忘れられた手紙
長倉幸男
祖母の家
夏の終わり、静岡の山間にひっそりと佇む古い家に、作家の長田幸助は一人で訪れていた。亡くなった祖母の家を整理するためだったが、それは彼にとっても懐かしい場所だった。
祖母の家は、彼が子供の頃に過ごした思い出が詰まっている場所だった。木造の家は、古いながらもどこか温かみがあり、幸助はその雰囲気に浸りながら、一つ一つの部屋を片付けていった。
幸助が古い書斎の棚を整理していると、埃をかぶった箱が目に留まった。彼が箱を開けると、中には古びた手紙の束が入っていた。手紙の宛名はすべて彼の名前で、送り主は祖母だった。
手紙の中には、祖母が書いた未発表の小説の断片が混じっていた。小説は戦後の静岡を舞台に、ある青年の成長物語が描かれていた。幸助はその内容に引き込まれ、読み進めていくうちに、次第にそれが自分自身の過去と重なることに気づいた。
手紙の中には、清原康太という青年の名前が何度も登場した。幸助はその名前に聞き覚えがなかったが、小説の中で康太は、祖母と深い関わりを持つ人物として描かれていた。
手紙を読み進めるうちに、幸助は自分が幼い頃に出会った少年が康太だったことを思い出した。彼は祖母の家に滞在していた時期があり、二人は一緒に多くの時間を過ごした。だが、康太は突然姿を消し、その後の消息は分からなかった。
最後の手紙には、祖母が康太に宛てたメッセージが記されていた。彼女は康太を自分の息子のように思い、彼の未来を案じていた。康太がいなくなった後も、祖母は彼のことを思い続け、小説を書き続けていたのだ。
手紙を読み終えた幸助は、祖母の想いを胸に、新しい小説を書き始めることを決意した。彼は康太の人生と、自分自身の過去を織り交ぜながら、物語を紡いでいく。
静岡の山間の家は、再び静寂に包まれていた。だが、その家の中では、新たな物語が生まれつつあった。祖母の遺した手紙と小説が、幸助にとって新たなインスピレーションとなり、彼はその筆を止めることなく、静かに書き続けた。
忘れられた手紙 長倉幸男 @NagakuraYu95728
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