第13話時次の帰還 参

 二条邸に帰ってきた時次を出迎えたのは養母と蓮子れんし。ついでに父の右大臣。


「時次、よく戻った」

「はい、父上。ただいま戻りました」


 やはりと言うべきか。

 当たり前のようにいる父に、時次は内心呆れていた。

 この様子では本邸には全く帰っていないと見える。

 大方、自分が流罪同然で都落ちして大変だろうと、養母を言い含めたに違いない。

 それか無実の息子を切り捨てざる負えなかったと、嘆いて見せたか。

 どちらにしても養母の同情を誘ったのは間違いない。

 時次が不在の間、父はこれ幸いと言わんばかりに二条邸に入り浸っていたことだろう。

 目に見えすぎて、時次は笑いを堪えきれなかった。


「よくぞ無事で……」


 養母は涙ぐみながら、時次を出迎えた。

 養母の隣には蓮子れんしもいる。

 時次と目が合うと、蓮子れんしは笑顔を見せた。


「お帰りなさい、時次お義兄さま」

「ああ、今戻った」


 三年ぶりの再会だった。


 時次と蓮子れんし。二人は実の兄妹のように育ってきた仲だ。

 時次は、蓮子れんしの笑顔に懐かしさを感じた。


(この笑顔を見るのは久しぶりだな)


 幼い頃、共に遊んだ日々が蘇る。


「義兄さま、大宰府はどうでした?」

「面白いといころだ。都とは違った賑わいがある」

「随分と儲けたのでしょう?羽振りの良さは手紙からでも分かるわ」

「貿易の要だ。畿内では手に入らない物が沢山あった」

「あぁ。やっぱりね。私も行けば良かったわ」

蓮子れんしまで来てどうするんだ……。養母上を一人都に残すつもりか?」


 時次は、蓮子れんしの言葉に呆れて見せた。


「あら?お義父さまがいるじゃない」

「父上だけでは不安だ」

「酷い言いようね」

「事実だ」


 蓮子れんしはクスクスと笑う。


「さぁさぁ、長旅で疲れたでしょう?夕餉までゆっくりなさいな。今日は時次の好物ばかり作ったのよ」


 養母が時次を促す。

 蓮子れんしも「義兄さま」と時次の背中を押した。

 微笑ましい光景に、右大臣は目を細めて眺めていた。



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