Episode.07「“スレイヤー”の目覚め」

1


全ストライクチームとディフェンスアルファチームが深層から湧き出てくる無数のマルールビーストと交戦する中、カズキは自身の身体を走らせてグリードワン級の顔面を思いっきり殴ると20メートルの巨大を一本背負いで地面に叩き付けるとグリードワン級持ち上げたのち深層とは反対方向に投げ飛ばした。


(深層から突き放そうとしてるのか?)


ヴィクトルはそう思ったのち「魔法じゃ埒が空かないな」と呟いたのち魔導書を消滅させると召喚魔法で“ヴァーチェランス”を召喚し、両手で構えると次々とマルールビーストを突くなり斬るなりした。


(ヴィクトル、槍も使えたのか?。まぁ確かにこの状況じゃ、範囲攻撃魔法は仲間を巻き込む危険があって逆に危険だから、正しい選択ではあるか)


ノーマルボウでミディアム級を射抜きながらそう思うクラウスを他所に、マルールビースト達はグリードワンに向かって只管進み続けた。


「スモールやミディアムだけとは言え、数が多い」

「こんな数が地上に溢れ出たら....」

「想像したくはありませんね」

「だからこそ、私達で止めないと!」


ヒミカはそう言いながらスモール級を左右真っ二つに斬り裂いた。


(ディフェンスアルファチーム、やるな。これは負けてられないな)


そう思ったレナードは勢い良く前に飛び出してシールドバッシュでミディアム級を粉砕すると振り向くと同時に剣を横に振い、スモール級の頭部を斬り飛ばした。

そんな彼らを威圧する様にグリードワン級の咆哮が防衛ブロック内部に響き渡った。


「チッ!」


軽く舌打ちをするヴィクトル。

するとそんなグリードワンを黙らす様にカズキはグリードワンの顔面に飛び蹴りを喰らわすとカズキはすぐさま次の一手を考えた。

それを阻止する様にグリードワンは尻尾で殴打しようと身体を回転させる。が、その尻尾はカズキの素手に弾き飛ばされた。

カズキはすぐさまグリードワンと距離を詰めると両肘から生える小さな刃を赤く輝かせると首元と腹を殴る様に、擦る様に斬り裂いた。

本来なら致命傷のダメージを喰らった筈のグリードワン級。

しかし、グリードワンはダメージは受けたものの致命傷にはならなかった。

それを観たクラウスはすぐさまグリードワン級が“学習”した事を悟った。


(自身が捕食したグリード級の尻尾と自身が受けたダメージを利用して学習、耐性を付けたのか)


クラウスがそう思うと同時にグリードワン級は再び不気味な遠吠えを挙げた。

すると深層内部から更なるマルールビーストが出現すると同時に既にストライクチームらと交戦中だったマルールビーストも動きを早めた。


「不味い」

「ッ、深層からラージ級!」

「7メートルはありますね」


グリードワン級の遠吠えに轢かれる様にグリードワン級のもとに向かうマルールビースト達。

流石のカズキも動きざる終えなかった。

カズキはグリードワンを回し後ろ蹴りで蹴り飛ばすとストライクチームらを突破した四足歩行型ビーストのラージ級に掴み掛かるとヘッドロックで首を締め上げたのちそのまま首を潰し、頭部を地面に落下させると別のラージ級にサマーソルトキックを喰らわせて宙に飛ばしたのち自分も飛び上がり、天井に自身の頭部をぶつける直前でラージ級を空中でキャッチすると肘から生えた小さな刃を赤く輝かせたのちラージ級の頭部を切断した。だが、


「ア゛ッ!」

「ラージ級は囮⁉︎」


アカネがそれに気付くも時既に遅し。

カズキがラージ級に気を取られてる隙に複数体のスモール級がグリードワン級と融合を開始。

しかもグリードワン級はラージ級の死骸を尻尾で手繰り寄せると共食いの如くそれを捕食した。

その間にもスモール級を吸収し、融合するグリードワン級は青白い光に包まれながら立ち上がると咆哮を挙げながら巨大化した。


「っ!」

「阻止出来なかったか!」


クラウスとレナードが悔やむ中、光が止むと同時に現れたグリードワン級は“悪魔”に近かった。


「ビースト....いや、悪魔だ....」

「まさに、“デーモン”....」


骨がそのまま露出して装甲化した様な体に悪魔の様な獣の様な顔、背中から生える突起物はより巨大且つ鋭いものに、また膝からもスパイクの様な突起物を生やしていた。

20メートルの時でさえグロテスクだった容姿はそれでは表せないものとなっていた。


「化け物ね....」

「・・・リクト、貴方はもう....ッ」







2


「相当な数と交戦してる様ですが、下は大丈夫なのでしょうか?」

「ストライクとディフェンスが居るし、破壊者も居る。よっぽどの事がない限り大丈夫だろ」


マシンガンを両手に持ちながら呑気にそんな話をしている兵士達。


「気を抜くな」


そう言ったジョルジュは口から煙草の煙を吐いたのち携帯灰皿の蓋に吸い掛けのタバコを押し当てて火を消すと吸い殻を携帯灰皿に入れたのち蓋を閉めた。

そして携帯灰皿をポケットにしまった瞬間、地面が大きく揺れた。


「な、なんだ?」

「地震?」

「地下で何かあったのか⁉︎」


ジョルジュは鋭い表情にハ?という表現を混ぜながら壁上から下を見下ろすと防衛ブロックの天井にヒビが入っているのを確認した。


「総員戦闘準備!。対物兵器、起動!」


地面に入ったひび割れで全てを察したジョルジュはすぐさまそう叫んだ。

次の瞬間、

防衛ブロックの天井を砕きながら、“それ”は顔を出した。


「な、何なんだあれは⁉︎」

「ビーストか?」

「いやデーモンだろ⁉︎」

「新種のビーストだ!」

「落ち着け、グリードワンが巨大化しただけだ」

「“だけ”⁉︎」

「50メートルはあるぞ⁉︎」


ジョルジュの部下達が怯え、混乱する中、グリードワン級は天井を崩しながら地上に這い出ると咆哮を開けながら壁を目指した。


「対物兵器の起動はまだか⁉︎」

「あと20秒下さい!」

「ッ、総員撃て!。けん制をかける!」


ジョルジュ含めた多くの兵士がマシンガンを撃ちまくるが、グリードワンの装甲はその銃弾を粉砕した。グリードワンも痛くも痒くもない銃撃を無視して壁を目指した。

そして壁に辿り着いたグリードワンは咆哮を挙げたのち壁を殴って崩し始めた。


「ウワッ」

「この厚さの壁を、最も簡単に⁉︎」







「ア゛!」


ストライクチームとディフェンスアルファチーム、破壊者は魔力を使った跳躍で地上に出ると壁に自身が通れるほどの大穴を開けたグリードワン級を発見した。

そんな彼らを追ってカズキは跳躍で地上に出ると全身に微かなウォーターグリーン色のオーラを纏わせていた。


「壁が....」

「・・・ジョルジュ隊長!避難状況は⁉︎」

『8割、と言ったところだろうな。地上に出て来るとは、想定してなかったからな』


マナミの問い掛けに無線でそう答えるジョルジュ。その瞬間、グリードワン級の頭部に1発の対物りゅう弾が直撃した。


『っ!、効いて、ない....』

『馬鹿な⁉︎傷一つ付かないなんて』


グリードワン級は目付きを細めるとジョルジュらが居る方を向いたのち口内に火炎を溜めた。


『!、総員退避!退避!』


ジョルジュが退避命令を出す中、グリードワンは口内に溜めた火炎を勢い良く撃ち出した。

撃ち出された火炎は対物兵器下の壁に命中した。


『ッ!隊長!』


破損した壁では対物兵器を支えきれず、対物兵器を乗せたブロックはジョルジュを道連れに崩落すると地面に落下し始めた。


「!、ッ」


それを観たカズキは身体に纏わせたウォーターグリーン色のオーラを強くしながら走り始めた。

するとカズキは完全にウォーターグリーン色のオーラに包まれると徐々に巨大化しながら走った。


「何、あれ?」

「“目覚め”だ」


ヴィクトルがそう答えてる間にもカズキは巨大化を続けた。

それを知らないジョルジュは死を覚悟した。


「ダッ、チクショッ」


ゆっくりと目を閉じ、身構えるジョルジュ。

次の瞬間、

ジョルジュはウォーターグリーン色の何かの上に身体を打ち付けた。


「・・・?」


痛みも何も感じる事なく落下を終えたジョルジュはゆっくりと目を開けると対物兵器は壁の一部を背中で受け止めているウォーターグリーン色の巨人が目に入った。


「あ、あれは....」


胸元を朱色に輝かせながらそれは姿を現した。

兜を被った様な頭部、ウォーターグリーン色の胸当てらしき物の中央で輝く大きなY字型のエナジーコア、


ジョルジュを助けたのはカズキの意志に応じて進化した【破壊者“スレイヤー”】だった。


身体の色は基本的にウォーターグリーンとアクアグリーンの2色で構成されており、身体の所々に水縹色のラインが入っていた。

両腕にはウォーターグリーン・アクアグリーン・水縹色の3色と構成された“アームドスレイヤー”が装着され、肘から生えていた刃はより大型且つ赤色になっていた。


「・・・」


カズキはジョルジュを受け止めた右手をゆっくりと地面に降ろした。ジョルジュはゆっくりと立ち上がり、地面に飛び降りるとカズキと目を合わせた。

カズキはゆっくりと頷いて返すと背中で受け止めた対物兵器を壊さない様にゆっくりと降ろすとゆっくりと立ち上がった。


「ジョルジュ隊長!」

「大丈夫ですか!」


ディフェンスアルファチームの面々がジョルジュのもとに駆け寄った。


「あの巨人のお陰で怪我は無いよ」


ジョルジュはマナミにそう返すとカズキの方を向いたのち御礼を言った。カズキは再び頷いて返すと壁に開いた穴の方を向いたのちゆっくりと歩き始めた。


「あれが....」

「はい。【マルールビーストを“殺す者”】です」

「“スレイヤー”....目覚めましたね」

「ただ、まだ目覚めただけです。“覚醒”にまでは至ってない」


ディフェンスアルファチームの面々がそう話して居るとそこへストライクチームの面々が合流すると同じ様にカズキの背中を見上げた。


「今は、今は目覚めだけで、充分ですよ」

「ええ。不完全より、破壊者らしいです」


サトミの言葉に付け足す様にシオリがそう言うとヴィクトルはクラウスの方を向いた。


「“あの巨人”の、中間....いや基本形態、って言ったところだろうな」

「・・・お前、何でも知ってるんだな」

「そう言う訳じゃない。ただの推測だ」







3


自身が開けた穴から外に出たグリードワンは尻尾を振り回したり、口から火炎を吐いたりしながら次々と街を破壊して行った。


「ロスカスタニエの街が!」

「この間より酷く壊しやがる」

「チッ!彼奴、破壊を楽しんでやがる」


ビル等の建物を破壊し、街灯を踏み潰すグリードワン級。まさにその様子は破壊を楽しむかの様子だったが、何かを察知したかの様にグリードワンは後ろを振り向いた。

振り向いた先には自分が開けた穴から街に出て来たカズキだった。40mにまで巨大化したカズキは勢い良く走り始めると姿勢を低くしながらグリードワンに体当たりした。


「何だ、あれ?」

「・・・破壊者だ」

「へ〜、あれが噂の変身した破壊者か」


逃げ遅れた人々が居ないか捜索していたアーロンの部隊はグリードワン級と戦うカズキを見上げた。


「ひとまず此処は破壊者に任せよう。総員、離脱!」


アーロンは部下にそう指示するとカズキとグリードワン級から距離を離そうとした。が、それを察知したグリードワン級はアーロンらに向かって火炎を吐いた。


「不味い!」

「走れ!走れ!」


全速力で後退するアーロン達。

だが放たれた火炎はアーロン達には当たらなかった。


「・・・?」


背後から強烈な熱と衝撃を感じて振り返るアーロン。すると彼の視線の先にはグリードワンが放つ火炎を両腕でカードしながら受け止めるカズキが居た。


「....ありがとう」


カズキに御礼を言うアーロン。

しゃがみ込みながら火炎をカードするカズキは火炎を打ち払う様に両腕を振り下ろすと勢いよく走り出し、グリードワン級にサマーソルトキックを喰らわせ、横転させた。


「ッ!」


壁の穴からカズキを追う様に街に入ったストライクチームはカズキのサマーソルトキックを喰らって横転するグリードワン級を観た。

グリードワンはビルを下敷きに倒れ込むとカズキを睨んだ。


「此処で戦ったら、街への被害が....」


ミサキの言葉を聞いてハッとした様子を浮かべたカズキ。そんなカズキの脳内に1つの映像が過ぎるとカズキはすぐにそれを行動に移した。

腕と腕を重ね合わせ、アームドスレイヤーに埋め込まれた水縹色のエネルギー発生源“リベレーション”同士を接触させてアームドスレイヤーをエネルギーで包み込んだカズキは両腕をバッと広げるとエネルギーの塊をグリードワン級の足元に飛ばした。


「何だ?」

「・・・まさか」


ヴィクトルが何が起こるかを理解した瞬間、エネルギーの塊が着弾した地点が泥沼へと変わり、それを全方位へと広げた。


「何、あれ?」


シオリがそう呟く間にも泥沼は広がり続けた。泥沼のせいで身動きが取れなくなったグリードワン級は横転しながらただただジタバタとする他無かった。


「巻き込まれるぞ!」

「「退避、退避!」」


ヴィクトルの言葉で状況を理解したクラウスとレナードはストライクチームに退避を命じた。だが何が起こるかを理解したマツリは動こうとしなかった。


「マツリさん!」

「・・・私は、見届ける」

「え⁉︎」


マツリがそう言うとマツリの足元も泥沼に飲み込まれ、グリードワン同様に身動きが取れなくなった。


「「マツリさん!」」


サトミとシオリはマツリを救い出そうと泥沼に突っ込んだ。だが泥沼に埋もれた脚は魔力を使おうが何をしようが引き抜けなかった。


「そんな!」

「ダメだ行くな!」


前に飛び出そうとするミサキをクラウスが止めた瞬間、カズキは両手をゆっくりと上に持ち上げた。すると泥沼の端から岩の壁が現れるとその壁はドームを形成し、自身とグリードワン、マツリ・サトミ・シオリを閉じ込めた。そしてカズキが両腕を振り下ろした瞬間、岩のドームは泥沼の中に沈んだ。

岩のドームを沈めた泥沼は閃光と共に消滅した。







「カズキさん達とビーストが....」

「消えた?」

「どう言う事?」

「泥沼も無くなってる。・・・あれ、一体....」


ストライクチームの面々が状況を飲み込めない中、ヴィクトルは静かに顔を挙げた。


(・・・“マドロックフィールド”。泥沼でビーストを拘束し、岩壁で閉じ込め、自分ごと戦闘用亜空間に引き摺り込む....街への被害を抑え込む為に、そんな物まで作り出すとはな。・・・これが、破壊者の力か)


ヴィクトルはそう思いながら静かに後ろを振り向くと苦笑いを浮かべた。


「俺達は、こっちを何とかした方が良さそうだな」

「え?。・・・なっ!」


ヴィクトルの視線の先に居たのは無数のマルールビースト。グリードワンに融合し損ねた個体達だった。

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