後宮の系譜

つくも茄子

第1話序章

 それは突然だった。

 燃え広がる内大臣邸。

 屋敷の主人である内大臣は死に、屋敷にいた女房や下仕えの者など、多くの人が命を落とした。

 狂気に堕ちた女人の手によってなされた悲劇。


 火事と殺りく。

 その情景は、さながら地獄絵図のようであったという。


 この悲劇的な事件は、多くの人々の人生をも狂わせた。


 犯行に及んだのは一人の女。

 彼女は、殺人・放火の犯人であり、時の権力者・白梅入道はくばいのにゅうどうの長女でもあった。

 なぜ彼女がそのような凶行に及んだのか、真実は分からない。

 ただひとつ言えることは、彼女の事件が発端となり“白梅派”と呼ばれる勢力が急速に力を失っていったということである。


 白梅派の横暴な行いに苦々しく思っていた貴族らの不満が一気に爆発した。


 おごれる者ひさしからず。


 ついには、

謀反むほんあり」

 との密告までが飛び交うようになった。



 証拠も続々と集まり、一族郎党が粛清しゅくせいされていく。

 白梅入道はくばいのにゅうどう自身は、謀反むほんとは関係がないと判断された。

 確たる証拠がなかっただけという見方もあるが、主体となっていたのは、入道にゅうどうの息子または義弟らであった。


 一族の多くが処刑され、白梅入道はくばいのにゅうどうの権勢は見事に打ち砕かれた。

 失意の中、白梅入道はくばいのにゅうどうは残された家族と共に流罪となり、都を離れた。


 これが世にいう“白梅はくばいへん”である。


 

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