第32話皇子誕生~公卿の不安~
吉報に沸く内裏。
「
「ああ、良かった。流石に皇子一人では心もとないからな」
「まったくだ」
公卿たちの間でも
「これで、
帝が秘かに
「ああ、本当にめでたいことだ」
「
公卿たちは口々に言い合った。
帝の心痛を知る彼等は、その心中を慮る。
「して……一の宮さまはどうなさるのだ?」
「ん?どうとは?」
「一の宮さまは
「ああ、そういうことか」
「さて、右大臣さまが何を考えているのかは分からんが、どちらの皇子も右大臣さま側だ。どちらが皇位を継いでも同じであろう」
口に出さないが一の宮を皇位にと望む公卿は少ない。
幼いながらに聡明な一の宮は自身に咎はない。
ただ、一の宮は
白梅の変を嫌でも思い出してしまう。
帝は愛する妃の忘れ形見を皇位に就けたいと願っているのかもしれないが……。
「だが、どちらも右大臣さまにとっては姪が産んだ皇子に過ぎんよ。これで
多数の者が思考している中で、一人が不安をもらす。
公卿たちの間で、ざわざわと不穏な空気が流れる。
「それは、まあ……」
「
「こればかりは授かりものだ」
「確かに」
考えなかったわけではない。
しかし、
「女御さまは未だお若い。これから身籠るかもしれん」
可能性はある。
公卿たちは危惧した。
右大臣は野心家だ。
これで実娘の
何としても叶えたい悲願のはずだ。
それは帝も十分理解していた。
だが先のことなど誰にも分からない。
このまま
生まれてもいない皇子の話しをしても、詮無いこと。
公卿たちはその話題を打ち切った。
「まあ、何にしてもめでたいことだ」
「そうだな」
彼らは知らない。
誕生したばかりの皇子の筆頭後見人は、右大臣ではなく、その息子だということを。
右大臣の長男ではなく、次男の時次であることを。
帝も時次を筆頭後見人に据えることで右大臣の権力を押さえようとしていることを。
彼らが知るのはもう少し後のこと。
なにはともあれ、誕生したばかりの皇子は「めでたい」ことだと祝福された。
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