Episode.05「変身」

1


「?」

「・・・」


カズキが光を発した瞬間、“破壊者の変身”を確信した彼女達だったが、現れたのは聞いていた話とは遠く駆け離れた物だった。


「違う。あんなじゃ、ない....」

「40メートル以上はあった筈、」

「一体....」


困惑する彼女達を他所に、口を開けると巨人は気高き獣の声を挙げたのちビルから飛び出すと15メートルタイプのグリード級に掴み掛かった。

巨人は10メートル、グリード級は15メートル。だがその5メートルのハンデを感じさせない程、巨人は力強かった。

両肩を掴み合いながら取っ組み合いになっていると、巨人はグリード級を左横に薙ぎ倒した。

再び気高き獣の咆哮を挙げる巨人。横転したグリード級は尻尾を上手く使って巨人の顔面を殴打するとすぐさま立ち上がった。


「!」

「何だ、あれは?」

「グリード級の同志撃ち?」


巨人とグリード級の戦いを見ていたマツリらのもとにストライクブラボーチームの面々が合流するとクラウスらは状況を飲み込めずに居た。


「尻尾の無い巨人は、カズキが変身した者」

「変身⁉︎。・・・伝承より見た目も違ければ、サイズも小さい様な気がしますが」

「変身?。何の事だ?」


マツリとアニエスの会話に疑問を投げ掛けるクラウス。無論、2人は回答に困った。


「・・・ッ」


その様子を見たクラウスは身体の内側から湧き上がって来るものを抑え込むと巨人の方を向いた。

巨人はグリード級と激しく殴り合うと咆哮を挙げたのちグリード級に体当たりした。


「怪獣みたいな声ね....」


ミサキがそう呟く中、グリード級もやられまいと尻尾を使って衝撃を殺すと巨人の背中を右肘で殴打すると左手で顔面を殴り挙げた。そんな巨人に追い討ちを掛けるようにグリード級は両手を振り回す様に巨人を叩いた。巨人はそれを両手でガードすると頃合いを見てグリード級の腕を弾いた。が、頭上からの頭突きで体勢を崩し、尻尾の左横振りの殴打を脚に喰らい巨人は倒れ込んだ。


「ァッ」


グリード級はそのまま巨人に座り込む様に乗り掛かると胸元をエナジーコアごと引っ掻く様に只管殴った。


「不味い」

「流石に援護が必要そうね」


そう言うとマツリはミサキと共にアサルトモードの武器を構えて“マグナムマジックショット”をグリード級に撃ち込んだ。

2人の攻撃を受けて大きく怯んだ隙を突いて巨人はグリード級を押し飛ばすと巨人は苦痛を押し殺す様な声を挙げながらゆっくりと身体を起こした。

するとグリード級は標的を巨人からマツリらに変えると長く太い尻尾を大きく挙げた。


「っ!」

「不味い!、総員回避!」


マツリ達は勿論、クラウスも回避行動を取ろうとするがクラウス含めた数名は回避が間に合いそうになかった。

すると巨人は素早く身体を起こして素早く移動するとクラウスらの前にしゃがみ込むとグリード級が振り下ろした尻尾を背中で受け止めた。


「!」

「カズキ!」


重たく強力な攻撃を受けたせいか或いは様々なダメージが蓄積して来たせいか巨人の胸元にあるY字のエナジーコアの光は尻尾攻撃を受けるたびに暗くなっていった。

4発目に耐えた巨人は反撃に移ろうとするがそれを見抜いたグリード級は5発目の攻撃パターンを変え、巨人の首に尻尾を巻き付けるとそのまま締め上げた。


「野郎!」


すぐさまクラウスは炎で出来た特殊な矢を放てる“イフリートボウ”を構えるとグリード級の尻尾を狙った。だが、


「クラウスさん、ダメです!」

「え⁉︎」

「それを放ったらカズキさんまで」


アニエスの助言を聞いてアッと言う表情を浮かべながら弓を下ろすクラウス。

すると巨人は右肘から生える小さな刃を赤く輝かせると勢いよく右腕を振り下ろしてグリード級の尻尾を切断した。

巨人は尻尾を振り払い身体の向きを変えたのち素早く立ち上がるとグリード級に向けて体当たりしようとした。

が、巨人が一歩前進した瞬間、輝きの薄くなった胸元のエナジーコアが点滅し始めた。その途端、巨人は胸元を抑えながらその場にしゃがみ込むと顔を挙げてグリード級を見た。


「ッ!、⁉︎」

「な、何が⁈」

「よし、今なら」


巨人の様子に混乱する彼女達を他所に、クラウスはイフリートボウを構えるとグリード級の頭部に炎で出来た矢を喰らわせた。それと同時に巨人はしゃがんだまま俯くとエナジーコアの点滅を早め、今にも姿勢を崩しそうになった。


(ん?。これ、チャージすればもっと強力になるな)


そう感じたクラウスは再度イフリートボウを構え、右腕に装着されたアローアームドから再度炎の塊の様な矢を出現させると弦に引っ掛けてそのまま引いた。そして今度は左腕に装着されたアローアームドからも魔力を送った。


「カズキさん!」


サトミの声に反応する様に巨人は顔を挙げると咆哮を挙げながら立ち上がると同時にエナジーコアの点滅を止めると巨人に掴み掛かった。


「!」


目を見開くクラウスの目の前で巨人はグリード級にヘッドロックを仕掛け、首を締め上げた。


「ッ?」


巨人はクラウスの方を向くとゆっくりと頷いた。


「カズキ。・・・わかった」


狙いを定めたクラウスはチャージされた炎の矢をグリード級の頭部に向かって放った。矢は当たった瞬間、グリード級を火だるまにするとそのまま焼失させた。


「凄い....」

「あのサイズのグリード級を、たった一撃で....」


巨人は着弾する寸前にグリード級から離れた為、無事だった。

しかし、胸元のエナジーコアは再度点滅を開始。それも、さっきよりも速いペースで激しく点滅していた。







2


巨人は胸元を抑えながらその場にしゃがみ込んだ。

だが、一難去ってまた一難。

再び15メートルはある巨体が巨人の背後から迫っていた。


「!」

「デカいな。あれもグリード級って奴か?」


クラウスの問い掛けにアニエスは目を見開きながら「いや、違う」と答えた。


「“グリードワン”....」


巨人の背後から迫っていた15メートルの巨体はグリード級の上位互換である“グリードワン”級だったのだ。

グリードワン級は弱った巨人を素手で叩く様に押し飛ばすと横転した巨人の横を通り過ぎたのち巨大な尻尾を振り上げると仰向けに倒れる巨人の顔面に叩き付けた。


(ありゃ痛いな。カズキ、大丈夫か?)


そう思うクラウスを他所にグリードワン級は切断されたグリード級の尻尾を両手で掴むと貪る様にそれを食した。


「共喰いでもする気か?」

「もっと厄介。絶対にさせない」


マツリ・ミサキ・シオリの3人はすぐさまアサルトモードの武器を構えるがそれを察知したグリードワン級が尻尾を振り下ろした事により体勢を崩され、射撃困難となった。

その隙を突き、グリードワン級は尻尾の捕食を終えた。


「グリードワン級は、ビーストの死骸を捕食する事で強力になる。終いには死骸が持つ記憶の一部を記録し、学習する」

「確か、グリード級は融合して巨大化するだけだったよな?。更に厄介だな」

「総合戦闘能力自体もグリード級より高い。厄介な事になったわね」


死骸の捕食を終えたグリードワン級は青白く輝くと15メートルから20メートルに巨大化した。


「なっ!」


驚くクラウスを他所に、巨人に向かってゆっくりと移動を開始するグリードワン級。

だが次の瞬間、

巨人は仰向け状態から寝返りを打つ様に身体の向きを変えるとすぐさましゃがみ込み、肘から生えた小さな刃を赤く光らせたのち刃にエネルギーを纏わせ、両手を強く握ったのち、拳同士を合わせ、両方の刃のエネルギーを繋ぎ合わせた。


「何をしようとしてる?」


クラウスの問い掛けに答える様に両腕をバッと外側に広げた巨人はグリードワン級に三日月型の光刃を飛ばした。

放たれた三日月型の光刃はグリードワン級の腹部に命中すると激しく出血した。

巨人は胸元のエナジーコアの点滅を早めつつ、皮膚の色を濃紺から灰色に変え、暗緑色だった筋繊維状の関節部を黒に変えると地面に右手を突き、左手でエナジーコアを抑えた。


「今ならビーストを殺せる。殺るぞ!」


クラウスの号令に合わせる様にストライクブラボーチームの面々は射撃系の武器を構えた。が、


「待って!」


何かを感じ取ったマツリがそれを止めた。するとそれに応える様にグリードワン級の右腕から何かが浮き上がった。


「?」

「人の、顔?」


グリードワン級の右肩から現れたのは人間の頭部だった。グリードワン級の皮膚越しに見えた人面はカズキに良く似ていた。人面はそのまま前に乗り出るとマツリと目を合わせ、


「マツリ....姉....さん」

「は?冗談だろ⁉︎」


「グリードワンに取り込まれた人間....けど、あれは」


そう言うとアニエスはそのままボウガンを構えると引き金に指を掛けた。その間にもグリードワン級の内部に居た人型の何かは右手を前に出すとグリードワン級の皮膚を破っての体外に出ようと踠き始めた。


「待って下さい!」

「けど!、ッ!」


マツリはアニエスのボウガンを上から抑え付けるとアニエスと目を合わせた。


「貴方だって分かってる筈でしょ⁉︎。あれはビーストの罠よ!」

「けど、けど....」

「貴方の弟さんは、死んでいるのよ!」

「だけど、だけど例外だって!」


2人が言葉をぶつけ合ってる中、グリードワン級の肩から這い出ようと踠いていた人型の何かを再びグリードワン級の体内に飲み込まれ、姿を消した。

それと同時に巨人はウォーターグリーンの光に包まれるとその場に倒れ込み、光の塊となり消滅した。それを見たグリードワン級は傷口を抑えながらゆっくりと反転するとクラウスらから距離を離していて行った。


「!」


マツリを振り解いたアニエスはボウガンを構えるが、今度はクラウスがそれを止めた。


「⁉︎」

「逃げる敵を撃つより、まずは人命救助だ!」


そう言ったクラウスの目線の先にはうつ伏せになって倒れ込むカズキが居た。


「アルファチームは隊長が戦闘不能。・・・地上へ戻ろう....」







3


広いのか狭いのかもわからない水縹色の空間でカズキは1人で突っ立っていた。

何処か見覚えがある様な空間は、カズキに妙な安らぎと癒しを与えて続けて居た。


「・・・」


無言で辺りを見渡すカズキ。そんなカズキを後ろから照らす様にY字の朱色の発光体が現れた。


「⁉︎」


発光体は心臓の鼓動の様な音を出すと“それ”は姿を現した。

50メートルはある薄緑色の巨人は光輝きながら背中から2本の翼の様なウォーターグリーンカラーの突起物を出現させ、10メートル程の高さにまで伸ばすとカズキを見下ろした。


「君は、アンタは、....誰なんだ?。アンタが破壊者なのか?」

「....」

「俺とアンタは、一体どう言う関係なんだ?」

「....」

「・・・アンタは、一体何処から来たんだ?」

「....」

「・・・何か応えろよ!」


カズキから怒鳴られても尚、巨人は無言だった。カズキは呆れた様に両手を広げると首を横に振りながら何とも言えない様な表情を浮かべた。


「....俺は、一体何なんだ?。俺は、一体どうすれば良いんだ?」

「....」

「・・・此処に来る前、俺は、....俺は何者だったんだ?」

「....」


相変わらず何も話さない巨人。

カズキは自分に妙な安らぎと癒しを与えて続ける空間の中で、ただただ戸惑うしかなかった。







4


「ッ、ッ!」


自分の身体に掛けられた毛布を蹴り飛ばしながら飛び起きたカズキは酷く息を切らしながら辺りを見渡した。息を切らしたカズキは自分が病室らしきところで眠っていた事を理解した。


「....目覚め、ましたか?」

「?。シオリ、さん?」

「何処か、痛いところとかありますか?」


息を整えながらシオリと顔を合わせたカズキはゆっくりと首を横に振った。するとシオリは安堵した様な表情を浮かべるとゆっくりと歩き始めた。


「今、皆さんを呼んで来ますね」

「シオリさん」

「はい?」

「俺、どのぐらい寝てました?」

「・・・20時間、です」

「....」


シオリはゆっくりとドアを開け、部屋の外に出た。

するとシオリと入れ替わる様にマツリが入室して来た。


「目覚めた、様ね....」

「・・・」


何とも言えない様な表情を浮かべたカズキはベッドに座り込んだまま俯いた。

そのまま30秒程沈黙が続く中、その沈黙をマツリが破った。


「貴方がこっちに来た時、」

「?」

「・・・弟が、....弟が生まれ変わって帰って来た。って思った」

「・・・」

「弟は半年前に死んだわ。・・・あのグリードワン級に....」

「....弟の変わり、って訳か?」

「そこまで、そこまで言う気はないわ。・・・ただ、」

「?」

「あまりにも似ているのよ。顔も、声も、....自分を犠牲にするところも」

「・・・」


マツリの発言を聞いたカズキは堪えながら笑い始めるとやがて狂った様な笑い声を挙げた。

狂った笑い声を挙げながらベッドから立ち上がったカズキは笑いを徐々に止めると思いっきり壁を殴った。


「ふざけるな!」

「?」

「・・・何で、何で変身の事を黙ってた?」

「そ、それは....」

「化け物同士で潰し合え、とでも思ってたんだろ?。だから俺達を呼んだ。・・・違うか?」

「違う。それは違う」

「化け物同士で潰し合わせる為に呼んで、終いには弟に似てる?。生まれ変わって帰って来た?。・・・笑わせんな」

「・・・」


わざと音を立ててベッドに座り込んだカズキ。

数秒後....


「入るぞ」


ヴィクトルを先頭にクラウス・レナード・シオリ・アニエス・セシリア・カタリナが入室して来るとカズキは右手で顔の半分を覆いながら僅かに狂った笑みを浮かべながらクラウスと目を合わせた。


「クラウスさん達も、ああなるかもしれませんよ」

「・・・」


クラウスは無言で俯くと怒りの籠った視線をアニエスに向けた。


「どう言う事か、聞かせて貰おうか?」


アニエスはゆっくりと息を吐くと重い口を開き始めた。

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