ファイル.01 鏡に映る迷子の少女と帰れない駅(14)

 怪異は、九十九たちに何故この空間をループさせているのかを語り始めた。


 車掌だった私は、恋をしていた。

 毎日、電車に乗ってくる、制服姿の少女に。


 彼女が電車に乗ってくる時間が、私にとっての幸せだった。

 彼女をみているだけで、幸せだった。


 だが、ある時彼女はホームから線路に転落して、帰らぬ人となった。

 とある男にホームから突き落とされたからだ。


 私は、悲しかった。

 彼女のいない世界など、考えられなかった。

 

 だから、彼女の魂が消滅する前に、駅と、その場にいた人間を、私の作った空間に全て取り込んだ。


 そして、ささぎ駅は、この私の支配下となった。


 私は、彼女を突き落とした男が憎かった。

 だから、時間を巻き戻すたびに、この男に復讐した。

 毎回、私の支配下にある人間に、こいつを線路に突き落とさせて、電車に引かせたのだ。

 

 私は、この空間の時間をループさせることで、永遠に彼女と一緒にいることを望んだ。


 そして、新たに駅に入り込んだ人間たちも、永遠に私の作り出した時間のループから抜け出せなくなった。

 

「私はね、彼女を見ているだけで幸せなんだよ。だから、時間をループさせた。これからもずっと彼女を見守るためにね。そして、お前たちもここからは出られない。永遠にな……」


「……彼女をここに閉じ込めて、それで本当に彼女が幸せになれると思うのか?」


「何がいいたい?」


「お前は自分自身を満足させているだけだ。そして、それが彼女を苦しめていることに、なぜ気づかない?」


「だまれ! お前に私の何がわかる?」


「わかるさ。私の身体も半分、お前と同じ怪異なんだから!」


 九十九は自分の服の袖をめくり、ゼロと混じり合っている自分の腕を怪異に見せながら叫んだ。


(ここで時間を巻き戻されては困るからな。ここは少し頭に血を上らせて、私を攻撃するように仕向けるのが得策だね)


「やはりお前、ただの人間ではなかったか。だが、ここは私の世界だ。この意味がわかるよな? ここでは私が絶対的な支配者なんだよ!」


(ゼロはもう限界だ。もう一度時間をループされてしまったら次は記憶を思い出せないかもしれない……)


『だからこそ、奥の手を使わせてもらう』

 

「お前だけを新しい時間のループに閉じ込めてやる。永遠の時の中で私に逆らったことを悔やむんだな!」


『この国におわします八百万の神々よ、我が身体に宿り、我に力を与えたまえ』


 九十九は、自分自身に魂を憑依させて、自らが付喪神となった。


「急に雰囲気が変わった……? お前、今何をした!!!」


 神と一体化した九十九は、車掌の怪異が認識できない速さで動き、怪異の首をもぎ取った。


「あっ……」


 それが怪異の最後の言葉になった。

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