ファイル.01 鏡に映る迷子の少女と帰れない駅(7)
次の瞬間、九十九とサキは電車の中にいた。
電車内には乗客は十人ほどいたが、全員静かに座っていた。
「よかった。空いてますよ、先生。とりあえずあそこの席に座りましょう」
「ああ」
九十九とサキはボックス席に腰掛けた。
「サキ君、なんで私の横に座ったの? せっかくのボックス席なんだから、対面で座った方がいいんじゃない?」
「私、先生の横に座った方が落ち着くんです。ダメですか?」
「いや、まあ、別にいいけど……」
「正直にいうと、私、怪異の電車だから、もっと怖いのかと思ってました。けど、意外に普通で安心しました」
「確かにね。でも、安心しても、気は抜かないようにね」
「はーい」
サキは横にいる九十九を見つめながら、小さく手を上げた。
「ん?」
「先生、どうしました?」
「いや、なんでもないよ」
九十九はかすかに違和感を感じた。
しばらくすると、車掌がゆっくりと、車内を確認しながら歩いてきた。
その時、車内にアナウンスが流れた。
「お客様にご連絡します。次の停車駅はささぎ。ささぎとなります」
「ささぎ? ささぎ駅なんて、私、聞いたことないです。先生は知ってますか?」
「いや、私もそんな駅は知らないよ。でも、きさらぎ駅ではないけど、そのささぎ駅で間違いなさそうだよ。そんな予感がするんだ」
「それなら、間違いないですね。先生の予感はよく当たりますから」
「ふふ。それじゃ、とりあえず、この駅で降りてみようか」
「はい」
二人は、ささぎ駅で電車から降りた。
(なんだろう……、私は以前にもここに来たような気がする……。これって、デジャヴってやつ?)
九十九たちが駅から外へ出た瞬間に、九十九とサキが電車へ乗った時点まで、時間が巻き戻ってしまっていた。
サキには、それまでの記憶が無く、時間が巻き戻ったことが認識できなかった。
しかし、九十九はなんとなくではあるが、電車に乗ってから少しずつ違和感を感じていた。
そして、九十九の中にいる、ゼロと呼ばれる怪異は、時間が巻き戻ったことを正しく認識することが出来た。
『うみか、お前も気づいたようだな。さすが俺のパートナーだ。この駅は思ったよりヤバいぞ。さっき、俺たちがこの駅を出た瞬間に時間が巻き戻ったんだ。おそらく、この駅全体の時間がループしているのかもな』
『なんとなくおかしいと感じたんだが、そういうことか。ありがとう、ゼロ。君のおかげで原因がわかったよ』
ゼロは九十九の中にいる怪異である。
彼はかつて、ある事件に九十九が巻き込まれた時に彼女が助けた怪異だ。
その際に、お互いが死にかけていたため、仕方なくゼロと九十九は融合している。
そのため、九十九の体内には、ゼロの意識が存在している。
ゼロはこのことで九十九に恩義を感じているため、九十九の怪異探偵としての活動に協力していた。
『一つハッキリしたのは、ここにはかなり強力な怪異がいるってことだ。この空間の時間を操ってループさせている程の力を持った怪異だ。うみか、お前の仕事とはいえ、こいつは厄介だな。そうそう、お前、怪異のことになると、周りが見えなくなるから、気をつけろよ』
『わかってるよゼロ。これから、この現象を引き起こしている元凶の怪異を探し出す。協力してくれるね?』
『もちろん。だが、どうやら俺たちの周りにいる乗客たちは、すでに人外化しているようだ。この駅の中は、すでに怪異だらけのようだな。これでは、この駅のどこかにいる元凶様を臭いだけで判断するのは難しいな』
『それは困ったね。とりあえず、まずは百華さんを見つけないと……』
『ああ、その子なら、駅ビルの方にいたぜ』
『なるほど、私たちはループする前に一度彼女に会っているんだな。であれば、怪異の探索を優先しよう。百華さんはサキに任せて、私たちは怪異を探しにいこうか』
『サキに任せて大丈夫なのか?』
『彼女がただの助手じゃないのは知ってるだろう? それに、私の能力を使って付喪神に二人を守らせるよ』
『なるほど、お前の能力で付喪神を作り出して二人を守るのか。サキ一人よりは安心か』
九十九は、ゼロと協力して、元凶となっている怪異を探し出すことにした。
「サキ君、ここに百華さんはいないみたいだ。駅ビルの方を探してみよう」
「はーい」
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