Episode.06「決意」

1


「破壊者は、・・・破壊者は、“間違った終わりを破壊する存在”。けど、破壊者は人の姿では、本来の力を発揮出来ない。・・・破壊者が本来の姿を発揮するには....」

「・・・“変身”、か....」


ヴィクトルの言葉に反応する様にゆっくりと頷いたアニエスは別の言葉が飛んでくる前に話を続けた。


「けど、カズキさんが変身した姿は私達が聞いていたものは遠く掛け離れたものだった。・・・あんなに小さくもなければ、あんな怪物の様な外観でもない。・・・私達も、理解が、....ッ」


表情から笑みを消したカズキは右手で顔の半分を覆いながら鋭い視線をマツリに向けた。


「その破壊者ってのは、どんな見た目だ?」

「・・・50メートルある銀色の巨人。背中から翼の様な突起物を生やしてる」

「は?。・・・そう言う事か」


ヴィクトルは全てを察した様にそう言うとカズキの方を向いた。


「アーネストがボソッと言っていた。“破壊者と一体化した”と。・・・俺やレナード、クラウスにカズキが此処に来る前に出会ったあの光の巨人。あれが、破壊者本来の姿だったんじゃないか?」

「・・・」

「確かに、その可能性はあるな。だが、カズキが変身した姿は、全くの別物だったぞ?」

「・・・“不完全体”、なのかもしれないな」

「不完全体?」


ヴィクトルが呟く様に言った言葉にカズキは思わず問い掛けた。ヴィクトルは少し困った様な表情を浮かべながら、


「俺があの魔導書を使った時、ふと思った事がある。・・・別の力がある、と。まだ解放しきれてない別の力がある、と」


ヴィクトルが発した言葉を前にレナード・クラウス・カズキの3人が考え込んだ。そして1番最初に結論に辿り着いたのはクラウスだった。


「こう言う事か?。俺達は破壊者と一体化して此処に来た。だが一体化したばかりで俺達は破壊者の力を扱いきれてない。だからカズキが変身した姿は不完全な怪物の様なものだった」

「多分、そうだと思う」


クラウスが出した結論に、ヴィクトルがそう応えるとずっと考え込んでいたシオリが補足を入れる様に、


「あと、カズキさんはあの時、自分の意志で変身してなかったと思います」

「?」


シオリが発した言葉を前にハテナを浮かべる一行。するとカズキは「あっ」と呟くとゆっくりと右手を外した。


「言われてみれば、確かに....」

「・・・俺は....」


部屋に入って以降、ずっと黙り込んで居たレナードは両手を強く握りしめながらそう呟くと壁を殴ったのち自分の心のうちを曝け出した。


「俺は、俺は誰かを護る為に破壊者として、戦うと決めた。・・・だけど、....だけどこんな中途半端な力で、何が護れるんだ!」

「レナード....」

「しかも、化け物同士の潰し合いで、・・・何かを護れる訳....」


そう言いながら両手を強く握るレナード。

レナードが発した言葉を前に、一同は凍り付いた様に言葉を失い、黙り込んだ。


「俺も、レナードさんと同じ気持ちです」


重苦しい空気に抗う様にそう言ったカズキはゆっくりとベッドから立ち上がるとわざと音を立てて深呼吸するとマツリの方を向いた。


「マツリさんの弟さんに似てるかは知りません。ただ俺は、怪物同士の潰し合いに巻き込まれるのはごめんだ。破壊者だの変身だの、間違った終わりだの、・・・弟の生まれ変わりだの、俺には、....正直俺には関係ない」

「⁉︎」

「カズキさん....」

「・・・だが、....だが俺は、俺は望んでこの世界に来た気がする」

「望んで?」


カズキはクラウスの方を向くとゆっくりと頷いて返した。


「だから俺は、俺なりのやり方でやらせてもらう。折角隊長って権限や破壊者としての力を貰ったんだ。・・・俺の思う通りに使わせて貰うぞ」

「・・・カズキ。それは、それは流石に」

「最終的にビーストぶっ潰して間違った終わりを破壊すれば良いんだろ?。・・・やり方自体は無数にある筈だ。・・・自分から望んでやって来た世界に文句言っても始まらんだろ」


それを聞いたマツリは笑みを浮かべながら声に出して笑った。それに続く様にシオリとアニエスも笑った。


「アーネストさんとやって行くには、そう言う性格の方が良いわよ」

「ええ。あの人は“放任”兼“現場主義”な人ですから」


アニエスはそう言うとクラウスの方を向いた。クラウスは呆れた表情を浮かべると息を吐くと同時に何処か納得した様な表情を浮かべた。


「まっ、自分の判断でやりたい様にやれるのは、有り難いな。イチイチ上に確認取って云々よりは、やり易い気がする」

「俺はビーストを潰せればそれで良い。要らない事考えず、只管殺し、只管護るだけだ」


クラウスに続いて冷たくそう言ったヴィクトルはレナードの方を向いた。


「・・・ハァ。....わかりました。やるだけやってみます」

「改めて宜しくお願いします、隊長」







2


病室から出て着替えて身支度を終えたカズキは撃ち漏らしたグリードワン級の捜索及び追撃の為、チームに招集を掛けていた。


「身体は、もう大丈夫なんですか?」

「?。貴方は確かディフェンスアルファチームの....」

「マナミです。チームリーダーをしています」

「身体は問題ありません。ご心配、お掛けしました」

「とんでもありません。それより、」

「?」


マナミはカズキの横に立つと前を向いた。カズキは何かを察した様にマナミと共に歩き始めた。


「必要な時には、私達にも声を掛けて下さい。ストライクチーム程ではありませんが、“私達は”深層でも活動出来ますから」

「と言うと?」

「他のディフェンスチームは、深層で活動出来る時間はストライクチームの半分以下。しかし私達のディフェンスアルファチームは別です」

「そうなのか?」

「はい。私達はチームミコ、現ストライクアルファチームの補充や臨時の要員も視野に入れた編成なんです。つまり、1番ストライクチームに近い存在って事です」


カズキは頷いて反応したのち口元に手を添えると「あっ」と声を漏らした。


「どうしました?」

「それなら、早速頼んでも良いですか?」







放水路の様な地下空間に潜ったストライクチームとディフェンスアルファチームは深層の入口の目の前で歩を止めた。


「俺のストライクブラボーチームとカズキのストライクアルファチームで深層に潜り、グリードワン級を仕留める。が、グリードワンはある程度学習してる筈だ。俺達が深層に潜り、追撃を掛けることを読んでいる可能性がある」

「そこで俺達ストライクチャーリーチームとストライクデルタチームが此処で待機。もしグリードワン級が2チームの目を盗んで上がって来る様なら、」

「俺達で叩き潰す、と」

「・・・ディフェンスチームは必要無かったか?。俺、余計な事したか?」

「いや、グリードワン1体とは限らない。スモールやミディアム、ラージを叩ける存在が必要だ」

「備えあれば憂いなし、と言う奴ですね」


クラウスはマナミの発言に頷いて返すと深層の入口に顔を向けた。


「準備は良いか?」


カズキの問い掛けにマツリ達は頷いて返した。


「準備は、....聞くまでも無いって感じだな」


クラウスはそう言うとカズキと目を合わせたのち頷き合うと深層に向けて一歩を踏み出した。が、その瞬間、


「待て!」


ヴィクトルがカズキ達を止めた。


「ビーストが、....強力なビーストが、1体上がって来る」

「「ッ!」」


目を見開きながら深層に顔を向ける一行。アルファチームとディフェンスチームはすぐさまデルニエフォルトで変身するとカズキ達も身体から魔力を放ち、武器を構えた。


「散ッ!」


カズキが短くそう言うとストライクアルファチームとディフェンスアルファチームの面々は散り散りに散開した。

それに合わせる様に他のストライクチームも散開し、射撃系の武器を構えると深層の入口に銃口を向けた。







3


「・・・?」


何かを感じ取ったカズキは構えを解き、ノーマルソードを消滅させると鋭い目付きで深層を睨み付けた。


「カズキ?」

「・・・人だ」

「え?」


ノーマルボウを構えながら目を凝らして深層を見たクラウスは目を見開いた。カズキの言った通り、深層から人が出て来たからだ。


「カズキにそっくりな青年だな」

「・・・マツリさんの、弟さんだ」


そう言うとカズキは右腕にミディアムソードの複合剣を装着すると再び構えを取った。


「・・・」


深層から出て来た青年を見たマツリはゆっくりとカズキに歩み寄ると、ゆっくりとカズキの肩に手を添えた。


「?」

「此処は私に任せて」

「・・・」


カズキはゆっくりと構えを解くとマツリを前に進ませた。


「良いのか?」

「・・・」


曇りと鋭さを混ぜた様な表情をカズキにそう問い掛けるクラウス。するとクラウスは弓の構えを解くとエルザの方を向いたのちハンドジェスチャーで合図したら撃つように伝えた。


「こ、此処は....」


青年は怯えた声でそう呟くと辺りを見渡したのち自分のもとへ近付くマツリと目を合わせた。


「ね、姉....さん?」

「・・・」

「姉さん、なのか?」

「リクト....」


アサルトモードのグリップを強く握りながら青年に近付くマツリ。すると青年もマツリと距離を詰める為にゆっくりと歩き始めた。


「姉さん、なんで....なんで皆んな、俺に、銃口を向けてるんだ?」

「・・・リクト」

「姉さん、なんで、なんで俺は、防衛ブロックに?。何かの、訓練、なのか....?」

「リクト、貴方はもう....」

「なぁ、助けてくれよ。姉さん....姉さん....なんで姉さんまで武器を持ってるんだ?」

「・・・リクト....」


2人は互いに歩みを止めた。マツリは震える手でゆっくりと構えると銃口を青年に向けた。


「姉、さん....嘘、だろ....」

「リクト....貴方はビーストに喰われて死んだ....だから、」

「姉、さん?」


目を見開きながら引き金に指をかけたマツリは「さようなら」とハッキリ言うと引き金を引いた。

銃口から放たれたマグナムマジックショットは音速以上の物凄い勢いで青年に向かって飛翔した。

が、それが青年に当たる事はなかった。


「⁉︎」


放たれたマグナムマジックショットは青年の顔に擦り傷を作っただけだった。すると青年は奇妙な笑い声を挙げながらそれに徐々に怪物の様な不気味な笑い声を混ぜると、瞳の色を急変させると物凄いスピードとマツリの背後に回り込むとそのまま腕でマツリの首を締め上げた。


「駄目じゃないか。コンナ至近距離でハズシチャ」


さっきまでとは違い人間ではない声で話す青年はそのままマツリが構えるアサルトモードの武器を右手で封じながら身体を180度回転させるとマツリを盾にする様に一歩後ろへ下がった。


「マツリさん!」

「人質か?。野郎」


そう言いながらクラウスは合図を出すと再びノーマルボウを構えた。だが、


「?」


(どうしたエルザ。何故撃たない)


「・・・」


(どうしよう....当てられるの、かな....外したら、もしマツリさんに当たったら....)


「エルザさん?。どうしたの?」

「エルザどうした?。ライフルに不調か?」


(手が震えて、上手く狙いが付けられない。・・・撃たなきゃ、早く撃たなきゃ、・・・どうして、)


必死に狙いを定めて引き金を引こうとするエルザ。しかしその間にも、青年はマツリを人質にゆっくりと深層へざがって行った。


「ッ、ムダダ!」


そう言いながら青年は背中から突起物を生やすと自分の斜め左後ろから忍び寄るヘレナとジュピターに向かって勢いよく飛ばした。


「ッ」

「危ない!」


ヘレナはジュピターを突き飛ばすとジュピターとは逆の方向に飛ぶと自分らのもとに勢いよく伸びて来た突起物を避けた。

が、突起物は追い討ちをかける様に地面に思いっきり叩き付けると衝撃でヘレナとジュピターを吹き飛ばした。


「ヘレナ!ジュピター!。....ッ!」


レナードは片手剣を強く握ると青年を睨みつけた。

すると痺れを切らしたカズキが、


「サトミさん!俺が飛び出したら、奴の右腕を射抜いて下さい」

「了解」


カズキは複合剣を消滅させると深呼吸しながら両手を強く握って肘を引くと濃紺色のオーラを身体から放出し始めた。


(あれは、まさか)

(今度は、自分で意志で)


ミサキとシオリが変身を確信する中、カズキは前に飛び出した。それに合わせる様にサトミが青年の右腕を射抜いた。


「!」


青年はダメージに怯むとその隙を突く様にカズキはマツリを青年から引き剥がしたのちマツリを押し飛ばすと青年と取っ組み合いになった。







4


「貴様はもうビーストだ。人間じゃない!」


カズキがそう言った瞬間、濃紺色のオーラにウォーターグリーンの光が混ざった。


「仲間を傷付けたお前を、俺は絶対に、許さなあああぁぁぁぁあいっ!」


そう言いながらカズキは青年の首を握り潰す様な勢いで掴んだ。それと同時にカズキの指先や爪先、頭部などから朱色の光が紋様の様な物を描きながら血管を辿る様に胸元に集まった。


「オマエ、ジャマダ。ツブスゥゥゥゥ!」


青色に包まれた青年は人間の顔を崩し、怪物に戻ろうとした。


「!」


その光景に驚き、目を見開くもすぐに目付きを鋭くしたのち覚悟を決めた様な表情を浮かべると瞳をアクアグリーンに輝かせたのち、朱色の発光体を吸収した事で胸元に出現したY字の発光体が強く点灯する度にアクアグリーンの発光体を血管を辿る様に全身に送り出すとその度に身体を纏う光やオーラを強くした。

次の瞬間、両者は一瞬だけ強く光った。

カズキは身体を纏っていた濃紺色のオーラの所々からウォーターグリーンの光を出しながら“変身”した。

青年は20メートルの“グリードワン”に戻り、

カズキは15メートルの“破壊者”に変身した。







グリードワンはカズキを持ち上げたまま首を締め上げた。が、それに抗う様にカズキはすぐさまグリードワンの左脇腹に蹴りを入れた。

そのダメージでカズキの首から手を離したグリードワン。更にカズキはそれに追い討ちをかける様に着地した際の勢いを利用したサマーソルトキックを喰らわせた。


「....」

「・・・」


サマーソルトキックを喰らってふらつきながら後ろに下がるグリードワンに更なる追い討ちを掛けるため、カズキはグリードワンが体勢を立て直す前にグリードワンの左側に回り込むとすぐさまベッドロックを仕掛けて首を締め上げると6回後頭部を殴ったのち勢いを付けて後頭部を殴ったのちベッドロックを解くと追い討ちを掛ける様にグリードワンの顔面に膝蹴りを喰らわせた。


「凄い」

「以前とは、明らかに戦い方が違う」

「・・・融合が、進んでる?」


最初に変身した時とはサイズも戦い方も明らかに違うカズキ。

だがグリードワンもただでやられる訳では無い。

尻尾を上手く使って下半身のバランスを整えるとすぐさま上半身をぶつけたのち尻尾を使って自身を加速させるとカズキに体当たりを喰らわせた。

以前の様な気高い獣の雄叫びとは違い高く籠った様な声を出すカズキ。

グリードワンはバランスを崩してるカズキに頭突きを喰らわすと再び体当たりでカズキを突き飛ばした。


「っ!、回避!」


クラウスの号令で左右に散開する様に動くストライクブラボーチーム。カズキは無人兵器の埋め込まれた大柱に背中を打ち付けるとグリードワンを見るや否やすぐさま体勢を立て直すと再び体当たりを仕掛けてくるグリードワン級を後ろ回し蹴りで蹴り飛ばした。

音を立てて息を吐く様な声を出しながらゆっくりと構え直すカズキ。

だが、マルールビーストはグリードワンだけでは無い。それにいち早く気が付いたのはヴィクトルだ。


「深層から大群が来るぞ!」


空中浮遊状態で深層の入口に急行したヴィクトルは“水の書”を左手に構えながら“アイスアサルト”を唱えると深層から出て来た大量のスモール級に無数の氷の礫を喰らわせた。


(やはり一掃しきれないか)


ヴィクトルがそう思った矢先、グリードワン級は不気味な遠吠えを挙げた。するとヴィクトルの攻撃から逃れたマルールビースト達は一斉にグリードワン級の方に向かった。


「不味い。吸収する気よ」

「ディフェンスアルファチーム各員、戦闘開始。1匹も後ろに通すな!」


(ディフェンスアルファチームとストライクアルファ・チャーリーが前に出た。近接でやる気か?。なら、)


空中に飛び上がり状況を確認したクラウスはアニエスらの方を向くと、


「ストライクブラボーチーム総員。3チームの援護射撃に徹しろ!。不意打ち阻止や撃ち漏らし対処も忘れるな」

「「「「「了解」」」」」

「ストライクデルタチーム、他のストライクチームの負荷を減らす。各自自分なりのやり方でビーストの波を掻き乱せ」

「「「「「了解」」」」」


グリードワン級の呼び掛けに応える様に深層から這い出てくる無数のマルールビースト。

それを見たグリードワン級は僅かに不気味な笑みを浮かべた。

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