Episode.08「祈り」

1


「・・・?」

「....?」

「・・・?」


その場に座り込んで気を失って居たマツリ・サトミ・シオリは意識を取り戻すとゆっくりと立ち上がった。


「「「・・・」」」


無言で辺りを見渡す3人。

空間の中心には大きな川が流れており、至る所に岩場や岩山、岩壁があり、発光体の様なものが埋め込まれた謎の石碑がらしき物もあった。所々にある湖らしき水の溜まり場がそんな石碑や岩山を反射させ、空間を神秘的に見せて居た。


「此処は?」

「一体....」

「何処?」


3人はそう言ったのち互いに顔を合わせると地響きのする方を向いた。

3人の視線の先では、カズキとグリードワン級が激しく戦って居た。

カズキは10メートルのハンデを思わせない程の戦いっぷりを3人に見せて居た。


「カズキさん....」

「・・・」


カズキはグリードワンの顔面を両手で押す様に殴るとグリードワンの腹部に飛び蹴りを喰らわせ、グリードワンの体勢を崩すと顔面に回し蹴りを喰らわせた。


「・・・」


マツリは何も言えずただただ無言で2体の戦いを観ていた。

そんな事も知らず只管グリードワンを蹴る・殴るカズキ。するとグリードワンは戦況困難と判断したのか、一度カズキから距離を離すと全身を青白く発光させた。


「何をする気?」


シオリの問い掛けに答える様にグリードワン級は背中から生える突起物を変化させると伸縮自在の腕に変化させた。


「ッ」


流石のカズキも驚きを隠せず一歩下がった様な構えを取るとグリードワン級との距離を詰められずに居た。


「形態変化?」


サトミがそう呟くと同時にグリードワンは腕をカズキに向かって勢いよく飛ばした。

カズキはそれを殴り弾くか蹴り弾くかするとグリードワンとの距離を詰めた。だが左横から飛来した腕の先端に脇腹を殴られてバランスを崩すと右横から脚を殴られて横転した。

するとグリードワンはマツリら3人に気が付くと咆哮を挙げながら3人に歩み寄った。


「ッ!」


サトミは弓矢、シオリはアサルトのマグナムマジックショットを構える中、カズキはすぐさま立ち上がると全速力で距離を詰めて飛び上がるとグリードワンにヘッドロックを仕掛けた。が、背中から生やす腕に身体の至る所を殴られ、締めが弱くなった所を身体を起こした勢いで後ろに吹っ飛ばされたカズキは胸元のエナジーコアの光を暗くし始めた。

だがそんな事気にしないかの様にすぐさま立ち上がったカズキはスライディングで腕の下を掻い潜るとそのまま腹に蹴りを喰らわせたのちマツリら3人との間に立ち塞がる様に立つと構えを整えた。


(ひとまず此奴を3人から引き離さないと)


そう思ったカズキはグリードワンに体当たりするとそのまま腹を左手でパンチすると飛び上がったのち右拳でグリードワンの顔面を殴った。


「ッ」


グリードワンは蹌踉めきながら数歩下がったのち背中から生やす腕をマツリらのもとへ飛ばした。

カズキはすぐさま3人の前にしゃがみ込むと背中でグリードワンの腕が繰り出す殴打を何発も受け止めた。


「バカメ。ソウイウコトヲスルカラフカンゼンナンダヨ」


グリードワンは悪魔の様な声でそう言った。

カズキは振り向き際に左手で腕を弾き返すと素早く立ち上がった。


「イワンコッチャナイ。モウゲンカイカ?」


カズキはグリードワンの言葉に反応する様に胸元に目を向けるとエナジーコアが点滅初めていた。

グリードワンは笑いながら口から火炎を吐くとカズキを只管攻撃した。

6発の火炎を受けたカズキは力が抜けた様にその場にしゃがみ込むと左手を強く握った。

そんなカズキの顔面をグリードワンは背中から生やす腕でアッパーを決める様に殴った。

仰向けになって倒れたカズキはすぐさま立ち上がるとアームドスレイヤーのエネルギー発生源“リベレーション”から発生させたエネルギーを両手に包むと左脇腹付近で両手を重ねエネルギーを圧縮させた。


「?」


サトミが表情にハテナを浮かべるとカズキは抜刀の如く右手をスライドさせると右手先から【光粒子エネルギーの刃“オーバーパーティクルインパルス”】を飛ばした。


「⁉︎」


グリードワンが驚いた瞬間、放たれたエネルギー刃がグリードワンの背中から生やす方の右腕に命中。凍結させる様な音と共に内部から分子分解させると強風に晒された砂山の如く消滅した。


「凄い....」


カズキは胸元のエナジーコアの点滅を気にする事なく走り出すとグリードワンに飛び蹴りを喰らわせたのちサマーソルトキックを喰らわせた。


「シニゾコナイノクセニ」


蹌踉めきながら数歩下がったグリードワンは若干人間らしさを取り戻した様な声でそう言った。


(死に損ないはテメェだ)


そう思いながらカズキは走り始めた。

グリードワンの目の前で飛び上がると左拳で顔面を殴ったのち右拳でアッパーを決めると50メートルもある巨大を一本背負いで地面に叩き付けた。

そのまま追撃を掛けようとするが尻尾と背中から生やす左腕のダブルコンボに妨害される。


(なら!)


カズキはすぐさま一歩下がると再びリベレーションからエネルギーを発生させ、両手の平に移したのち圧縮させると右手を横に振り、右手先から光粒子エネルギーの刃を飛ばした。

放たれたエネルギー刃はグリードワンの背中から生える左腕に命中。右腕と同じ様に分子分解した。


「ワルアガキガ!」


そう叫びながら立ち上がったグリードワンは身体を回転させると同時に尻尾をスイングさせるとカズキの頭部に当てた。

カズキは尻尾も同じ様に消滅させようと再びリベレーションからエネルギーを発生させるが、


「オナジテヲナンドモクラウカ!」


グリードワンは口から火炎を吐くとカズキのエネルギー圧縮を阻止した。グリードワンはカズキに近付きながらその隙を突くように火炎を吐きまくり、カズキに只管当てた。

胸元のエナジーコアの点滅が早まる中、グリードワンは指先を触手に変えるとカズキの両腕に巻き付けると電撃攻撃を喰らわせた。


「カズキさん!負けないで!」

「カズキさん!」


電撃攻撃を喰らった事で苦痛の声を挙げるカズキ。そんな声に反応する様に更に点滅を早めるエナジーコア。サトミとシオリは只管カズキに応援を飛ばした。が、そんなカズキにトドメを刺そうとするが如く、グリードワンは口内にエネルギーを溜め始めた。

そんな中、マツリは何かを祈ったのち、決意した様な表情を浮かべると小走りで前に出た。


「カズキ!。リクトを、弟を、解き放って!。苦しみから解放して!」


カズキはマツリの方を向くと力強く頷いて返したのち両肘から腕にかけて生える刃を赤く輝かせるとそのまま腕をスライドさせて触手から腕を引き抜くと同時に触手に切れ込みを入れるとそのままグリードワンにサマーソルトキックを喰らわせて口内のエネルギーチャージを阻止した。


「ナ゛ッ」


バックステップで後ろに下がったカズキは構えを整えると同時にエナジーコアの点滅を止めると右腕に装着されたアームドスレイヤーをエナジーコアに添えたのちリベレーションから【青葉色のエネルギーソード“リベリオンソード”】を出現させると自分のもとへ体当たりしてくるグリードワンをすれ違いざまに斬り裂いた。


「・・・」

「どうなったの?」


グリードワンの胴体部の真ん中に入った切れ込みが朱色に輝いたのちカズキはリベリオンソードを消滅させるとグリードワンは朱色の光に包まれながら自身を量子化させると数回小さな爆発を起こしたのち分子分解され散り散りとなった。


「・・・」


数秒掛けて完全消滅する粒子にマツリは手を伸ばそうとするが何かを躊躇うかの様な表情を浮かべたマツリは伸ばそうとした手を胸元に添えると、


「リクト....どうか、安らかに」


静かにそう呟き、再び祈った。







2


一方で、

地上で戦い続けていたストライクチームとディフェンスアルファチーム。


「ッ、ビーストが退いていくぞ」


レナードはそう言いながらゆっくりと構えを解くとヴィクトルは「終わった様だな」と呟いた。


「総員追撃は禁止!。これ以上の被害は抑えたい、逃げるなら逃がせ」


そう言ったのちクラウスはノーマルボウを消滅させると何かを感じ取ったかの様に後ろを振り返った。


(戻って来たか)


そう思ったクラウスの視線の先には黄緑色の光が現れた。その光は人型の形に変わり、40メートルにまで大型化させるとそれはやがてカズキへと変わった。

そんなカズキの側に小さな泥沼が現れると岩で出来たドームが浮き上がった。2メートル程の高さのドームは自壊を起こすと中からマツリ・サトミ・シオリが飛び出した。するとドームは泥沼の中に沈み、泥沼と共に消えた。


「マツリさん!」


ミサキとナナミは3人の元へ駆け寄り、無事を確かめると微かに笑みを浮かべた。


「・・・」


5人はゆっくりとカズキを見上げた。

カズキは壁に向かってゆっくりと歩き始めるとアームドスレイヤーをアクアグリーン色のエネルギーで包み込むと拳と拳を近付けて拳との間に収束させた。


「一体、何をする気だ?」


レナードの問い掛けにヴィクトルは「まさか」と呟くと周りを見渡してディフェンスアルファチームとストライクチームが居る事を確認した。


「全員、壁から離れろ」

「?」


レナードは頭にハテナを浮かべながらストライクチャーリーチームのメンバーをストライクアルファチームの居る所まで後退させた。それに倣う様に全チームが後退した。

するとカズキは壁に出来た穴まで近付くと収束させたアクアグリーン色のエネルギーを粒子状にして前方に放出した。


(破壊者は、破壊するだけじゃないって事か)


ヴィクトルがそう思う中、放出されたアクアグリーン色の粒子エネルギーは防衛ブロックの中に入り込むと倒壊した柱を修復し、マルールビーストの死骸を分子分解した。

防衛ブロックの天井を直したカズキは胸元のエナジーコアを点滅させながら3歩下がると壁を修復し、元通りにした。


「凄い」

「破壊するだけが破壊者じゃないのね」


粒子エネルギーの放出を止め、胸元のエナジーコアの点滅を早めながら再度エネルギーを圧縮し始めたカズキはゆっくりと後ろを振り返ると圧縮させたエネルギーを再度放出し、倒壊したビルや半壊したビル、粉砕された街頭、ぼろぼろの車道や歩道を修復し始めた。

が、被害の8割を修復したところでカズキはまるでバッテリーが切れたかの様に体の色を変えるとエネルギーの放出を辞め、胸元のエナジーコアを右手で抑え込みながらその場にしゃがみ込んだ。

ウォーターグリーンをシルバーに、アクアグリーンをブラックに変えると激しく点滅するエナジーコアを抑えながらカズキはその場に倒れ込んだ。

ウォーターグリーンとアクアグリーンの2色の光に包まれたカズキは光の塊となるとそのまま消滅した。








「カズキさん!」


光が散り散りとなって消える中心で倒れ込むカズキを見つけたサトミは変身を解くとすぐさまカズキのもとへ駆け寄った。


「大丈夫ですか!」


カズキの側にしゃがみ込み、ゆっくりと身体を持ち上げるサトミ。すぐさま他のストライクアルファチームの面々もカズキのもとへ急行した。


「カズキさん!」

「凄い熱。しかも呼吸も弱い」


サトミは虫の息で高熱にうなされるカズキは優しく抱き抱えた。シオリは辺りを見渡すと目に入った防衛隊の救護班の中に顔見知りの男性を見つけた。


「エイハブさん!エイハブさん!」


エイハブと呼ばれた男はシオリらの方を向くとバックパックを背負い、カズキのもとへ走った。


「凄い高熱だ」


そう言ったのちエイハブはバックパックの中から容器に納められた液薬を取り出すと使い捨てカップの中に適量を注ぎ、カズキに飲ませた。


「搬送員!担架だ!」


エイハブは液薬をバックパックに戻しながら応援を呼んだ。

誰もが思った事だ。“今すぐ搬送して処置しないと不味い”と


「・・・」

「大丈夫なのか?」

「力を使い過ぎたんだろう。多分、数日はベッドの上かもな」


冷たくそう言ったヴィクトルは「防衛ブロックの修復状況を確認してくる」と言うとチームを率いて壁の中に入った。


「何でも知ってる様な口ぶり、腹立つ」


一瞬だけ眉を寄せたヴィクトルはチームメイトのユリウスの方を向くと、


「直感が冴えてる。と言って欲しいな」


そう言うと再び前を向き、歩き始めた。


(カズキ、今は休めよ)

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