第2話五節の舞姫 壱
今年の
通常、舞姫に選ばれるのは十歳前後。ここ数年は
もっとも、その女人は小柄で、他の舞姫たちと共に並んでも全く違和感を感じさせなかったが。
愛らしく初々しい。
緊張した面持ちの舞姫たちの中で唯一人、笑みを絶やさず余裕の表情で舞っていた。
「あちらの舞姫はどこの姫君だ?」
「さぁ……」
「将来が楽しみな姫だな」
「まことに」
口々に褒める人々。
舞姫の正体に気付いていない。
彼女を舞姫に推薦した人物も、これには驚きを隠せなかった。
明らかな嫌がらせである。
推薦したとしても、普通ならば断るとばかり思っていた。
まさか、受けるとは……。
舞姫たちの中に混じっても、決して見劣りすることのない容姿。
「まるで童女だな」
周囲に悟られないように、ニヤリと笑う。
「兄上の画策したケチな企みなど、子供の
批判の対象だった男。
都落ちした彼に付き従った者は極少数。
彼と親しかった者も今では文ひとつ送らない有り様。
男の妻子も同様だと聞く。縁を切った者ばかりだと。
世間の批判をかわすためだろうが、薄情なものだ。
周囲が波を引くように男から離れていった。
「ああ……そういえば一緒に育った義妹だったか」
どうも忘れがちになる。
彼が伯父夫婦の猶子に出されていた過去がある。
「思ったよりも仲が良かったのか?」
だから援助を続けている。
そう考えた方が自然だ。
だが、所詮は憶測にすぎない。
不敵な笑う少女。
理由を知る者からすれば、挑発と受け取れる笑み。
愛らしい姿だというのに負けず嫌いなのだろうか。
見かけによらず肝が据わっている。
こみ上げてくる笑いを必死の思いで噛み殺す。
ここで笑ってはならない。奇異な目で見られてしまう。
それよりも、と視線を自分の兄へと向けた。
自分の企みに絶対の自信を持っている男。
自分の思惑通り、事が運ぶと思っている兄。
だが……。
結果は兄の思い通りにはならなかった。
この事態を内心、面白く思っていないだろう。
案の定、面白くなさそうな顔で舞姫たちを見ている。
分かりやすい。
表情にださないように必死になっているが、不機嫌な態度は隠しきれていなかった。隣に座っている
「さて、どうなることやら」
優美に踊る舞姫。
今日の主役は間違いなく彼女だろう。
一際目立つ
更には
「
なのに……。
彼女はどうやら
「面白くなりそうだ」
左大臣の息子である
兄・大納言の狙いは失敗した。
これは
舞が終わる。
盛大な拍手が響く。
称賛の言葉と舞姫たちを労る言葉を口々に述べながら。
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