ファイル.02 神隠しの村に巣食う大蛇と二人の姉妹(1)
高円寺の賑やかな商店街のいっかくにある九十九探偵事務所。
ここは完全予約制で、所長の九十九卯魅花の気に入った案件しか受けないため、賑やかな商店街とは裏腹に、訪れる人は少なかった。
事務所で働いている助手の鷹野サキは、テレビでワイドショーを観ながら電話を待っていた。
「はぁ……。なかなか仕事が来ませんねえ」
ちりりりりりりん。
突然、事務室にあるアンティークの黒電話が鳴り出した。
「お、久しぶりの仕事ですかねえ」
退屈していたサキが、ワクワクしながら電話をとった。
「はい、こちら、九十九探偵事務所です」
「もしもし、あ、サキちゃん、久しぶりー。伊藤まりえでーす」
「あ、まりえさーん。お久しぶりですー」
「サキちゃん、九十九先生、いるかな?」
「はいはい、今代わりますねー。先生、まりえさんから電話ですよー」
「お、懐かしい人物から電話だね、今代わるよ」
事務室の奥の部屋から、昼寝から起きたばかりでまだ眠そうな顔をした九十九がやってきた。
(ふふ、寝起きの先生もかわいいですねー)
サキがニヤニヤしながら受話器を九十九に手渡した。
「もしもし、九十九です」
「あ、うみちゃん、久しぶりー。まりえでーす」
「まりえは元気そうでなによりだよ。それで、今回はどんな用事なの?」
「実は、うみちゃんに仕事を頼みたくてね」
「ふふ、私にわざわざ依頼するってことは、怪異絡みだね?」
「もちろんそうだよ。実はね……」
九十九の友人で怪異絡みのネタを追っているフリーライターの伊藤まりえから、取材を手伝ってほしいと依頼が入った。
伊藤まりえは、九十九たちの協力者でもである。
とある怪異が引き起こした事件に巻き込まれたまりえを、偶然九十九が助け出したのが最初の出会いだった。
お互いに怪異関係の仕事をしていた九十九とまりえは意気投合し、それから二人は定期的に、お互いの仕事の手助けをしていたのだ。
次の日、まりえは九十九の事務所を訪れた。
伊藤まりえは九十九と同い年の三十歳。
背が高くスラっとした体型の素敵なお姉さんで、艶のある黒髪でミディアムボブの髪型をしている。
まりえは、普段は別の仕事をしながら、怪異や超常現象専門のライターとして、月刊ヌーという怪異の専門雑誌に記事を連載していた。
「久しぶりだね、サキちゃん」
「あ、まりえさん。お久しぶりですねえ」
「まりえ、あなたから仕事を依頼してくるなんて珍しいじゃない」
事務所の奥から眠そうな顔をした九十九が出てきて、挨拶代わりに手を軽く上げた。
「あ、うみちゃん。お久しぶりー。今度、私、I県の山奥にある村の取材に行く予定なんだけどさ。まあ、私、フリーのライターだから、女一人だけでは取材に限界があるのよ。それで、いつも同行を頼んでる霊媒師の人がいるんだけど、彼女、急に体調が悪くなっちゃったみたいでさ。それで、うみちゃんに取材に同行してもらいたいんだよね。I県なら同じ関東だし、東京からもそこまで離れてないから、いいでしょ?」
「I県かあ。山奥の方だと、それなりに時間がかかりそうねえ。まあいいわ。とりあえず、今回はどんな内容を追ってるのか、教えてくれる?」
椅子に座った九十九が足を組みながらまりえに話しかけた。
「実はね、信じられないと思うんだけど、今も神隠しが起きている村があってね。そこに取材に行こうと思ってるのよ」
「へえ、この令和の時代に神隠しとはねえ。実に興味深いわ」
「でしょう? 都市伝説を追ってる私としては、絶対に記事にしたいのよ。だから、協力してくれると嬉しいわ。もちろん、報酬はちゃんと払うよ」
『間違い無く怪異が関係しているな。これは面白そうだぜ、うみか。上物の怪異が食えそうだ』
『お前は食べることばかりだな、ゼロ。だが、確かに上位の怪異が関係してそうだね。実に興味深いよ』
「よし、引き受けるよ。一応契約書にサインしてくれるかな? 親しき中にもなんとやらって言うだろう? サキ君、準備してくれるかな?」
「はいはーい、ただいま印刷して渡しますねー」
まりえによると、現在も神隠しが起きている村があるという。
九十九は助手のサキを連れてまりえの取材に同行することにした。
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