第31話皇子誕生

「お…ぎゃ~~~~~~ぁぁぁぁぁ!」


 屋敷中に赤子の産声が響き渡る。


「お生まれになりました!男御子おとこみこでございます!第二皇子さまのご誕生でございます!」


 女房の興奮した声。


「おおっ!」

男御子おとこみことな!?」

「姫宮ではなかったのか!」

「いや!めでたい!」

「良かった良かったっ……」


 産室の外で待機していた、家人たちは大いに喜んだ。

 皇子誕生。

 これこそが彼等にとって最大の吉報。

 屋敷中の雰囲気が華やいだ。



「皇子がお生まれになった! これで、この家は安泰だ!」


 右大臣は喜びのあまり、万歳楽まんざいらくを舞った。

 家人たちもそれにならって万歳楽を舞う。

 笛や太鼓も打ち鳴らされた。

 屋敷中が喜びに満ち溢れている。


 酒を飲みかわす者。

 舞を舞う者。

 楽器を演奏する者。

 歌を唄う者。

 それぞれが大いに浮かれて、今日という日を祝福した。


 尚侍が男御子おとこみこを産んだという吉報は瞬く間に都中を賑わした。

 それは内裏でも。



「そうか、男宮であったか」


 尚侍が無事に皇子を出産した、という知らせに帝は安堵した。


主上おかみ、二の宮さまのご誕生、誠におめでとうございます」


 頭弁とうのべんが皇子誕生に祝いの言葉を述べると、帝も「うむ」と頷いた。

 御簾みす越しでも分かる。帝は皇子の生誕を喜んでいた。


 現段階で、帝の御子は四人となった。


 女一の宮は、身体が弱く、ほとんどの時間を寝所で過ごされている。

 一の宮は、弘徽殿で養育されており、気楽に会うこともままならない。

 女三の宮は、内裏の外で養育されている。


 生まれたばかりの男宮は、是非とも帝の傍近くで育って貰いたいものだと頭弁とうのべんは願う。


(右大臣さまは男宮の誕生をそれは喜んでいると聞いた。養女とはいえ、生さぬ仲の義理の娘が産んだ皇子だというのに。そういえば、尚侍さまは女御の入内の如き絢爛さで出仕された。短期間でよくぞあそこまでと思ったものだ。きっと右大臣さまが尚侍さまのために調えたのだな)


 実娘が弘徽殿に居るため、表立っては尚侍を後見することはできないが、それでも、心を砕いている右大臣を、頭弁とうのべんは好ましく思った。

 野心家の右大臣が皇子を二人も手中に収めていることに警戒心はある。

 それでも後見人としては非常に頼もしい。

 一の宮さまのことも決して疎かにしていない。

 その誠意を頭弁とうのべんは信じたかった。

 有能だが人の良い頭弁とうのべんは、右大臣の冷酷さえをまだ知らなかった。



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