ファイル.01 鏡に映る迷子の少女と帰れない駅(8)

 駅ビルの中に多くの人がいた。


 しかし、その中の誰もが、二人を認識していないかのように、二人が存在しないかのように振る舞っていた。


「ちょっと、この人たち、私たちのこと、見えてないの?」


「どうやら、私たちは彼らに認識されていないみたいだね」


「なんか無視されてる感じがして、正直ムカつきますー」


「まあまあ。私たちは、百華さんを探すことに集中しよう」


『うみか、気づいているか? やはり、駅ビルの中の人間は、怪異に取り込まれたヤツらばかりだ』


『見ればわかるよ。誰も私に目を合わせようとしないからね』


『やっぱり怪異が多すぎて、どいつがこの怪異の元凶か、臭いで見分けるのは難しいな。根気よく、一人づつ当たっていくしかない。場合によっては何度か時間をループすることになるかもな』


「九十九さんですね? 私、二宮百華です」


 突然後ろから声をかけられ、二人が振り返ると、そこに、学生服を着たミディアムボブの髪型の若い女性が立っていた。

 

「あなたが二宮百華さん、ですね? 私は九十九卯魅花。怪異専門の探偵をしています。こちらは助手の鷹野サキです。妹さんからの依頼で、あなたを救出にきました」


「私が鷹野サキです。よろしくです」


「妹からお話は聞いています。助けにきてくださったのですね。本当にありがとうございます」


「ええ。ここは危険です。早くこの駅から外へ出ましょう。……といいたいところですが、何か問題があるのですね?」


「はい。私は何度もこの駅から外に出ようとしたんです。でも、どうしても外に出ることが出来なくて……」


「そういうことだったんですね。わかりました。おそらく外に出られない何らかの原因が何かあるはずです。まずはそれが何か調べてみようと思います」


 九十九は、そこまで話すと、何かを決意したように表情を変えて、話を続けた。


「ですが、原因が怪異の場合、最悪、あなたにも危険が及んでしまうかもしれません。そこで、あなたには助手のサキとホームで待っていてもらいたいのです」


「ええー、先生本気ですか? 私、置いてきぼりですか?」


 サキが不満そうな顔で九十九を見つめる。


「百華さんの安全を第一に考えないとね。だから、用心するに越したことはないだろう?」


「でも、先生に何かあったら、私……」


「大丈夫だ。私は必ず君のもとに帰るよ。いつもそうだっただろう? 今回、百華さんのことは君に任せたよ。念のため、付喪神を作っておくからね」


 サキの手を握りしめながら、九十九が答えた。


「わかりました。百華さんのことは私が責任を持って守りますので、先生は怪異の対処に集中してくださいね」


『相変わらず、サキには優しいねえ。おじさん、嫉妬しちゃうかもよ?』


『いつも一緒にいるのに、ふざけたこと言わないでくれるかな?』


『はは、冗談だよ。俺もサキのことは気に入ってるからな。何かあったら困るし、置いてきて正解だよ』


『さて、ちょうど駅ビルの中にいるし、とりあえずここから調査していこうか』


『なあ、うみか。その前に確認したい場所があるんだ』


『うん?』


『最初にここへ来た時、俺たちはこの駅ビルの従業員用の出入口から外に出たんだ。それ以外の出入口は闇に包まれていて外に出られなかったからな。そして、俺たちがその出入口から外に出た瞬間、時間が巻き戻って電車の中に戻っていたんだ』


『そこをもう一度調べようというわけね?』


『ああ、何故かあそこだけ出られるようになっていたからな。何かあるのかもしれないと思ってね』

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