第57話宣耀殿女御の荷立ち 壱
女三の宮を追い出した後に帝が訪れ、誤魔化してはみたものの上手くいかなかった。
父と兄から注意を受けた。
兄は、桐壺御息所が生んだ女三の宮を、
「女三の宮の機嫌をとれ!」
「お兄さま!あの下賤な女が産んだ娘の機嫌をとれですって!?冗談ではないわ!」
「こちらも冗談ではない!折角、
「誰も頼んでいないわ!だいたい私は最初から嫌だったのよ!」
「お前に御子ができないんだから仕方ないだろう!これも家のためだ!お前は黙って従っていればいいんだ!」
取り付く島もないまま、兄から叱責を受ける。
子供ができないんじゃない。ちゃんと懐妊した。ただ生きて誕生しなかっただけだ。
そう訴えても、「同じことだ」と、ばっさり切り捨てられる。
「泣くな!見苦しい!!」
と、兄から更に叱責されるが、涙は止まらない。
悔しい……悔しい……悔しい……。
どうして、この私がこんな目に遭わなきゃいけないの!?
「お父さま!なんとかして!」と父に泣きついたが、「自分が何をしたのか理解していないのか」と冷たく突き放されただけだった。
「お父さま!ひどいわ!どうして!?」
「酷い行動をしたのは誰だ?自分の胸に聞いてみるがいい」
父から、冷たい眼差しを向けられる。
「これ以上、失望させてくれるな。あまり目に余るようなら、内親王さまを左大臣家で養育することも考えなければならん」
「お父さま!?」
そもそも女三の宮を猶子に迎えるのは、帝の御渡りを増やすのが目的のはず。
帝が藤壺に頻繁に通う理由の一端は第二皇子の存在があげられる。
女三の宮は帝を釣る餌にすぎない。
それなのに、いつの間にか目的と手段が入れ替わっている。
「今日もいないですって?」
「はい、女御さま」
「あの子供は何処に行っているの!」
「それが……」
女房が言い難そうに口籠る。
「はっきりおっしゃい!」
「はい、先ほどまで庭先にいらっしゃったのですが……いつの間にかいなくなっておりまして……下仕えの者が探しているのですが、見つからないのです」
「またなの?」
「はい、またです」
問題の子供は、いつの間にかいなくなる。
いなくなるのは別に構わない。
ただ、帝の御渡りの時に限っていなくなるのだ。
(また、私がお叱りを受けてしまうではないの!)
帝の御渡りは、女三の宮に会うためのもの。
なのに、その肝心の子供の姿が見当たらなくなってしまっては困るのだ。
「一刻も早く見つけ出しなさい!」
「しかし……いなくなってから、もう半刻は経っております」
「それでも探しなさい!早く見つけないと、またお父さまに叱られるじゃない!!」
「は、はい!」
苛々する。
あの子供さえ大人しくしていれば、こんなことにはならなかったのだ。
父や兄から叱られることも、失望されることもなかった。
全てがあの子供のせいなのだ。苛立ちは日増しに増していた。
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