ファイル.01 鏡に映る迷子の少女と帰れない駅(15)

『自分自身の身体を依代にして、神を憑依させる。そうして自分を付喪神にするのが、お前の奥の手だったな。相変わらず、とんでもない強さだぜ』


『でも、その間は私自身の記憶が飛ぶし、私の限界以上に身体を使われるから、全身が痛くなってしまってね。正直、あまりやりたくはないんだ』


『なるほど、だから奥の手なんだな。さあて、食事の時間だ。消耗させられた分、たっぷりと味合わせてもらうぞ』


 九十九の身体からゼロの本体が浮き出てきて、怪異を貪り食うように食べ始めた。


『ずっと疑問に思っていたんだが、怪異を食べることで力を回復できるのは君固有の能力なのか?』


『さあな。だが、こうやって同族を喰ってるのは俺ぐらいだろう。ほとんどの怪異は人間を喰らうからな。お、だいぶ力が戻ってきた。思ったより上物だったな。でも、まだまだ足りない。俺とお前が分離出来るまで回復するには、もっとたくさん怪異を食う必要がありそうだ』

 

『ああ、だから私は怪異専門の探偵をやってるんだ。君が力を取り戻して、元の大口真神に戻れるようにね』


 大口真神は狼の神である。

 かつて、ヤマトタケルの東征の際に、彼を助けたことで、大口真神の名をもらったという。

 しかし、時代が下るに連れて、この狼への信仰は薄れて、次第に彼は忘れ去られていった。

 そして、狼の怪異となって、九十九と出会ったのだ。


 ◇◇◇


 九十九たちは駅ビルの出入口から外に出ようとしたが、黒い闇に覆われていて、外に出ることが出来なかった。


「こいつは想定外だった。やつを倒しても、やつの能力が解除されないとは」


 九十九が珍しく、焦りの表情を浮かべながら話した。

 

「そんな、私たち、ここから一生出れないってことですか?」


「いや、私たちは外の世界からここにきたんだ。必ず外と繋がっている出入口があるはずだ」


「先生、駅の見取図を見せてください。私のダウジングで出口を探してみます」


 だが、サキのダウジングペンデュラムは、駅のどの場所でも反応を示さなかった。


「そんな……。この駅の中には出入口が無いってことですか?」


「あの怪異が時間をループさせるためにこの駅を私たちの世界から切り離したのだとしたら、元の世界では、この駅は最初から存在しなかったことになっているのかもしれないね。でも、諦めるのはまだ早いよサキ君。私たちはどうやってここに来たのか、よく思い出してごらん?」


 少し落ち着きを取り戻した九十九がサキに質問した。


「どうやってって……。あっ!」


 サキは何かに気づいたように声をあげた。


「電車です。私たちは電車に乗ってここまで来ました」


「そう、私たちは電車でここまで来たんだ。ということは、線路を辿っていけば、元の世界に戻れるはずだ」


「確かに」


「一か八かだ。もう他に選択肢もない。この線路を歩いて脱出しよう」


 三人は線路の上を歩いていった。

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