3.接触

「うわでっか」

「全国のギフト者が集まる学園ですから大きいのは当たり前でしょう?」

「全国かぁ。それにしてもでかいし、綺麗。滅茶苦茶金かけてそう」

「疑問点はそこなのですか?」


 真霧は学園を見て感想を呟いた。大きいとは思ったけどそれ以上にでかく、新築のように綺麗で驚いた。

 唖然とする真霧をよそにナズナは真霧の着眼点に首を傾げる。言葉は出さずこくりと頷いた真霧にナズナは「そういうものなのですね」と不思議そうに視線を逸らした。


「さ、真霧! お姉様と一緒に行きますわよ!」


 そして真霧の手をとりナズナ視点の姉らしい仕草をして学園の中に入った。

 ——幼馴染みたいな感じだなぁ。とナズナの仕草にそう思ったが心の中で留めた。真霧自身姉という存在はいない&知らないので、口の出しようがなかったのもあった。

 周囲に人はいない。時間を確認するに今は授業中というのが分かった。


「職員室がこの先ですわね」

「中広いなぁ、綺麗だなぁ。金結構使ってそう」


 学園内のマップを見てナズナは感心の言葉を漏らす真霧を引っ張る。

 引っ張られながら真霧はスマホを見る。端末からスマホへと入れた情報を確認し自然に対応できるように予習をする。

 現代味がない世界ならまだしも、現代味溢れた世界では予習しておかないと怪しがられる。というナズナの助言の元むんむんと考える。

 記憶喪失と偽る事は今回は出来ないので真霧は冷静に、それでいて自然に、正体を現さずに……。出来るかなぁ。と不安を覚えた。

 そうこう悩んでいる内に職員室に到着。


「失礼しますわ」

「ん? 君達は……」

神座永理しんざえりですわ。こちらは弟の神座真霧。今日からこの栄光学園の生徒です」

「ああ! 君達か! 全然来ないから連絡しようか悩んでいた所だったよ」

「すみません、わたくし達この街に来たばかりで、道が分からずこんな時間に……」


 教員の一人に対しナズナは人らしい仕草、声、表情で対応する。両手を包み込み申し訳なさそうに眉を下げ、それでいて少し笑みを浮かべるナズナに真霧は感心した。

 ——うわ~~~~凄いな。こんなすらすら言葉出てくるんだ。旅神って凄いな、普段こういう風に人間に接してるのか……。


「? 君ぃ、神座真霧くん? だったかな。どうしたんだ? そんな驚いた顔をして」

「うぇっ!? え、あ、え~とその、姉さんが凄い自然に嘘つくから驚いて。さっきまで姉さん「遅刻確定ですし、少し街中を見ましょうっ!」って言って色々見てて」

「っ、ま、真霧! そういう事は言わなくていいのですよ!?」

「ハハハ! 仲がいいんだねえ。いいよいいよ、どうせ嫌になる程見る街になるから最初ぐらいはそういう気持ちでいいんだよ。だけど遅刻したからもういいか精神は駄目だよ! せめて連絡しなさい」


 真霧の咄嗟の言い訳にナズナが焦り、恥ずかしさで顔を赤くしながら真霧に怒った。そんな二人の掛け合いを見て教員は不審がる事なく手を叩き笑った。

 笑う教員の態度になんとかなった、とホッとした真霧にナズナの声が聞こえた。


(言い訳としては70点としましょう)

(っ!!!??? テレパシー!? うわ~~~プライバシー侵害だ~)

(流石に心の中まで読むなんて事はしませんわ! 会話だけです!!)


 突然のテレパシーに動揺して声が出そうになったが抑えに抑えたが、体が少し固まってしまった――運よくこの場にいる教員にその異変は気づかれなかった。

 テレパシーでナズナが「これから終わりまで生活するのですから、なるべく早く慣れてくださいね? 貴方様は人間ですから慣れるまで大変でしょうが……」と心配気味の声が聞こえた。先程のナズナの対応といい真霧は「これが初心者と熟練者の経験の差かぁ」と思った。

 

 そうして軽い説明が始まり、最後に学園内説明書を手渡された。

 中々の厚みの説明書を受け取り、持ってきていた鞄の中に入れた。ナズナから「入れて♡」と媚びを売るような声で渡されたので適当に相槌を打ちつつナズナ用も入れた。

 

「うーんこの時間だから、生徒への紹介は今日にするか明日にするか……君達はどちらがいいかな?」

わたくしはどちらでも……真霧はどう?」

「俺は、明日がいいな。ああでも中は見て回りたいな。雰囲気とか、何処に何があるのか知りたい」

「ふうむそうか。ならこれを付けなさい」


 真霧の言葉に教員は引き出しを開き、首にかける系のカードケースを二つ手渡した。カードケースには一枚の紙が入っており「関係者」と書かれていた。


「これは?」

「それがあれば不法侵入者と捕まる事はないから、どこからでも見えるように首にかけておきなさい」

「ありがとうございます」


 カードケースを首からかけ、二人は職員室から出た。

 ほっと息を吐く真霧に休ませまいとナズナが声をかけた。

 

「さて、どこから回ります?」

「……適当でいい?」

「ええ」


(初めての対応で疲れたから少し休みたいんだが?)

(駄目ですわ。せめて人のない密室空間でしてください)

(そんな徹底する?)

(ええ。警戒されないようにはそうするしかありませんから)

(……なんかもう帰りたくなってきた)

(終わらなければいつまでも帰れませんわよ)

(え~~~~~~~~~~~)


 テレパシーで会話し、時折表で他愛もない姉弟らしき会話をする。表と裏がいつか絡まってやらかしそうだなぁ。と真霧は思い慎重に言葉を返していく。

 今の時間は教員に伝えられた通り授業中。今日はギフトを使う授業はないからつまらないかもね! と笑っていた教員だったが、真霧からしたらいきなりそんな慣れてない事が起きてなくてよかったと心底安心した。

 事前情報でのギフトを使う授業は大まかに三つに分かれる。

 一つは予習。ギフトの使い方~慣れるまでの授業。最初の数ヵ月はこの授業が多い。

 二つ目は模擬戦。クラスメイトと組んでギフトを使った戦闘をしたり、不利な状況でどう突破するのかなどの戦闘授業。

 三つ目は実戦。この世界に侵略してくる化物——アナザー・ディメンション別次元との戦闘。——侵略時期、間隔は不明なので実戦の確率は低め。



「——真霧、アレを」

「ん、なに?」


 アナザーの姿って実際に見たらやばそ~と思っていた真霧の肩が揺れた。肩を揺らしているナズナが指を指し何かを見るように言った。

 視線を指した方向に動かすと窓の外に青い髪の生徒がいた。遠くから見て性別は分からなかったが、その生徒が木にもたれかかっていた。


(誰?)

(——ガーベラですわ)

(はぁ? ガーベラって、アレが? 普通の生徒じゃないのか? それにガーベラって青色の花ないじゃん)


 そう真霧が調べたガーベラには青空のような青色の花は知らない。

 黒薔薇のブラックバッカラのような赤黒、ナズナの白。その理屈で行けばガーベラだってオレンジや赤色の花ではないのか? と真霧は思った。


(ガーベラと梅は青——正確には青緑ですわね。その花だからこの色という考えは捨てなさい。わたくし達は人ならざる存在。姿や色を変えるなんて造作もない事ですわ)

(イメチェンし放題って事か……)

(何故そんな感想が出るのですか!? 貴方本当に主君とその片割れの子なのですか!!!?)

(構想の元なだけだろ。俺は俺、未希真霧だ。そう言われても知らん)


 テレパシーで会話を続けに続け、ナズナは顔をくしゃりと歪ませ真霧を睨んだ。それを無視し、真霧はガーベラの姿をじっと見つめる。

 右側だけが長いアシンメトリー。髪を一つ括りにしていて、青緑色の瞳はどこか遠くを見ていた。その目はよく見た壊れかけの暗い瞳。

 黒薔薇もそうだが、あの暗い瞳は精神的に参ってる証拠。真霧は動き出した。


「真霧、何処に?」

「ちょっと姉さんは待ってて」


(何をなさるおつもりで?)

(いいから)


 ナズナの言葉をよそに真霧はガーベラがいる場所に向かった。

 近くに人がいるのにガーベラは気づかず相変わらず何処かを見ている。

 慎重に、冷静に、警戒されないように真霧は声をかけた。


「——なあ、アンタ。こんな所でどうしたんだ? 今授業中だろ?」

「——? だれ……?」


 疲れ果て果てた声に視線を少し動かした様子に目の前の存在が壊れかけなんだろうと真霧は分かってしまった。そしてガーベラが女性である事が分かった。


「だれ? 貴方みたいな生徒、ここにはいないはず……どこかから連れてこられたのでしょうか……可哀想に、あぁでも、忘れられるんだ、いいなぁ……」


 ——いや、本気でやばくないかこいつ。物語とか連れてこられたとか忘れられるとか、俺がこちら側旅神じゃなかったら確実に不味いだろ。


「やだ、なぁ、いつまで、いつまでつづく、の、いつまで、わたしは――――――」

「え?」

「————のでしょう……」


 ノイズ。ガーベラが何を言ったのか真霧は全く聞き取れなかった。


『巻き戻り前に生き残ったとしても未来の情報は語れない』=『ノイズとして処理される』


 黒薔薇の語った情報。未来の言葉は語れない。語った場合に処理される現象に真霧は唇を引きつらせた。

 知っていて教えれない、語れない。その意味を実感してしまった。言えないではなく、言ったとしても相手に伝わらない。そういう仕組みだった。

 忘れられる。どこかから連れてこられた。ここにはいないはず。それら全て未来には関係しないのだろう。だから聞こえたし理解出来た。

 ——うっ……わ………………。マジで、クソじゃん、創造主ってやつ……。そう思わざる得ない光景。真霧は何と声をかければいいか分からなくなり、呆然と立ち尽くすだけとなった。


「——いつまで、いるのです。私は見世物ではありません。用がなければどこかへ行ってくれません? ここは私が見つけた休憩スペースなので」

「え、あ、ああ悪い、その、大丈夫なのか?」


 突然はっきりとした口調、声色で彼女はそう言った。

 鋭い眼差しで真霧を睨み、真霧は動揺した。


「何の話です? 私は何ともありませんが? ——用はないみたいですね。ここに居座られるとうざったいので私はこの辺りで失礼します。さようなら」

「えっ」


 食い気味にガーベラは淡々と話しその場から去って行った。引き留めようにも「さ、よ、う、な、ら」と圧を押さえ止める事が出来なかった。


「……うーん」


 一度ナズナの所に戻ろう。と真霧はその場を後にした。

 

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神であった花達に永久なる夢の楽園を 蒼本栗谷 @aomoto_kuriya

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