ファイル.01 鏡に映る迷子の少女と帰れない駅(5)

「先生、思ったより大きい駅ですねー」


「都市伝説では、きさらぎ駅は無人の小さな駅らしいが……やはりここはきさらぎ駅とは少し違うようだね」


「うーん、これだけ広いと、百華さんを探すのが大変そうですー」


「そうだねえ。ま、その分、調査のしがいがあるってもんさ」


(あとは、ここからどうやって脱出するか……、だけど)


 九十九は胸ポケットから手帳を取り出すと、駅構内の簡単な見取図を描き出した。


「あ、先生、今回は珍しく地図を描くんですねー」


「うん、ここは思ったよりずっと広そうだから、迷子にならないようにと思ってね。サキ君、君も何か気づいたことがあったらすぐに私に教えてくれ」


「はーい先生。わかりましたー」


 ささぎ駅は、地方都市にある駅と同じぐらいの大きさがあるようで、駅ビルの中に存在しているようだった。


 十三番ホームとは違い、ホームにも乗客がいた。

 駅ビルの中にも人がいるのが見える。


「へー、意外と人がいるんですねー」


「これでは依頼人を探すのに時間がかかりそうだ。サキ君、少しだけ急ごうか……」


 ふいに、線路に目をやった九十九は、少し沈黙した後、サキに声をかけた。


「……サキ君、線路は見るな。決して見るなよ」


「わかりました先生……見てはいけないものがあるのですね?」


「ああ……」


 線路には、電車に轢かれてバラバラになった男性の死体があった。


(普通に見えてもここはやはり、怪異の駅だ。そうこなくっちゃね……)


 九十九は心の中から湧き出る興奮を抑えきれずに、くすくすと笑った。


「どうやらホームにはいなそうだよ。サキ君、駅ビルの方へと行ってみようか?」


「はーい。駅ビルだと、一度改札を通るようですねー」


 二人はホームから階段を上って改札へと向かった。

 その途中にも、百華と思わしき人物はいなかった。


 改札口へと着いた二人。

 だが、何故か改札に駅員は見当たらなかった。


「あれー、駅員さんいませんねえー」


「切符を持っていない私たちには好都合だよ。このまま通らせてもらおう」


 二人はそのまま改札のゲートを乗り越えて、駅ビルに入った。


「駅ビルも広いですねー。先生どうします? 私のダウジングでサクッと見つけちゃいますか?」


「いや、それは最後の最後までとっておこう。怪異の正体がわからない段階で、こちらの手の内を晒すのは得策じゃないよ。時間はかかっても、一階から順に探していこう」


「それもそうですね。わかりましたー」


 駅ビルの中に多くの人がいた。


 しかし、その中の誰もが、二人を認識していないかのように、二人が存在しないかのように振る舞っていた。


「なんか私たち、無視されてますねー」


「というより、彼らに認識されていないみたいだ」


「ちょっと嫌な感じですねー。私、無視されるの嫌いなんですよー」


「まあまあ。むしろ好都合じゃないか。自分たちに反応しない人間は除外して、百華さんを探すことに集中できる」


 一階のフロアを探し終えた二人が、二階へ上がろうとしたその時……。


「九十九さんですね? 私、二宮百華です」

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