Episode.03「顔合わせ」

1


アーネストから手渡されたメモ紙に書かれた部屋に向かって居たカズキ達。


「あっ、此処だ」


カズキはそう言うと他の3人と別れたのちゆっくりと手を挙げた。


(顔合わせか....やけに緊張するな)


そう思いながら挙げた手でドアをノックするカズキ。すると中から女性の声がしたのに対し、カズキは息を吐きながら返すとドアを開けた。

中にはカズキと同い年ぐらいの女性が5名居た。


「破壊者として呼ばれたカズキと申します。宜しく、お願いします」


語先後礼で挨拶をするカズキを見た5人の女性達もそれぞれ自己紹介を始めた。


「マツリよ。チーム“ミコ”のリーダーをして居たわ。宜しく」

「サトミです。チーム“ミコ”のサブリーダーをして居ました。宜しくお願いします」

「私はナナミ。宜しく〜」

「ミサキです。以後宜しく」

「シオリと申します。宜しくお願いします」

「こちらこそ、宜しくお願いします」


(声と言い、見た目と言い、弟にそっくりね)


そう思ったマツリの隣で、


(若い。マナミさん達から聞いて居た以上に若く見えるわね)


サトミがカズキに対してそう思う近くで、


(意外と行儀良いって言うか....全然破壊者って感じがしない)


シオリはそう思った。

そんな中、マツリはカズキと目を合わせた。


「貴方が合流した事でこのチームは“ストライクアルファ”になったわ。宜しくね、“隊長”」

「?」


マツリの発言を前に状況を飲み込めてないカズキは目を見開くとさっきから感じて居た違和感の正体に気が付いた。


「俺が、隊長?」

「ええそうよ」

「・・・何も聞いてないんだが?」

「え?」


一瞬、その場が凍り付いた。だがある程度こうなる事を予測して居たマツリは呆れ溜息を吐いた。


「アーネストさんがやりそうな事ね〜」

「?」

「私達は“破壊者の指揮のもと戦え”って言われたの」

「・・・」


一周回って驚きを通り越したカズキは溜息を吐きながら頭を抱えると、


「昨日来たばかりで右も左も分からない人間に、何をしろと?」

「大丈夫よ。サブリーダーとして、出来る限りのサポートはするわ」


表情を緩め、笑みを浮かべながらそう言ったマツリは周りを見渡した。他の4人もマツリに頷いて返した。


「やるだけやってみましょうよ。マツリさんだけじゃなくて、私も出来る限りサポートしますから」

「まっ、私も出来るサポートはしますよ」

「雲行きが怪しく思えるが、・・・良いでしょう。私も可能な事はします」

「遠慮なく頼って下さいね」

「・・・ァッ」


(そう言えば昨日“チームを任せる”って言ってたな。さりげなく感覚で言われたからマジで抜けてたぜ。ってか、あれってマジだったのか。....うーん、)


カズキは数秒考えると顔を挙げてチームメンバーと顔を合わせた。


「ありがとう。最善を尽くすよ。宜しく、お願いします」

「ええ。こちらこそ宜しくお願いします」

「改めて。ようこそ、ストライクアルファチームへ。“隊長”」







2


指定された部屋に入室したクラウスは20代前半の女性5人に出迎えられた。

クラウスは自己紹介を済ませると女性陣達も自己紹介を始めた。


「アニエスです。チーム“ティーガー”の元リーダー現サブリーダーです」

「!」


チーム名を聞いた途端、頭に電流が走った様な感覚にクラウスは襲われた。


(“ティーガー”?。どっかで聞いたな。....何だ?懐かしい様な、頼もしい様な、....無敵と言うか、)


そんなクラウスを他所に自己紹介は進んだ。


「ガエルだ。先陣は、いや戦闘全般、任せてください」

「あの、エルザ、です。宜しく、お願いします」

「オリビア、です。・・・ど、どうか宜しく、お願い、します」

「メリッタです。宜しくお願いします」


(戦闘狂が1に内気が2か....何これ物凄く不安)


クラウスはそんな事を思いながらアニエスの方を向くと、とある質問をぶつけた。


「“元リーダー”って、どう言う事だ?」

「え?。・・・アーネストさんから、何も聞いてないんですか?」

「ああ」


アニエスはガエルと顔を合わせるとキョトンとした表情を浮かべた。


「アーネストからは“貴方”がこのチーム、“ストライクブラボーチーム”のリーダーになるって聞いてるぞ」

「ええ。“破壊者の指揮のもと戦え”って」

「嘘だろ....いきなり過ぎないか?」


(ん?、待てよ。・・・そう言えば“チームを任せたい”って言ってた様な....)


そう思いながらクラウスは口元に手を添えて数秒考えると、再びアニエスらと目を合わせた。


「わかった、引き受けよう。クラウス、ブラボーチーム、預かります」

「ありがとうございます。私も、いえ私達も可能な限りサポートします」

「ああ、頼む」


(何だろうな。此処に来る前も“人の上に立つ”事をやって居た気がする。・・・やっぱり思い出せないな)







3


ヴィクトルは指定された部屋の扉を3回ノックしたのち応答を待った。


「来た、どうぞ御入り下さい」

「失礼する」


そう言ったのちヴィクトルはドアノブを捻り、入室すると中に居た5人の若い女性と顔を合わせた。


「ヴィクトルだ。破壊者とこの世界に呼ばれた魔導士だ。宜しく頼む」

「カタリナよ。チーム“カンターメン”のリーダーで、“ストライクデルタチーム”の副リーダーをしてるわ」

「ユリウス。まっ、宜しくお願いするわ」

「マリアです。宜しくお願いします」

「ルーナと、言います。宜しく、お願いします」

「ウィルゴー。まっ、宜しく」


ヴィクトルは頷いて5人を見渡すと、


(“呪文”の下に付くは“月”と“乙女座”か)


そう思ったのち改めて挨拶するとカタリナの方を向いた。


「副リーダー、と言ったな。って事はまさか」

「ええ。宜しくお願いします。“リーダー”」

「そう言う事か。まっ、想定はして居たさ。了解だ。ただ、可能な限りのサポートは頼む」

「ええ。わかっているわ」


(俺はアーネストが言った“チームを任せる”って発言を覚えて居た且つ意味を理解して居たからよかったが、他の3人はどうかな?)


そう思いながらヴィクトルはチラッとドアの方を向いた。







4


レナードは自分のチームメイトとなる5人の女戦士の前で自己紹介を済ませた。


「セシリアです。チーム“ロイヤルガード”の元チームリーダーで、今は“ストライクチャーリーチーム”のサブリーダーです」

「ソフィアよ。まっ、気楽に行きましょ。宜しくね」

「ヘレナです。宜しくお願いします」

「マシュです。どうか宜しくお願いします」

「ジュピターだ。戦闘は任せてくれ」

「・・・ちょっと聞いて良いか?」

「はい?」

「チームリーダーは、誰?」


レナードの発言を前に5人は顔を見合わせた。するとキョトンとした顔したヘレナが、


「アーネスト指揮官から、聞いてないんですか?」

「レナード先輩が、このチームのリーダーになるって聞いてたんですが」

「⁈。確かに着任は命じられたが....リーダーって話は聞いた覚えないぞ」

「「えー⁉︎」」


ヘレナとマシュに驚かれたレナードは反応に困りながら自分の決断を悔いた。


(驚かれたって、そんな話聞かされた覚えないよ!。確かに護る為に力を使うとは言ったけど、部隊指揮をやるとは言ってないぞ!)


「誰かを護りながら部隊を指揮するなんて、出来る訳、....あっ、」

「・・・」


レナードは思わず出してしまった自分の発言を前に頭を抱えた。それを観たセシリア達も、何とも言えない表情を浮かべた。


(辞退したい。・・・部隊指揮なんて、出来る訳ないだろ)


「レナードさん、大丈夫ですよ。私達もサポートしますし、・・・私も初めて隊長を任された時、同じ気持ちでしたから」

「レナードがそう思うのも無理ないわ。しかも昨日この世界に召喚されたなら尚の事、ね」

「レナードさんならきっと出来ますよ」

「セシリア先輩のサポートがあれば、レナード先輩もきっとやれます」

「大雑把で構わない。細かい部分は個人で調整すれば良いだけだ」


レナードは頭を抱えながら荒く息を吐くと申し訳なさそうな表情を浮かべた。


「すまない。少し、考えさせてくれ....」


そう言うとレナードはセシリアらに背を向け部屋を出た。


「・・・」

「無理もないと言えば無理もないですが....」

「どう、します」


セシリアが口元に手を添えて考える中、ソフィアは僅かに表情を鋭くすると、


「此処は、そっとしておきましょう」

「・・・そうね。こればかりは、本人が決めなきゃいけない問題ですもの」








5


部屋から出たレナードは偶然、カズキ・マツリ、クラウス・アニエス、ヴィクトル・カタリナのペアとバッタリ会った。


「・・・」


レナードは無言で通路を足速く歩いた。が、レナードの状況を見抜いたヴィクトルがすぐさまレナードを呼び止めた。


「すみません。今は、」

「アーネスト上官は言ってたぞ。チームを任せたいって」

「⁉︎」


驚きを隠せない表情を浮かべながらレナードはヴィクトルの方を向いた。


「嘘だ」

「嘘じゃない」

「・・・俺に、俺なんかに、」

「....」

「俺なんかに隊長が出来る訳ないだろ!。確かに戦うとは決めた。・・・けど、」

「レナードさん、俺だって同じ気持ちです。多分クラウスさんやヴィクトルさんも。でも、やってみなきゃ分かりませんよ」

「・・・考え、させてくれ....」


そう言うとレナードは再び通路を歩き始めた。


「此処に来る前の記憶が、断片的に残っているのかもしれんな。多分此処に来る前に、何か失敗をしてるんじゃないのか?」


レナードの背中を見送りながらヴィクトルはそう言った。


(断片的な、記憶....か。・・・“正義の戦い”、“ティーガー”。一体、何なんだ)


そう思ったクラウスは自分らに背を向けてカタリナと共に歩き始めたヴィクトルの方を向いた。


「何処行くんだ?」

「壁とその周辺の案内を頼んだ。奴らを徹底的に叩くには、防衛の現状を知っておく必要がある」

「そうか。確かに言えてるな」

「そう言う君達は?」

「俺は、深層に向かう。カズキは?」

「俺もです。自分と仲間を知る為には、それが良いかな、と」

「成る程な」

「出撃届、出しに行きましょうか」

「そうね。行きましょう」


4人は同時に歩き始めた。

カズキとクラウスは自分らに伸し掛かる“不安”や“期待”を背負いながら只管2人の後を追った。


(本当にやれるのか?、俺に....)

(最善を尽くすしか無いな。・・・けど責めて自分を知ってからにしたかったな)







6


高層ビルが立ち上る近未来の様な街並みを抜けたカズキはストライクアルファチームの面々と共に深層の入口へと向かう為に防衛エリアに指定されている地下へと潜った。

高さ60メートルの巨大な壁を背に潜った先には放水路の様な広い空間が広がって居た。


「天井までの高さは40メートル。各柱には無人兵器や戦闘用ドローン射出器が埋め込まれてるわ」

「それだけ聞くと護りは凄そうに思えるな。何で突破されるんだ?」

「40メートル以上ある種が天井を突き破ったり、柱を崩して倒壊させたりするの」

「ビーストは平気で壁をよじ登りますから、大軍に襲われたら幾ら60メートルの分厚い壁があっても、あっという間に登り切られて、都市に溢れるんです」


マツリの説明に補足を付け加えるナナミ。すると今度はミサキが更に補足を足した。


「で、此処の防衛エリアが突破されたら人間、即ち私達の出番です」

「って事は、基本的に防衛は無人兵器頼みか?」


補足説明を前にカズキが放った言葉にマツリとミサキが難しい表情を浮かべるとサトミが申し訳なさと悔しさを混ぜた様な表情を浮かべた。


「言いたい事は分かるわ。何をするんでも人の力が1番よ。ただ、人手が足りないのよ。....防衛隊は志願制だから、徴兵は出来ないし」

「....そうか、いや悪かった」

「ううん、気にしないで下さい。知らなきゃならない事ですから」


カズキは修復や復旧作業が進むエリアに向けると此処に来る前に見えた“倒壊した壁”を思い出した。


(高層ビルからこれを見下ろしてるのは、一体どんな気分なんだ?)


そう思いながらメンバーの後に続いて歩くカズキ。

すると、最後尾からカズキを見ていたシオリが口を開いた。


「皆さんが、....私たちが護るべき皆さんが、見えないところで終わるのが、1番なんですが....どうしても、・・・特にこの前の様な前例に無い程の大侵攻となると....」

「深層内部に大型種や上位種が多いのは当たり前です。・・・今後、大侵攻が増える可能性を考えるとあまり良い気はしません」


シオリに続いて言葉を発したサトミ。

カズキは改めて自分に課せられた重荷を理解するとメンバーに合わせる様に足を止めた。

カズキらの視線の先には急勾配を降る濁流の様な赤黒い何かがあった。


「これが?」

「これが深層の入り口です。此処を滑り降ります」

「オーケー。・・・じゃあ行こうか」

「「「「「了解」」」」」

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