちアーネストに敬礼をした。

アーネストは灰皿に煙草をそっと置くとハーシュルに要件を尋ねた。


「訓練生チームから今後の訓練計画の改正案が提出されました」


アーネストはハーシュルの端末からデータを受け取ると机のスイッチを操作して、ホログラムデータとして表示させたのち中身を確認した。


「・・・明日、各チームを視察する。現場の状況を見て判断する」

「わかりました。ストライクは、宜しいんですか?」

「奴らの事は奴らに任せてる。今は戦力増強が必要不可欠だ」

「わかりました。各チームに伝えておきます」

「頼む」


ハーシュルは再びアーネストに敬礼したのち部屋から退出した。それを見届けたアーネストはホログラムデータを閉じると灰皿に置かれた吸い掛けの煙草を再び咥えた。







3


「・・・」


ベッドに横たわりながら目を閉じていたクラウスは息を吐きながらそっと目を開くとゆっくりと身体を起こした。


(身体は疲れてるのに、中々寝付けないな....)


そう思いながら身体を動かし、ベッドに座り込んだクラウスは右手で顔を覆った。


「ハチロク」

『(どうした?)』

「他の破壊者は、どうやって戦ってたんだ」

『(君と同じだ。ただ、他は弓だけで戦っていた)』

「ブレイドは、使わなかったのか?」

『(“使わなかった”と言うより“使わせる必要がなかった”)』

「と、言うと?」

『(さっきも言った通り、この間違った終わりは強力且つ強大だ。破壊者としての力をフルで使う必要がある)』

「そうか....」

『(・・・1人目の破壊者は、)』

「?」

『(1人目は君と同じ“クラウス”と言う名のエルフだった)』

「エルフ?」

『(そうだ)』

「・・・」

『(その時も相手は強大だった。大陸程の大きさがある巨大なドラゴンだった。それでも、そのエルフは諦めずに戦い、勝った。生きて勝った)』

「だが、今回の相手は....」

『(今回は私だけではない)』

「確かにそうだな」

『(相手は確かに強大だ。滅ぼせるか、破壊出来るかはわからない。けど、皆そんなモノ相手に勝ってきた)』

「・・・やってみるだけ、やってみるつもりだ」

『(ああ。私も可能な限り力を貸そう)』

「頼む」







右手で顔を覆ったまま震える息を吐いたクラウスはノックされた扉の方を向いた。


「入って大丈夫ですよ」

「失礼します」

「失礼する」


入室して来たのはアニエスとサイリだった。

クラウスは右手を顔から離すとベッドから立ち上がり2人と顔を合わせた。


「どうか、したか?」

「クラウスさんの様子が気になったら、途中でサイリさんと会って、」


クラウスは頷いて返すと2人にソファを勧めた。

2人を座らせたのちクラウスはゆっくりとベッドに腰掛けるとアニエスと目を合わせた。

数秒の無言をクラウスの息を吸う音が砕くとクラウスはゆっくり話し始めた。


「俺が、」

「?」

「俺が86番目のエンジェルアーチャーらしい」

「86番目?」

「って事は、過去にも」

「そうらしい。んで、こっから先は2人にだけ話す事だが、」

「は、はい」

「どうやら破壊者ってのは基本1人らしい。4人も揃うって事は無いようだ」

「・・・」

「まさか、それだけ相手が強大って事か?」


サイリの言葉にクラウスは頷いて返した。

するとクラウスは僅かに笑みを浮かべ、


「けど、今日の戦いで感じた。相手が強大でも、立ち向かえる気がする」

「え?」

「信じる心、って言うのは、それだけ大きな力なんだって、今日知ったよ。・・・心と言うものが、これだけ大きな力を産むとは思わなかった」

「クラウスさん....」

「“団結こそ力”、俺はそれが口先だけで信じられなかった。けど、俺は、俺はもう一度信じてみるよ」

「・・・」


クラウスの言葉を聞いたサイリは少し考えるとクラウスと目を合わせたのち、


「わかった。クラウスさんがそう言うのなら私はクラウスさんを信じよう」

「?」

「クラウスさんが信じてくれるのなら、私も、いや我々もクラウスさんを信じよう」

「私もサイリさんに同意見です」

「アニエス、サイリ。ありがとう」


クラウスは笑みを浮かべながら2人に礼を言った。

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