ファイル.01 鏡に映る迷子の少女と帰れない駅(4)

 二人は手を繋いだまま、十二番ホームについた。

 そこから、きさらぎ駅にいく方法として書かれている手順をこなしていった。

 二人が多目的トイレから出てきた時、ホームの奥から黒い山高帽を被った男が歩いてきた。


「来ましたよ、先生……」


「静かに、まだ成功したと決まったわけじゃないよ」


 二人は、山高帽の男に気づかれないように、距離を取りながらゆっくりと後をつけていった。

 男は駅の構内を歩き回った後、階段を上ったり下りたりを繰り返していた。

 二人も、男を追って、階段の上り下りを繰り返した。


 そして、男は十二番ホームの方へ戻っていった……はずだった。


「あっ。先生、ここ、十二番ホームじゃありませんよー」


「ああ、それにいつの間にかあの男もいなくなっているね」


「ていうことは、ここが幻の十三番ホームですかー。やったー。先生、成功しましたよ。がんばって何度も階段上ったかいがありましたね」


「ああ、どうやらそのようだな」


 九十九の口元から自然と笑みがこぼれた。


 賑やかだった十二番ホームとは打って変わって、十三番ホームは人が一人もおらず、不気味なほどに静寂に包まれていた。


「先生、見てください。私のスマホが圏外になってます。さっきまでアンテナバッチリ立ってたのにー」


「うんうん。ここが異空間である証拠だね」


「そんなー。私、スマホ使えないのはちょっと困りますー」


「サキ君。君のスマホ依存症を治すにはちょうどいい機会じゃないか。我慢しなさい」


「そんなー」


「文句を言わないの。それじゃあ、電車が来るのを待とうか」


「はーい……」


 二人は静かに電車が来るのを待った。


 しばらくすると、電車が向かってくる音が聞こえた。


「電車が来るのにアナウンスも何も流れませんねー。やっぱり変です」


「だから、怪異なんだろう? ここが本物の十三番ホームだって証さ」


「なるほどー。それじゃあ、これから来るのは怪異の電車というわけですね」

 

 十両編成の電車が駅に到着した。

 相変わらずアナウンスは流れなかったが、ゆっくりとドアが開いた。


「緊張しますねー」


「サキ君、警戒を怠らないようにね」


「はーい」


 二人は、周囲を警戒しながら、静かに電車に乗り込んだ。


 電車内には乗客は十人ほどいた。

 だが、何故か全ての乗客が眠っていた。


「へー、思ったより空いてますねー」


「怪異の電車が満員電車だったら、大変なことになるだろう?」


「確かにー」


 九十九たちは静かに笑いあった。


 しばらくすると、車掌がゆっくりと、車内を確認しながら歩いてきた。

 

 その時、車内にアナウンスが流れた。

 

「お客様にご連絡します。次の停車駅はささぎ。ささぎとなります」


「ささぎ? 聞いたことない駅です。けど、きさらぎ駅じゃないんですねー」


「ああ、だが次の駅で間違いなさそうだよ。そんな予感がするんだ」


「先生の予感はよく当たりますからねー。それなら、間違いないですよー」


「ああ。とりあえず、この駅で降りてみようか」

 

 二人は、ささぎ駅で電車から降りた。

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