Episode.04「戦略の違い」

1


赤黒いオーラの様な濁流を降り、“深層”と呼ばれる場所に入り込んだストライクアルファチームの一行。

カズキは薄暗い様な、不気味な様な空間ですぐさま異変に襲われた。


「!」


重力が増した様な違和感が身体中に伸し掛かり、何かに潰される様な感覚がカズキの身体を包んだ。


「これが、深層の邪気よ。普通の人間なら、もう死んでるわ」


冷たく、真剣な声でそう言ったのはマツリだった。カズキは鋭い表情を浮かべると素早く歩き始めた。


「何処を調べる?」

「それを決めるのは、貴方です」


(成る程。隊長が決めろと?)


カズキは頷きながら辺りを見渡した。

倒壊したビル、崩れ落ちた橋、干からびた川、焼け焦げた建物。それらを見たのち足元に目を向けたカズキは1つの違和感を感じた。


「川は干からびて消滅しているのに、血は消えないんだな。・・・これは人間か?」

「人間のも、あるわ」


カズキは頷きながら顔を挙げると血痕が続く先に目を向けた。


「跡を、辿ってみるか」

「了解」


カズキに続く様にマツリらは歩き始めた。

血痕は思ったよりも新しく、長く続いていた。


数分後....


カズキはハッと何かを捉えた様な表情を浮かべると後ろから着いてくるマツリらを止めた。


(居る。それもかなりの数が)

(ビーストの群れを捉えたのね。流石は破壊者ね)


マルールビーストの大群を感知したカズキはそれをマツリらに伝えるとすぐ側にあった半壊したビルに入り、6階まで登った。

そしてサトミとナナミは割れた窓ガラスの側まで移動すると広場に集まるマルールビーストの群れを見下ろした。


「スモールとミディアムだけだけど、かなり居るわね」

「スモールが全体の7割ってところですね」


群れの様子を確認したサトミとナナミは険しい表情を浮かべながらそう報告した。

するとカズキの中にある疑問が浮かんだ。


「深層の入口に近い場所に、これだけの数。侵攻が目的?」

「それは分からないわ。それで、どうするの?」

「?」

「やるの?やらないの?」


カズキは鋭い表情を浮かべながらサトミの側まで移動するとマルールビーストの群れを目視で確認した。


(実力を知るには充分か)


「やろう。地上に上がって来られたら面倒だ」

「了解よ」


マツリ達は互いに頷き合うと変身アイテムのデルニエフォルトを取り出すとグリップを握った。


「作戦は?」

「?」


カズキは僅かに目を見開くと鋭い表情を崩しながらハ?と言う顔をした。


「闇雲に突っ込む訳にもいかないでしょ?」

「・・・」


(マジかよ。全部俺かよ)


軽く溜息を吐いたカズキは再びマツリの方を向いた。


「全員、武器は刀か?」

「私は薙刀とアサルト」

「アサルト?」

「短射程の射撃モード。単発は威力と射程重視の“マグナムマジックショット”。フルオートは短射程の“アサルトマジックショット”よ」


(セミオート、引き金を引くたびに弾が出る仕組みの為、連射は出来ない。対してフルオートは引き金を引いてる間、弾がある限り撃ち続けられる。威力と射程、精度ならセミオートのマグナムマジックショット。制圧力ならフルオートのアサルトマジックショットか。・・・ん?、何で俺はこんな事知ってるんだ?)


口元に手を添えながら表情を険しくしたカズキはマツリ以外の武器を聞いた。


「刀と弓矢」

「同じく」

「薙刀とアサルト」

「同じく」


カズキは頷きながら反応すると割れた窓ガラスに顔を付けない様にマルールビーストの群れに目を向けた。


「それって、変形武器?それとも2種類持ってるの?」

「変形よ。薙刀からアサルトに変形、勿論逆も出来るわ」

「・・・」


戦略を固めるカズキを他所にマツリらはしゃがんだまま頷き合うとデルニエフォルトの鞘を左手で持って左腰に構えると右腕で本体を前方に引き抜き、本体を左肩に当てたのち、本体を立てたまま右腕を横にパッと広げる様に伸ばした。すると彼女達はデルニエフォルトが放出した光を浴びると女侍の姿への変身した。


「・・・やるか、」


そう呟いたカズキはマツリらの方を向くと自分の考えた作戦を話し始めた。







半壊したビルに出来た大穴から助走を付けて飛び降りたカズキは全身から魔力を放出すると足元に魔力を溜めたのち大きく前に飛び上がると再度マルールビーストの群れを見下ろした。


(確かミディアム級って奴は弾を飛ばしてくるんだよな?。だとするなら、)


足の裏に魔力を集中させ、もう一度大きく飛び上がったカズキは刃部分だけで自分の身の丈程の大きさはある“バスターソード”を右腕に装着させると複合剣の右外側部分にあるマウントレールにランチャーを装着させると狙いを定め、持ち手のスイッチを押して弾頭を撃ち出した。

凄まじい反動が腕を貫いて身体を襲う中、カズキを姿勢を崩しながら後ろへ吹き飛ばされた。


(思った通りだ。ミディアムよりノーマル、ノーマルよりバスターの方が威力がデカい。が、思った以上に凄まじい反動だぜ)


そう思った矢先、轟音と共に弾頭がマルールビーストの群れに命中した。

ミディアム級の半数とスモール級の3割を消し炭に変えたカズキはノーマルソードを構えながら地上に降り立つとミディアム級に斬り掛かった。

すれ違い際に刃を前から挿入し、そのままミディアム級を上下真っ二つに斬り裂いた。


「!」


ミディアム級の射線を感じたカズキは放たれたマジックショットを複合剣の盾で受け止めると別方向から来るマジックショットを受け止めた。

ミディアム級の射撃によりカズキの動きが封じられたまさにその時、3体のミディアム級が光の塊によって風穴を開けられた。


(来たか。予想より速いな)


そう思ってる間にもミディアム級は次々と風穴を開けられていった。

その光の塊を放って居たのはマツリ・ミサキ・シオリだった。3人がマグナムマジックショットを放ってる間にも、別方向ではナナミが放つマジックアローの援護のもと、サトミが次々とスモール級を斬り裂いて行った。


「“奇襲からの陽動”。悪くない戦法だけど、リスクを背負い過ぎよ」


マグナムマジックショットからアサルトマジックショットに切り替えながらカズキと合流したマツリはそう言った。


「皆んなが傷付くよりは良い」


そう言い返したカズキはマツリのけん制射撃で動きが鈍ったミディアム級を次々と上下真っ二つに斬り裂いた。

マツリがカズキへ援護射撃しつつミディアム級を超至近距離射撃で仕留めていくなか、ミサキとシオリは武器をアサルトから薙刀に変形させると次々とスモール級の胴体を貫くか頭部を斬り飛ばした。


(皆んな凄いな。俺なんてランチャー撃ってから両手で数えられるぐらいしか倒してないのに、皆んなもう3倍以上倒してる)


そう思ったカズキは「俺の役割はランチャーによる奇襲で8割がた終わってたかな?」と呟いたのちミディアム級の砲身を斬り落としたのち斬り口を貫くと上に斬り上げた。


「!。ありゃ?、もう終わりか」


そう呟いたカズキは辺りを見渡し、目視でマルールビーストが居ない事を確認すると複合剣を消滅させ、戦闘体勢を解くとマツリのもとに向かった。







2


カズキがマルールビーストの頭上にランチャーを撃ち込んだ頃、



(向こうも向こうで始めたか)


そう思ったクラウスは物陰に隠れながらカズキらが交戦を開始した事を悟ると隣に居るアニエスの方を向いた。


「その格好、学生服か?」

「はい。この服のせいか、変身するたびに懐かしく思えます」

「チームによって格好も武器も違うんだな」


そう言ったのちクラウスは両腕に装着したアローアームドに魔力を集中させたのち両手を同時に握り、80センチメートル程の極細い魔力の塊を出現させるとその塊に魔力を剣状に収束させて“マジックブレイド”を形成した。

その瞬間、高台にしゃがみ込んでいたエルザが構えるスナイプモードの武器が超音速のマジックショットを放った。


「今だ!」


エルザの狙撃でミディアム級2体に風穴が空いた瞬間、クラウスはアニエスと共に前に飛び出し、両腕に装着されたアローアームドから出現しているエネルギーブレイドでミディアム級を次々と焼き斬ると次々とマルールビーストを焼失させて行った。


「凄い....」


クラウスの背中を護るようにブレイドモードで次々とミディアム級を斬り裂くアニエスはエネルギーブレイドを二刀流で操るクラウスを観てそう呟いた。

それと同時にランスモード(薙刀より刃が小さい)を構えたガエルとメリッタがスモール級を貫いた。そんな2人を援護する様にエルザは狙撃を続けた。

が、マルールビーストも間抜けではない。

すぐさまエルザの位置を特定すると、動きの速いスモール級を向かわせた。

が、


「さ、させません!」


そう言いながらブレイドモードの武器を逆手に構えながらエルザに迫るマルールビーストにオリビアは斬り掛かった。

するとエルザはスナイプモードからバスターモードに切り替えると狙撃ポイントから飛び降り、スモール級の3メートルタイプを左右真っ二つに斬り裂いた。

“2人1組で行動し、互いの背中を護り合う”

クラウスの作戦は単純だが、生存率と戦い易さを安定させた作戦だった。


(エルザ、かなりやるな)


「新たなビースト。南からです」


クラウスは右に目を向けるとマジックブレイドを消滅させ、炎を纏った特殊な弓を左手に構えると炎で形成された特殊な矢を放ち200メートル先のスモール級を射抜くと射抜いたスモール級を焼失させた。


(あの距離を、弓で⁉︎。・・・クラウスさん、何でも出来るな....)


スナイプモードの武器を構えながらそう思ったエルザは何かが抜けた様な表情を浮かべた。


「新手の数は少ない、畳み掛けよう。エルザ、援護頼むぞ」

「あっ、....はい、」

「?」







3


乾いた音が僅かに響いた瞬間、カズキは左頬を抑えた。その目の前にはゆっくりと右手を下ろすマツリが居た。


「マツリさん⁉︎」

「な、何を....」


音の正体はマツリがカズキに平手打ちをした音だった。マツリは呆れと怒りを混ぜた様な表情でカズキを見つめた。


「....何だよ」

「“皆んなが傷付くよりはマシ”、そんな言葉2度と言わないで。私達が無傷でも、貴方が傷付く事で別の意味で傷付く人間が居る」

「・・・」

「“全員怪我なく無事に帰る”。これがこのチームの結束よ」


(それ、先に言えよ。・・・、)


イマイチ納得出来ない理由で頬を叩かれた気分のカズキは息を吐きながらマツリと目を合わせると、


「自分の力や仲間の力を知る為には、これしか思い浮かばなかったんだ」


カズキはそう言ったのちマツリから目を離すと自分のもとに歩み寄るサトミに目を向けた。


「カズキさんの考え方はわかりました。今度からは、私も一緒に考えます。作戦って言うのは、全員が生きて帰る為にあります。一緒に考えましょう」

「初めからそうして欲しかったんだが?」

「カズキさんの考え方が分からない以上、どうサポートすれば良いか分からなかったんです」


カズキは頷いて返したのち改めてサトミにサポートをお願いした。


「今度は、“貴方も”負傷しない作戦で行きましょう」

「・・・!」


マツリがそう言った瞬間、カズキは何かを察したかの様にマツリとシオリを押し飛ばすと全身から魔力を放出し、戦闘体勢をとろうとするが、


(ダメだ。間に合わない)


カズキがそう思った瞬間、カズキは勢いよく自分に迫る細長い塊によって大きく吹っ飛ばされ、壁に身を叩き付けた。


「⁉︎」


突然の事で状況を掴めずに居るマツリ達。そんなマツリ達に正体を見せる様に倒壊したビルの影から長い尻尾を生やした15メートルタイプのグリード級が彼女達の前に現れた。







4


「凄いですね。クラウスさん」


アニエスらと合流したメリッタは満面の笑みを浮かべながらクラウスにそう言った。


「ありがとう。メリッタもガエルも、良い腕だよ」

「ありがとうございます」

「当然だ。言っただろ?戦闘は任せろって」


微かに笑みを浮かべたクラウスはエルザの方を向くと、笑みにハテナを混ぜた様な表情を浮かべた。


「エルザ?何かあったか?」

「ッ⁈。い、いえ。・・・なんでも、ない、です」

「?」

「・・・」


アニエスはエルザの心情を察すると今は何も言わないことにするとクラウスに次の指示を仰いだ。


(うーん。いっそカズキらアルファチームと合流を試すか?。・・・いや、今は各々で動くべきか?。仮に各々で動くとして....)


「ちょっと待ってくれ」


混乱して来た頭を冷やす為にアニエスらから数歩離れたクラウス。それを見たアニエスはエルザに声を掛けた。


「大丈夫?」

「えーと、その....」

「ゆっくり自分のペースで話して大丈夫よ」

「・・・クラウスさんを見たら、....また自信が無くなって....」

「・・・」


アニエスはエルザの小さな肩にそっと手を置くとエルザに向かって優しく微笑んだ。


「確かにクラウスさんは凄い。貴方よりも勝ってる部分もある。けど、クラウスさんは貴方より劣っている部分も多いわ」

「アニエスさん....」

「大丈夫。また失ったのなら、少しずつ取り戻して行きましょう」

「・・・はい....」


自信無さげに返事をするエルザの肩をもう一度優しく叩いたアニエスは考えが煮詰まり掛けているクラウスの方を向いた。


「!」


それに反応する様にクラウスは目を見開くと顔を挙げた。


「カズキが危ない」

「?」

「アルファチームと合流するぞ!着いて来てくれ」

「え?って、ちょっと⁉︎」


混乱するアニエスらを他所にクラウスは再度アニエスらに移動命令を出した。


(頼む。勘違いであってくれよ)







5


「そ、そんな....」

「カズキさん....」

「・・・」


マツリ以外の4人は今の一撃でカズキが死んだとさえ思った。だが、カズキは微かに身体を動かしており、まだ息はあった。

15メートルタイプのグリード級にもそれがわかっていたらしく再び長い尻尾を操り、先端でカズキを殴り挙げると右手でカズキを掴んだ。


「!」


マツリ達はすぐさま再度変身するがそれに気が付いたグリード級は変身の隙を突く様に尻尾で5人纏めて薙ぎ払った。

5色それぞれの悲鳴が混ざり合うが、変身自体には間に合って居た為、辛うじてダメージを受けずには済んだ。

グリード級はカズキを倒壊したビルに投げ付けるとカズキは1枚目の壁を貫通し、2枚目の壁に思いっきり背中と後頭部を叩き付けた。


「カズキさん!」

「そんな、こんな....」


体勢を立て直したのちグッタリと座り込むカズキを助けようと走り出すマツリ達。

そんなマツリ達を無視する様にグリード級はカズキが座り込む倒壊したビルに近付いた。

が、次の瞬間、

グリード級とマツリ達は何かを感じ取る様に歩を止めた。


その瞬間、

カズキは閉じていた目を開いた。

瞳をアクアグリーン色に輝かせ、濃紺色のオーラを身体に纏わせながらカズキはゆっくりと呼吸を始めた。


「あれは....」

「・・・まさかあれが、破壊者の?」


シオリの発言を前にマツリは力強く頷いて返した。

そんなマツリらを他所にカズキはウォーターグリーンカラーの光に包まれると呻き声を挙げながら立ち上がった。そんな声に応えるかの様に、指先や爪先、頭部から朱色の光が紋様の様な物を描きながら血管を辿る様にして胸元に向かって集まった。

その光は吸われる様に胸元に全て集まるとY字の発光体を作り出した。


「グゥワアァァァッッッ」


呻き声が雄叫びに変わった瞬間、Y字の発光体は点滅するたびにアクアグリーンの発光体を血管を辿る様に全身に送り出すと身体を纏う輝きやオーラを強くした。


「あれが、“変身”」


サトミがそう呟いた瞬間、カズキの身体を濃紺色のオーラが包み込むとオーラの所々に出来たひび割れらしき物からウォーターグリーンの光を漏らしながらカズキを天井を崩し、床を崩落させながら巨大化させ、“変身”させた。


「?」


マツリが微かに表情を曇らせると“それ”は姿を現した。

カズキが変身した姿は濃紺色の皮膚で冷えて固まった溶岩の様にデコボコ、筋繊維状の関節部は暗緑となっており、胸元に小さなY字のコアがあり、肘から小さな刃を生やした全長10メートルの巨人だった。

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