Episode.02「集結」

1


「俺はただ、朱色の巨人に“此処に来て戦え”って諭されて来ただけで....」

「朱色?。俺は黄緑みたいな奴だったぞ」


弓とアローアームドを消滅させたクラウスは「人によって違うのか?」と呟いた。すると変身を解いたディフェンスアルファチームの面々が考え込むアーロンの側に立ち止まった。


「ディフェンスアルファチーム隊長のマナミです。此処で立って話すのもなんですから、一度移動しませんか?」


カズキとクラウスは一瞬顔を合わせたのち身体から魔力を放出させた。


「話は後にした方がよそそうだな」

「ああ。まだ来るみたいですよ」


そう言うとクラウスは両腕にアローアームドを装着したのち左手に弓を持った。それに続く様にカズキもノーマルソードを右腕に装着すると持ち手のハンドル型グリップを強く握った。


「第四波目、ですか?」

「総員、迎撃準備」


マナミの号令でデルニエフォルトを構えたディフェンスアルファチームは鞘を左手で持って左腰に構えると右腕で本体を前方に引き抜き、右腕を後ろから前に回して本体を空に掲げた。すると閃光に包まれた彼女達は再び巫女服姿へと変身。魔力召喚した日本刀を構えた。


「まだ来るのかよ」

「流石に残弾と戦力が心許ないな」


カズキとクラウスは目を合わせたのち頷き合うと足に魔力を溜めると勢いよく前に飛び出した。

先行するカズキとクラウスの前に現れたのは7メートルはある四足歩行型ビーストのラージ級とそれに率いられたミディアム級の群だった。


(クラウスさんの武器を考えるなら、)


目付きを鋭くしたカズキは「ラインが見えた」と呟くとノーマルソードを消滅させたのちすぐさま小振りなミディアムソードを装着すると3メートルタイプのミディアム級4体を素早く仕留めると魔力を使って飛び上がるとミディアムソードを消滅させたのちカズキの身の丈程の大きさはあるバスターソードを装着した。


「ダァァァッッ」


雄叫びと共にラージ級の左前脚を根本から切断すると魔力を使って空中ジャンプするとラージ級の首を斬り落とした。

バスターソードを消滅させ、ノーマルソードを装着したカズキは複合剣のシールドでミディアム級のマジックショットを受け止めた。するとその隙を突くようにクラウスの放った矢がミディアム級を貫いた。

だがラージ級を仕留めても退く事を知らないマルールビーストは束になって“破壊者の石像”へ向かった。


「不味い」


すぐさまマナミはチームを率いてマルールビーストの後を追った。

その瞬間、神殿に祀られていた3体目の石像が青く輝き始めた。







2


「!」

「3体目、来るのか?」


青く輝き始めた石像は胸元にあった丸い半球の様な物が水縹色に光り始めるとそこから石像がひび割れ始め、ひび割れた箇所から青色の光を発し始めた。

次の瞬間、石像が勢いよく砕け散ると中から水縹色に包まれた男が飛び出した。

男は地面に着地する前に自分の身体を包み込む光を吹き飛ばす様に身体から魔力を放出したのち、右手に剣を握り、左手に盾を装着すると地面に着地すると同時に勢いよく前に出るとシールドバッシュで1体仕留めた。


「パラディンナイトか?」


クラウスがそう呟く中、男は次々とマルールビーストを斬り裂いて行った。だが、それでは埒が明かないと判断した男はバックステップで下がると剣の刃先に魔力を溜めた。


「!、マナミさん!距離を取って下さい!。あの男、範囲攻撃をするつもりです!」

「ッ、総員退避!」


カズキの忠告に従う様に男やマルールビーストから距離を取るマナミらディフェンスアルファチーム。

が、彼らは気付いて居なかった。4体目の石像が、銀色に光ながら、胸元にあったV字の何かを赤く輝かせている事を。

男は僅かに口角を挙げると刃先に宿した魔力を前方に放った。


「ドラゴンウェーブ!」


そう叫ぶと同時に横に振られた剣の刃先から炎で形成された5体のドラゴンが飛び出すとドラゴンはブレスを吐きながらマルールビーストを焼き払うと自然消滅した。


「凄いな」

「ああ言う範囲攻撃系の奴が欲しかった」


クラウスがそう言った瞬間、カズキは自分らに迫るスモール型の群れに目を向けた。

その瞬間、最後の石像が砕け崩れると中からポンチョのフードを深く被り、銀色の光に包まれた男が出て来た。


「!」


(今度は“魔導士”か?)


驚くサクラの横でそう思ったヒヨリはカズキらに近付くマルールビーストの群れに目を向けた。

すると銀色の光に包まれて居た男は空中浮遊しながら水色の魔導書を左手の平に召喚した。


「大気を浮遊する水分よ。我の周りに集ったなら氷の礫となりて前方へ飛べ」


魔導士は呪文を唱えながら自分の周りに集めた水滴を礫サイズの水の塊に変えるとを冷気を宿した魔力でそれを凍らせ、氷の礫に変えた。


「(“アイスアサルト”)」


魔導士が右手を振り下ろした瞬間、無数の氷の礫がカズキの前方に居たマルールビーストの群れに向かって音速で飛翔すると次々とスモール型を穴だらけにして行った。







魔導士は魔導書を消滅させながらゆっくりと地上に降りると自分の元に駆け寄る騎士に顔を向けた。


「俺はレナード。アンタは?」


魔導士はポンチョのフードを外すとレナードと目を合わせた。


「ヴィクトルだ」

「宜しく頼む」


ヴィクトルは僅かに表情を緩めるとゆっくりと頷いて返した。そこへクラウスとカズキも合流すると互いに紹介と挨拶を交わした。

マナミもそこに加わろうとするがアーロンがそれを止めた。


「?」

「破壊者が集結した。今は破壊者同士で会話をさせよう。彼らの現状を何か掴めるかもしれない」


アーロンのその言葉を偶々聞いたレナードは首を傾げながら3人の方を向くと、


「ところで、皆んな歳は?。俺は21だが?」

「19です。クラウスさんは?」

「24だ。ヴィクトルは?」

「22。・・・カズキが1番歳下で、クラウスが1番歳上か」

「・・・レナードさん、ヴィクトルさん。此処に来る前の事、何か知ってますか?」


レナードは口元に右手を添えて考えるとヴィクトルはカズキの方を向いた。


「石碑に触れたら、謎の空間に飛ばされて、そこで銀色の巨人に出会った。で、此処の世界に行き怪物どもを殺せと諭された」

「銀色?。俺は青かったぞ」

「やっぱり、全員色が違うのか?」

「・・・背中に翼の様な突起物はありましたか?」

「あったな、2本」

「2本?俺のは4本だったぞ」


クラウスの回答に他の3人が驚いた。そんな中、カズキは漸く状況を理解した。


「つまり、俺たちは“破壊者”に導かれたのか?」

「破壊者?何の事だ?」


レナードがそう返すと痺れを切らしたアーロンがゆっくりと4人に近付いた。


「詳しい事は場所を変えて話そう。こっちだ、着いて来てくれ」







3


「破壊者の目覚めね〜」


火のついた煙草を咥えていた中年の男はそう言いながら口から煙を吐いた。


「防衛は成功ですが、今回は被害がかなり大きい。が、破壊者が目覚めたのは大きい」


煙草を吸う中年男性よりも若干若い男が椅子に座ったままそう答える中、部屋の扉がノックされた。


「ハーシュルか」


咥えていた煙草を指で摘むと携帯灰皿に吸い殻を押し付けて火を揉み消すと扉の方を向いた。


「入れ」


「失礼します」と言う声と共にハーシュルが扉を開けるとクラウス・カズキ・レナード・ヴィクトルの順に入場するとハーシュルはゆっくりと扉を閉めた。すると椅子に座って居た男がゆっくりと立ち上がった。


「ディフェンスチーム指揮官のミッシェルだ。そっちは、」


ミッシェルは壁際に立って居た中年男性に視線を向けると男性は数歩前に出ると、


「ストライクチーム指揮官のアーネストだ。破壊者諸君の、立場上の上官になる者だ。まぁ宜しく頼む」

「「「「・・・」」」」


無言で互いに顔見合わせる破壊者達。すると、


「私はクラウスです。宜しくお願いします」

「俺は、カズキです。どうぞ、宜しくお願いします」

「・・・レナードです。宜しくお願いします」

「ヴィクトルだ。宜しく頼む」

「・・・詳しい説明をしよう」







アーネスト、ミッシェルと向かい合う形でソファに座ったカズキらはアーネストと目を合わせた。が、


「私が詳しく話そう」


ミッシェルはそう言うと机の端にあるパネルを操作すると机の中央にホログラム映像を表示させた。

映像に映し出されたのはブラックホールの様な赤黒い空間の様な何かだった。


「さっき君達が戦った怪物、“マルールビースト”は此処からやって来ている。我々はこれを“深層”と呼んでいる」


パネルを操作し、表示される映像を切り替えたミッシェルはホログラム映像に複数のデータが表示された事を確認すると話を続けた。


「深層は突如としてこの大陸に現れ、工業国“グローセンハング”を飲み込み、ビーストを撒き散らかしている。我々は他国と手を結び、深層の周りを囲う様に壁を作り、ビーストを封じ込めようとした。が、相手は強力且つ強大、封じ込めるにも限界がある」

「それで、今回の様な事に?」


ヴィクトルの問い掛けにミッシェルは頷いて返した。


「雑魚になら、一般兵士でも対応出来る。が、大軍を相手にしようとしたり、強力な種を相手にしようとすると魔力を持った人間が必要になる」

「まさかその魔力を持った人間って、変身して戦って居たあの女性達ですか?」

「そうだ」

「魔力を所持し、操る事の出来る兵士が“リベリオン”だ。それの上位互換に“適応者”と言う存在がいる。女達が変身する時に使って居たアイテムがあるだろ?。あれに選ばれるだけの魔力と戦闘能力を有したエリート戦士で構成されているのが“ストライク”と“ディフェンス”だ」

「?、変身アイテムに選ばれた者を“適応者”。その適応者で構成された戦闘隊が“ストライク”と“ディフェンス”。って事ですか?」

「その通りだ。ディフェンスは、先程君達の前に姿を現した10名の女戦士の事だ。ディフェンスが守備に徹するのに対してストライクは深層の探索・攻略がメインとなる」

「ストライクは今丁度4部隊ある。一部隊ずつ、君達に任せたいと考えている」

「ちょっと待ってくれ」


アーネストの発言を前にレナードが止めに入るとミッシェルとヴィクトルはレナードの心境を察した。先に口を開いたのはヴィクトルだった。


「俺達の事について、知ってる事を教えてくれ」

「何?」

「いきなり破壊者だの、ストライクを預けるだの言われても、俺達には何の事かさっぱりわからない」


アーネストとミッシェルは顔を合わせた。するとミッシェルはホログラムを切ると少し前屈みになって話し始めた。


「こう言う伝承がある。『世界が間違った終わりを迎える時、“破壊者”はその姿を現す。破壊者はその力を持って大地の様々を壊し、やがて消える。・・・暫しの眠りの後、破壊者は再び姿を現す....』、と言うな」

「・・・」

「あの深層の出現とビーストの侵攻は、“間違った終わり”と踏んで居た。そして我々は、破壊者の目覚めと集結を待って居たんだ」

「その破壊者が、俺達だと?」

「そうだ」


カズキ達は互いに顔を見合わせた。するとクラウスは真剣な表情に困った様な表情を混ぜながらミッシェルの方を向いた。


「俺達、名前と年齢以外、何も覚えてないんですよ。ビーストと戦えたのは、此処に来る前に“謎の巨人”に此処でビーストと戦えと諭された時に見せられたものを、まんま再現しただけなんです」

「・・・破壊者に導かれた、って事か」


ミッシェルが発した言葉を前に4人が返すべき言葉を無くす中、アーネストは溜息を吐いたのちポケットから煙草を取り出した。


「その諭された空間、そこで破壊者と一体化のかもしれんな。まぁひとまず、お前ら破壊者がこの世界で最強の力を手にした事は間違いないだろう」

「最強の、力....」

「ディフェンスよりもストライクに属する適応者の方が戦闘能力も高く、魔力も多い。・・・そんなストライクを超える戦闘力と魔力を君達は持っているんだろうな」

「・・・」


4人は返すべき言葉を失った。

何も分からぬまま飛ばされたと思ったら、いきなり世界最強の力を手にしてしまったのだから、当然と言えば当然なのかもしれない。

そんな中、言葉を失う4人を前に、アーネストは咥えた煙草に火を付けるとゆっくりと吸い始めた。


「最初にお前らの上官となる、と言ったが最終的な決定権はお前らにある。・・・重要な決断だ、ゆっくり考えると良い」

「君達にはストライクチームと共に深層へ潜り、様々な調査をしてもらう事になる。命懸けだ。・・・また明日、答えを聞かせてくれ」







4


一通りの話を終えたアーネストは自分の秘書であるハーシュルにカズキらを部屋に案内する様に頼むと吸い殻を携帯灰皿に入れると自分の椅子に座り込むミッシェルの方を向いた。


「こんな大雑把な説明で、良かったんですか?」


ミッシェルからの問い掛けに半分呆れた様な表情を浮かべたアーネストはミッシェルから目線を外し、顔を窓の方に向けた。


「最初から色々説明しても意味ないだろ。返って混乱するだけだ」

「そうですかね?」

「今は、“自分らは伝承にあった破壊者で、深層の脅威から人々を護る為にマルールビーストを殺し、深層を知るために調査する”。これだけ分かってればそれで良いんじゃねぇか?」


ミッシェルは椅子の背凭れに寄り掛かると軽く溜息を吐いた。


「答えは自分らで探せ。って事ですか?」

「自分らで探し、知れば良いのさ。・・・最終的にどんな判断下すかは知らんが、な」


ミッシェルは苦笑いを浮かべながら机に両手を付くと報告書を整理し始めた。

アーネストはミッシェルに一言挨拶すると部屋から出て行った。


「・・・」


(責めて“変身”の事は伝えた方がよかったんじゃないか?)







用意された部屋で風呂を済ませ、用意された衣類を身に纏ったカズキはベッドに横たわりながら天井を見上げて居た。


「?。どうぞ」


ベッドから起き上がり、ノックされたドアの方を向いたのちそう言ったカズキ。するとクラウスとレナードが入室して来た。


「休んでた最中か?」

「いや、大丈夫です」


クラウスとレナードはカズキの向かい側に椅子を移動させると座ったのちカズキと目を合わせた。


「考えは、決まってる様だな」

「戦いますよ、俺は。クラウスさんとレナードさん、それにヴィクトルさんは?」

「ヴィクトルももう既に戦う意志を決めている。俺ら2人はまだだ」


カズキは頷いて返した。


「俺は、望んで来た様な気がするんですよ」

「望んで?」

「此処に来る前の事は殆ど覚えてません。けど、何となくそこだけは覚えてるんです。“今居る世界よりはマシだ”って言って此処に来た事を」

「成る程」

「それに、何故かこうも思うんです。“自分が手にした力で護れる物があるなら、それを護るために使うべき”だと」

「・・・」


クラウスは口元に手を添えて数秒考えると目を見開いたのちカズキと再び目を合わせた。


「“膨大な力こそ、正しく使え。祖国に牙を向く者達に正義の力を見せろ”。何だろ、こんな言葉が頭を過った」

「祖国に....正義....」

「・・・俺は、俺も戦う」

「クラウスさん」

「クラウス....」


(“もっと力があれば救えた”。・・・なんだ、一体?)


レナードは俯いて少し考えると「1人で考えたい」と言って部屋を出た。







5


次の日....

アーネストの執務室に呼ばれたカズキら4人はハーシュルの案内で部屋に向かった。


「それで?。答えは出たか?」


椅子に座りながら4人そう問い掛けるアーネスト。

まず先に声を挙げたのはヴィクトルだった。


「此処に来た以上は、自分の出せる力を使い、ビーストどもを根絶やしにします。ヴィクトル、破壊者として戦います」

「そうか。まぁビーストを根絶やしに出来るかは別として、了解だ。他の3人は?」

「与えられた力、正しく使い熟し、間違った終わりを破壊します。クラウス、破壊者として戦います」

「俺には知らなくてはならない事が沢山あります。それを知る為にも、護るものを護る為にも、この力、使わせて頂きます。カズキ、破壊者として戦います」


アーネストは頷いて返すとレナードの方を向いた。他の3人もレナードの方を向く中、レナードは、


「此処に来る前、“護るべきものを、自分の力不足のせいで護れなかった”。そんな経験をした気がします。・・・与えられた力で、護るべきものを護り、破壊するものを破壊します。レナード、破壊者として戦います」

「そうか。・・・事前に言っておくが、俺からはイチイチ指示を出したりはしない。これから合流するストライクチームの面々と共に動きたい様に動き、護り、そして見つけろ」


そう言うとアーネストは椅子から立ち上がると、


「クラウス・カズキ・レナード・ヴィクトル。4名の破壊者にストライクチーム配属を命ずる。・・・以上だ」




カズキらを見送ったアーネストは椅子に座ると咥えた煙草に火を付けると背凭れに寄り掛かりながら椅子を左に向けたのち指で煙草を咥えたのち口から離し、ゆっくりと煙を吐いた。


「4人の破壊者とストライクの戦士、この者たちが深層で何を見つけるか、その先に在るであろう“壁”をどう乗り越えていくか。俺は煙草を吹かしながら、見物させて貰うよ」


天井に向かって消えゆく煙を眺めながらアーネストは、そう呟いたのちもう一度煙草を咥えた。

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