2.「聞いたの結構前だし頭の片隅にでも置いておけばいいかとなってたから俺はワルクナイ」

 苦しい。くるしい。クルシイ。

 語れない。教えられない。何も、出来ない。

 いつまで私は姉弟が死に続けるのを見なくてはいけないの。

 いつになれば私は姉弟が死ぬのを止められるの。

 一体、いつまで――――。



「こんな馬鹿げた遊びに付き合うのですか。天」


<>


「よっ、と」


 転移し足が地面につき真霧は周囲を見渡した。本で描写されていた通りの今風の世界観。

 その隣でナズナが両手を開閉させてぱちくりと目を瞬かせ考え込む仕草をした。


「——なるほど」

「何してるんだ?」

「制限がかけられてます。今のわたくしはほんの少しだけ周りより優れている人間のようですわ」

「??」

「神である梅様が死んでしまう理由を理解しましたわ。この状態で致命傷を与えられればわたくしは死ぬ——これはかなり厳しい制限ですわね。主君がこれを言わなかったのは情報として手に入れられなかった? 箱庭に入れば自動的に発動するシステム、外側からではわかりようがなかったから知らなかったという事ですか……」

「何言ってるんだ?」


 理解しずらいナズナの独り言に真霧は首を傾げる。


「今のわたくしはどこにでもいる人間そのもの、という事ですわ。それだけ覚えていただければ」


 制限そのものに関してわたくし達には関係ありませんので。とナズナはニコリと微笑んだ。

 ふーん? と真霧は適当な返事をして先程のナズナの言葉を振り返る。——致命傷の傷は癒えずに死ぬ+今のナズナはほんの少しだけ優秀だが人間でしかない…………。


「え、じゃあ今のアンタ俺と同じって事か?」

「そう言いましたのだけれど……。なので慎重に、迅速に終わらせましょう。この世界に永遠に囚われたくないでしょう?」

「俺の世界ならいいけどよそのとこだとやだな……」

「ふふっ。では物語の舞台である学園に行きましょう。どうやら入学手続きは済んでいるようですし」


 ナズナは黒薔薇が見ていた液晶をポチポチと触りながら画面にかかれている文章を読みながら言った。

 神の端末。人間でいう所のスマホだったりネットだったりするもの――を見ながら真霧も端末を開く。


神座真霧しんざまきり/九月より姉の神座永理しんざえりと共に栄光学園に転校。栄光学園にギフトを見込まれ転校する事になった。家庭環境……』

『ギフト:人ならざる力を持つ人間の事』

『栄光学園:ギフト者を教育するギフト者専門の学園』


「設定がびっしり」

「このなら日常生活で困る事はなさそうですわね! 流石主君サポートが手厚いっ」

「流石なのかなぁ」


 用語情報とこの世界での自分達の設定に、真霧ははぁと感嘆の息を吐いた。俺のとこもこういう事してんだろうなぁと真霧は想ったりもした。

 目を隠してるとはいえオッドアイに今まで誰も突っ込まない、普通はない白色のメッシュも触れない、一人暮らしには広すぎる家に誰も言わないし、それを与えた家族に対し疑問を抱かない。そこまで考えて気持ち悪くなった。

 ——思い返せば全て俺に対して都合のいい設定になってる。ご都合展開じゃん……。

 真実の気持ち悪さで真霧は口元を押さえる。その仕草が丁度端末から目を離したナズナが目撃し、微かに首を傾げ心配そうな表情をした。


「ブバル――んんっ、真霧? どうされました?」

「えっっああうん、え~~~~~っと、この神座永理って何なんだろうって思って」


 主君黒薔薇love!! のこいつにこれ言ったらやばい。と真霧は視線を動かし、聞く予定だった名前を聞いた。

 

わたくしの個人名です」

「へぇ~アンタの個人名。ふーん…………ん!? アンタの!?」


 普通に「そっかー」と聞き流そうとしようとしたが、視線を端末とナズナに向け声を荒げた。

 ナズナは首を傾げ何故そんな焦っているのでしょう? と言ったような理解出来ないと言った疑問の表情をしていた。


「何か問題でもありました?」

「そんな簡単に名を明かしていいのか!!? 個人名って真名なんだろ?!」


 言霊で操られたり、支配系持ちに操られるって聞いたけど!? と真霧は黒薔薇に教えられた個体&個人としての名の話を思い出した。


『俺達旅神にはさ、個体名と個人名がある』

『なんだそれ』

『個体名は花の名。俺だと何番目かの黒薔薇個体。で個人名は自分自身の名、真名』

『それして何か意味があるのか?』

『うーん、個体名だと言霊とか支配系持ちに操られにくいけど個人名だと操られやすい。まぁ俺達は普段個体名の方を名乗ってるから個人名は趣味。お前で言うネットでの名前みたいな』

『うーーーーん?????? 例えがそれでいいのか…………?』

『あと個人名使う利点としては人ならざる者だと気づかれにくい。黒薔薇とかブバルディアとか名乗ってみろよ、こいつ頭可笑しいんじゃないか? って目で見られるよ。ははは』

『それやだなぁ! というか笑うな笑うな。笑いごとじゃない。死んでる目が更に死んでる目になってる』


 そこまで思い返して真霧の顔から表情は抜け落ちた。知ってる事を聞くなんて馬鹿な行為に恥ずかしくなった、がそれ以上に思い返しの時の黒薔薇の暗い瞳が更に暗くなって乾いた笑いをしていた事の方に、感情が持っていかれた。

 真霧は顔半分を手で隠し訂正をした。


「ごめん、なんでもない……ここだと個人名の方がよかったな、変な事聞いた」

「? 問題がないのであれば物語の舞台へ行きましょう」

「うん……」


 ——実質初めての外出なんだよ! しかも神との外出! 変な事口走っても仕方ないよなぁ!!!? と真霧は誰に聞かせる訳でもない意味のない言い訳を必死に心の中で叫んだ。

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