REINA
村渕和公
Episode.01「間違った終わり」
1
「対深層防衛エリアの東ブロックが突破されたぞ!」
「ロスカスタニエで迎え撃て!。但し、神殿には近付けるな!」
マシンガンを持った男達は怪物に向かって銃弾を撃ち続けながらそう叫んだ。
突如として大陸に現れた“深層”と呼ばれる瘴気で出来た空間から現れる怪物“マルールビースト”から人々を護る為に、彼らを手を取り合い、防衛隊を組織し、深層を囲う様に“防衛エリア”と“壁”を作り、マルールビーストを封じ込めようとした。
だが、マルールビーストは強大。数で攻められば壁の内側で全てを駆除するのは困難だった。
「ジョルジュ隊長、“リベリオン”は⁉︎」
「今はまだミディアム級だから対応出来ますが、ラージ以上が来たら、彼らの魔力無しには対抗出来ません」
「怯むな。魔力が無い奴には無い奴なりの戦い方があるんだよ!。残弾はまだあるだろ?俺達一般兵の力、見せつけてやるぞ。大丈夫だ。彼女達は来る」
「了解!」
「対物ライフルとランチャーはあるな?。ラージ級が見えたら、喰らわせやれ!」
そう言ったジョルジュはマシンガンの再装填を終えると二足歩行の人型ビーストの“スモール級”の頭に風穴を開けた。
「良いか!神殿に祀られてる“アレ”が俺達にとっての最後の希望だ。此処から先には、何人たりとも通すな!」
「「「了解!」」」
『こちらレンジャー6。レンジャー3、9と通信途絶!』
『救援に向かった11も応答しないぞ!』
『こちらスカウト4。ロスカスタニエの北側が突破された。ビーストが神殿に向かってる!』
「何⁉︎」
「小隊3つじゃ、止められなかった?」
「奴らの目的は神殿に祀られている“破壊者の石像”だ。不味いな」
そう言ったのちマシンガンの引き金から指を離したジョルジュは無線機のチャンネルを変えた。
「レンジャー1からディフェンスアルファチームへ」
『こちらディフェンスアルファのマナミ』
「街の西側は後回しで良い、宮殿に急行しろ!。石像を何としても護れ!」
『了解』
(あんなビーストに滅ぼされるなんて“間違った終わり”に決まってる。絶対、絶対破壊者は現れる)
そう思ったジョルジュは再び引き金に指を掛けるとスモール級の頭部に風穴を開けた。
※
『こちらスカウト2。ビースト、神殿に侵入!』
「こちらレンジャー2。数は?」
『ミディアムが多数。・・・ッ、ミディアムの中に、ラージも混ざってる』
「了解」
防衛隊の隊長であるアーロンは隊員達にハンドジェスチャーで指示を出すとマシンガンの安全装置を外した。
数秒後、
四足歩行型ビースト“ミディアム”の群れをミディアムより巨大な四足歩行型ビースト“ラージ”が引き連れながら神殿の中を轟音を響かせ走って来た。
次の瞬間、
ラージの頭部のランチャーから放たれた対物弾頭が直撃した。
「撃て撃て撃て撃て!」
アーロンの号令を合図に防衛隊員達は物陰から姿を表すと一斉にマシンガンを撃ち始めた。
嵐の様に迫る銃弾の束を前に、次々と息絶えるミディアム。防衛隊員達は自分の2倍以上の大きさはあるビーストに怯む事無く、正確に銃弾を撃ち込んだ。
「お前の胃袋に直接ご馳走してやる!」
そう言いながらランチャーの引き金を引く隊員。放たれた弾頭はラージ級の体内に入り込むとラージ級の息の根を止め、ミディアム級を下敷きにする様に倒れ込んだ。
高地や物陰を利用して待ち伏せた事により数も大きさも倍以上あるマルールビーストをアーロン率いる防衛隊は一掃した。
銃口が白煙を噴き出す中、アーロンはゆっくりと座り込んだ。
「隊長の戦略通りですね」
「奴ら酷く驚いたに違いないな」
アーロンは咥えた煙草に火を付けて吸い始めると溜息と共に口から煙を吐いた。
「ビーストと言えど未熟って事だ。獲物を前にしてこそ、冷静かつ慎重に進むべきなんだよ」
そう言ったアーロンは煙草を指で挟んで口から離すと煙を吐いた。
アーロン率いる防衛隊が陣取ったのは石像が祀られている広間だった。地の利を生かし、マルールビーストの心理を突いた戦法は、成功した。
・・・かの様に思われたが、
『こちらスカウト2。第二波侵入!』
「第二波?」
咥えた居た煙草を指で挟んで口から離したアーロンはすぐさま偵察チームに問いた。が。
『気が付かれた。う、うわァァァッ』
「スカウト2!どうした?、応答しろ!」
ノイズと共に交信が途切れた事で全てを察したアーロンは隊員達に戦闘準備を命ずると煙草の火を揉み消し、携帯灰皿に入れるとすぐさまマシンガンを構えた。
「来たぞ。スモールか?」
「違う。あれは....」
アーロンは険しい表情を浮かべながらそう呟くと攻撃開始を命じた。相手は二足歩行の人型。だが防衛隊員が放つ銃弾を前に倒れる者とそうでない者が居た。
「グリードだ!」
「スモール級の中にグリード級が混ざってるぞ!」
「グリード級にはランチャーでも対抗不可能だ!」
「怯むな!間も無く強力な援軍が到着する!」
そう言ったアーロンは二足歩行型に向かって銃弾を放った。だが魔力を持たない一般兵ではスモールとグリードの見分けをつける事は出来ない。しかもグリード級以上のマルールビーストは魔力を持つ者でしか対抗が出来ない。
幾らアーロン率いる防衛隊員の練度が高くても、厳しい戦況だった。
「来るなっ!。クソッタレェェェェッ!」
「うわァァァァァッ!」
「死にたくねェェェ!」
「隊長ーー!。ァァァァァァァァッ!」
次々とグリード級に捕食されていく防衛隊員達。
アーロンがこれ以上の犠牲が出ない事を願う中、遂に“彼女達”がやって来た。
※
2
10人の女戦士が一斉に変身アイテムの“デルニエフォルト”を構えた。そして鞘を左手で持って左腰に構え、右腕で本体を前方に引き抜き、本体を左肩に当て、右腕を伸ばし本体を空に掲げた。すると彼女達はデルニエフォルトが放出した光を浴びると巫女の姿への変身した。
魔力出現させた日本刀を手に取った10名は崖から飛び降りるとマルールビーストに斬りかかった。
「来たのか?」
「遅くなりました。ディフェンスアルファチーム、現地に到着」
『ディフェンスアルファチーム、レンジャー2のアーロンだ。救援感謝する。新手のミディアムはこっちで引き受ける。二足歩行型のビーストを任せても良いか?』
「お任せ下さい」
『了解だ。これ以上の犠牲は避けたい。頼むぞ』
「マナミ隊長」
「グリード級を優先して叩く。これ以上の犠牲及び石像への接近を許すな。散ッ!」
ディフェンスアルファチームは隊長のマナミの号令で一気に散開した。
魔力を宿した日本刀で次々とマルールビーストを斬り裂く女戦士達。彼女達は防衛隊員が手も足も出なかったグリード級を最も容易く仕留めていった。
「スゲ〜」
「あれが、ディフェンスチーム最強の実力か」
「女戦士に遅れを取るな。巻き返すぞ!」
ディフェンスアルファチームの加勢で息を吹き返す防衛隊員達。
だが10名の戦士が加勢したからと言って劣勢に立たされる程、マルールビーストも甘い相手でも無ければ弱者でも無い。特にグリード級は捕食本能で行動するため動きが読み辛い。
「本当、グリード級だけはいつ見ても見た目最悪ね」
「うわっ、刀にまで粘液がへばり付くよ」
「気持ちは分かるけど今はグリード級を片付けないと不味いわ。融合されたら手に負えない」
アカネはヒミカとエナの方を向いてそう言うとグリード級の胴体を上下真っ二つに斬った。
『防衛ブロック右側で部下が喰われてる。対処頼む』
『チクショ、対物兵装が弾切れだ』
『次ラージや第三波が来たら、不味いな』
『レンジャー1よりレンジャー2へ。状況を知らせろ』
『ジョルジュか。ディフェンスアルファチームのお陰でギリギリ持ち堪えられてはいるが、スモール・ミディアム・グリードの数が多過ぎる』
『スモールとミディアムは可能な限り惹きつける。アーロン、護れよ』
『わかってる。そっちも頼むぞ』
「何処も手一杯の様ですね。チーム“ミコ”は大丈夫でしょうか?」
「ツバキ、今は此処を護ることに集中よ」
「ッ、はい!」
※
「ギャァァッッ!」
「させるか!」
防衛隊員を喰おうとするグリード級を刃で貫いたヒヨリは胴体を斬り裂きながら刃を引き抜くとグリード級の死骸を蹴り飛ばした。
「すまない。助かった」
「気にするな」
防衛隊員は落としたマシンガンを拾うとすぐさまスモール級2体を風穴だらけにした。
「5メートルタイプのグリード級接近!。2メートルタイプが集結しようとしてる!」
「融合する気か。集結を許すな!」
「マイちゃん!」
「ええ!」
サクラとマイが5メートルタイプのグリード級と距離を詰める中、アズミとトキミヤは彼女達の背中を護る様に戦った。すると5メートルタイプのグリード級が僅かに口角を上げたのを見たアカネは目を見開くと辺りを見渡した。
「(ッ!、フェイント⁉︎) 5メートルタイプは、囮です!。本命は右側の石像を狙う4メートルタイプです!」
「ふぇ⁉︎」
「ッ、敵ながら鮮やかですね」
「ツバキ!」
「了解!」
「エナ、ツバキ待て。今貴方達抜ければ中央が甘くなる。私が行く!」
マナミは全速力で走ると4メートルタイプとの距離を詰めた。そんなマナミを妨害する様に複数のスモール級が立ちはだかる。
「!」
刀を構えて正面突破の構えを取った。が、そんな必要を無くす様にスモール級の頭部を銃弾が貫いた。
「ッ!」
「雑魚に構うな!グリードを!」
「辱い」
マナミはそのまま走り抜けた。
そして再び刀を構えるとグリード級に斬りかかった。
だが時既に遅く、グリード級同士は融合、約15メートルもの巨大へと進化した。
「ア゛ッ!」
マナミの前に姿を現した15メートルのグリード級。そのグリード級はマナミに構う事なく石像を目指した。
『撃てェェェッ!』
『奴を近付けるな!』
15メートルタイプのグリード級にマシンガンを喰らわせる防衛隊員達。だがその弾幕虚しく防衛隊員達はグリード級によって踏み潰された。
15メートルタイプのグリード級はそのまま石像へと近付くと石像の肩を掴み、薙ぎ倒した。
マナミもすぐさま斬りかかるが、すぐさま巨大な爪先でマナミを蹴り飛ばした。壁に叩き付けられたマナミはそのまま気を失った。
「マナミさん!」
「辞めてェェェッッ!」
5メートルタイプのグリード級を仕留めたマイはそう叫びながら15メートルタイプのグリード級に向かった。その後を追う様にサクラも急行するが、そんな事をグリード級は許さなかった。
「ヒミカさん!此処は抑えるから行って!」
「ァッ、わかりました!」
「ヒヨリさん、此処は何とかなりそうだから隊長の介護に」
「わかった」
それぞれが向かうべき場所に急行する中、15メートルタイプのグリード級は薙ぎ倒した石像を踏み潰そうと足を挙げた。
(“破壊者の石像”、あれが壊されたら私達は!)
(ダメだ!間に合わない!)
(15メートルタイプのグリード級相手じゃ、通常銃弾は無力!。ダメなのか)
全員が絶対絶命を感じた、まさにその時、薙ぎ倒された石像が突如として薄い黄緑色の様な光に包まれた。
※
3
「ッ!」
「石像が、何、何が⁉︎」
突如として光り始めた石像を前に一同が驚く中、15メートルタイプのグリード級も足を下ろすと一歩後ろへ下がった。
すると石像の胸元にあったY字の様な物が若葉色に光り始めるとそこを中心に石像がひび割れ始め、ひび割れた箇所から若菜色の光を発し始めた。
「まさか!」
『目覚めるのか。“破壊者”が』
『伝承通りだ。やはりこれは、間違った終わりだったんだ』
石像がひび割れていくのを見た一同が“破壊者の目覚め”を確信する中、遂に石像は内側にある何かによって勢いよく砕け散ると15メートルタイプのグリード級を思いっきり吹き飛ばし、壁に叩き付けた。
石像があった場所を中心に土煙が立ち込める中、ソレは姿を現した。
「あれが....」
「・・・若い。私達とあまり変わらない?」
土煙が止むとそこにはマナミやエナとあまり歳の変わらない1人の青年がしゃがみ込んでいた。
「・・・」
青年は無言で顔を挙げるとゆっくりと右手を挙げたのち身体から魔力を放出したのち、手の平に魔力を集中させてると4つの剣らしき物を浮遊させた。
「・・・!」
青年は目を見開くとそのうちの一本を掴んだ。するとゆっくりと立ち上がる青年の右腕に小振りな盾と剣が一体となった“複合剣”が装着された。
「何だありゃ」
「見た事ない武器だな」
青年は無言で前に飛び出すと3メートルタイプのグリード級を上下真っ二つに斬り裂いた。
「!」
青年は後ろから迫る4メートルタイプのグリード級の攻撃を交わすと素早く後ろに回り込んだのちその際の身体の回転の勢いを利用して4メートルタイプのグリード級を上下真っ二つ斬り裂いた。
「すごい」
「4メートルのグリードを、一撃で」
青年は表情を鋭くすると自分に殴り掛かってくる5メートルタイプのグリード級の右腕を斬り飛ばした。そしてグリード級の左ストレートを交わすとその勢いで後ろに回り込み同じ様に上下真っ二つに斬り裂いた。
「ッ」
ミディアム級が放つ魔力で形成された弾丸、マジックショットを複合剣の盾で受け止めた青年は別方向から来るマジックショットも同じ様に盾で受け止めた。
「ッ!」
「あの破壊者、射撃武器を持ってないのか⁉︎」
『総員、破壊者を援護しろ!』
アーロンの号令のもと、生き残った防衛隊員達がミディアム級に向かって発砲した。
その隙を突くように青年は右腕に装着した複合剣を消滅させると今使っていたものより小振りな複合剣を右腕に装着し、3体のミディアム級を素早く制圧した。
※
4
その直後、
神殿に祀られていた別の石像が赤く輝き始めた。
「!」
「別のが目覚めるのか⁉︎」
赤く輝き始めた石像は胴体にあったV字の様な物が朱色に光り始めるとさっきと同じようにそこから石像がひび割れ始め、ひび割れた箇所からオレンジ色の光を発し始めた。
「ッ?」
青年は複合剣を消滅させるとひび割れていく石像の方を向いた。
次の瞬間、石像が勢いよく砕け散ると中から朱色に包まれた男が飛び出した。
「・・・」
男は無言で顔を挙げると身体から魔力を放出したのち、両腕に“アローアームド”を装着したのちゆっくりと右手を挙げその手の平に魔力を集中させてると4つの弓を浮遊させた。
「・・・!」
男は立ち上がったのち1つの弓を掴んだ。すると右腕に装着されたアローアームドから矢を出現させると4メートルタイプのグリード級の頭を射抜いた。
すると青年の覚醒で吹き飛んだ15メートルタイプのグリード級が体勢を立て直すと近いにいたマナミとヒヨリに咆哮を挙げながら襲い掛かった。
「不味い」
ヒヨリはすぐさま抜刀し、刀を構えた。が、相手は15メートルのある巨大。ヒヨリ1人でどうにか出来る問題ではなかった。
「・・・ッ!」
意識を取り戻したマナミもすぐさま立ち上がるが背中を襲う激痛を前に思い通りに動けなかった。
すると複合剣を装着した青年はすぐさま走り始めるがミディアム級のマジックショットにより足止めされてしまう。
「ッ」
舌打ちをしながら複合剣の盾でマジックショットを受け止めていると男が放った矢がミディアム級を貫いた。
「!」
「行け!」
青年は頷いて返すと只管に走った。
15メートルタイプのグリード級が繰り出すパンチがヒヨリに直撃しようとしたまさにその時、青年は複合剣を消滅させたのち大型なバスターソードを装着するとグリード級の手首を斬り落とした。
「今のうちに退くんだ」
「ッ、ありがとう」
青年はバスターソードを消滅させたのち“ノーマルソード”を装着すると勢いよく飛び上がり、15メートルタイプのグリード級の顔面を2回斬り裂いたのち複合剣の右外側のレールに単発式のランチャーを装着させると傷口が重なってる箇所に弾頭を撃ち込んだ。
「ッ!」
「凄い....」
15メートルタイプのグリード級は顔面を抑えながら他のマルールビーストを下敷きにする様に倒れ込むとそのまま絶命した。
「・・・」
複合剣を消滅させながらゆっくりと着地した青年はゆっくりと後ろを振り向くと逃げるマルールビーストの背中を見送った。
※
5
青年は弓を持った男に近付くと先程の礼を言った。
「当然の事をしたまでさ。俺はクラウス、君は?」
「カズキです。宜しくお願いします」
クラウスとカズキは握手を交わすと自分らに近付いてくる人混みに目を向けた。すると1人の男がヘルメットを外しながら2人に近付いた。
「私はアーロン。よくぞ来てくれた“破壊者”よ」
「破壊者?」
アーロンは神殿に祀られた石像を指指すと、
「“破壊者の石像”だ。あの中には【世界の間違った終わりを破壊する“破壊者”】が眠ると言い伝えがある。つまり、あの中から出て来た君達が破壊者と言う事だ」
カズキとクラウスは互いに顔を合わせると全く状況を飲み込めずに居た。
「破壊者....すまん、マジで何の事だ」
カズキが放った言葉を前に一同は凍り付いた様な表情を浮かべた。
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