第4話 どーすんのよ、この花⁉︎
出勤すると、またラモーンに会った。
(まさか、待っていたわけじゃないわよね…)
「クラウディア、この前の実験なんだけど…」
何かラモーンが言いかけた時、爽やかな笑顔とよく通る声が飛んで来た。
「クラウディア、おはよう!今日もいい日だね!」
アランだった。
「おはようございます、アラン」
にっこり微笑んで挨拶する。
「昨日の本はもう読んだ?はは、読みきれないか、さすがに!」
「夢中で読んでしまって、夕飯を食べるの忘れてしまいました」
「さすが、クラウディアだね!でも、食事はちゃんとしないとね。今日の昼は僕がご馳走するよ」
二人で並んで歩いていく。
周りのみんなも、こちらをチラチラ見ている。
(なんだか、ちょっといい気分)
アランの研究室の前に着くと、アランが振り向いて言った。
「君にプレゼントがあるんだ。ふふ、さあ、ドアを開けて」
と言って、アランがクラウディアに道を空けた。
「えっ、プ、プレゼントですか?」
おそるおそるドアを開けると、
「はぷっ、な、何ですか⁉︎」
部屋一杯に薔薇の花が置かれている。かろうじてクラウディアの席だけ、座れるように空間が空いているが、周りはすべて薔薇の花で覆われていて、アランの座る場所もない。
「こ、これは?」
アランがにっこりして
「昨日の夜、都中の花屋を総動員して飾ってもらったんだ。これは君への感謝の印さ」
(み、都中の花屋って…)
「あ、アラン、これでは仕事に差し支えるかと…あ、でも、お
クラウディアはにっこり微笑んで丁寧に頭を下げた。心の中では盛大に叫んでいたのだが…
(どーすんの?どーすんのよ、この花⁉︎)
「私は少し出掛けてくるから、君はこれから先、研究したいことを考えておいてくれないか?」
「は、はい。アラン」
「それじゃ、頼んだよ!」
そう言ってアランは出かけてしまった。
ふぅーーーっと息を吐き出して、考える。
(さて、この花はどうしたものかしら…?)
花の香りに包まれて酔いそうな程だったが、ふと思いついて、ラモーンの研究室に足を向けた。
研究室のドアをノックすると、中から不機嫌そうな『どうぞ』という声が返って来た。
「失礼します、ラモーン様」
「クラウディア!返って来てくれたのかい?」
その嬉しそうな声に、ちょっと罪悪感を感じつつ、
「いえ、申し訳ありません。ちょっとお借りしたい物がありまして、お邪魔しました」
相変わらず、ラモーンの机の上は乱雑に物が置かれて、片付けがなっていない。本人は『時系列だから分かりやすい』と日毎に右にずれていくのだが、一周してしまったらどうするのだろうか?
今まではそうなる前にクラウディアが片付けていたのだ。
「たしか以前使った、蒸留器がこちらにあると思うのですが、お借りしてもよろしいでしょうか?」
「そんな物あったかな?」
机の周りの床にも、たくさんの実験器具や、道具が積み上げられていて、何がどこにあるのかわからない。ただ一人、クラウディアを除いては。
彼女には正確な記憶があった。『ここにあった筈』と思うところを探すと、それは簡単に見つかった。
「ありましたわ。ありがとうございますラモーン様、お邪魔致しました」
「えっ、もう行くのかい⁉︎ クラウディア…」
クラウディアは
蒸留機の入った木箱を抱えて、さっさとラモーンの研究室を後にした。
アランの研究室に戻ったクラウディアは、早速仕事に取り掛かった。
薔薇の花束を、茎と葉、花に分ける。手袋をして右手によく切れる
解体しながら、蒸留機のポット部分に花だけを詰め込んでいった。
ポットがいっぱいになったら蓋を取り付けて、水を入れ下から加熱を始める。
水に溶けたローズウォーターが螺旋になったガラス管の中を駆け上がっていく。
手が痛くなって来た頃、最後の花束を一つ残すだけになった。
(これだけは、飾っておきましょう…せっかくアランが贈ってくれた物だもの)
2回めの抽出が終わった頃、お昼も近くなりアランが帰って来た。
「ただいま、クラウディア。うーん、いい香りだね。君みたいだ。花、片付けてくれたんだね。正直、ちょっとやり過ぎたかなって思ったよ。ところで、何をしているんだい?」
(え?今さらっと私を褒めました? “いい香りだ、君みたい” とかって…いやいや、
「お帰りなさい、アラン。お花は嬉しかったんですが、すこーし場所をとってしまったので、減らしました。これはあのお花から、精油を採っているところです」
「クラウディア、流石だね!何も無駄にしない君の精神は素晴らしいよ」
「それほどでもございません。誰でも思いつくようなことですわ」
「都合がつけば、約束通り君を昼食に連れて行きたいんだけど、どうかな?」
(う、嬉しい…アランと二人で食事なんて…でも、この可哀想な花たちは…)
アランの誘いにクラウディアは悩む。だが…
「ごめんなさい、アラン。今日はご遠慮させてください。このバラは新鮮なうちに精油にしないと、香りが飛んでしまうんです。せっかくのお花が無駄になるのは可哀想ですので」
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