※ 第11話 見出された活路


あれから再び私の奴隷生活が始まった。

意外な事に麗華にとって大学生活の交流や付き合いは煩雑で煩わしい部類に入るらしい。

大学では変わらず私が麗華、麗華は私として過ごす。


そして寮に帰れば本来の関係に戻り、麗華は私を思うままに犯し尽くす。

四つん這いに拘束されての折檻。

猫用トイレへの強制排泄。

風呂場での水責め。

そして、地獄のような快楽拷問。

麗華は私を徹底的に辱める。


少し前まで私が麗華にやっていた事なんて所詮奴の模倣に過ぎなかったと思い知らされる。



「私の奴隷となる事は?」


「この上ない幸せです。苦痛も屈辱も、麗華様に与えられるものならば全てが悦びです」


「拷問だろうが苦痛だろうが快楽だろうが、影はその全てを受け入れるのよね?」


「はい。私の心、身体、人権……その全ては麗華様の物です」



こうして毎日のように服従の言葉を言わされる。



「今日は何をしましょうか……」



もうすっかり従順になった私に気を良くしたのか、上機嫌な麗華は鼻歌混じりに私の体を弄ぶ。

そんな時だ。

麗華のスマホがけたたましく鳴り出した。



「もしもし。はい、相変わらず元気にしていますよ。はい……」



それでも私の身体を弄る手は止めない。

声を出したらお仕置きされるので、唇を噛み締めて必死に耐える。



「えぇ、お盆休みには帰ってきます。……え? 影も、ですか? えぇ、元よりそのつもりでしたが……はい、分かりました」


「麗華様……?」


「ふぅ……お母様からよ。お察しの通り、お盆休みに帰ってきなさいって。

何故か貴女も連れてくるように念を押されたけどね」



……何故私を? わざわざ言わなくても、いつも麗華に無理矢理連れて行かれるのに。



※※※※※



蝉がけたたましく鳴き散らす夏。

殆ど手ぶらの麗華ですら暑そうに手で自分を扇いでいるのに、荷物持ちの私なんて汗だくで、麗華を恨めし気に睨みながらへろへろと歩く。



「まぁまぁお帰りなさい麗華。暑かったでしょう?」


「緑が多い分、東京に比べたら幾分涼しい気がします」



母親はいつも通り麗華にしか話し掛けない。この家の人はいつもそうだけど。

仮にも私に用があって呼び付けんだろうに……恐らくその時に話せば良いと思っているのだろう。



※※※※※



親戚が集まって、お盆の宴会が始まる。

私はお酌をしたり料理を運んだり。



「影」


「は、はい!」



宴会も終わり各々が自由に動き出した頃、突然麗華に名前を呼ばれ、慌てて返事をする。



「お父様からのお呼び出しよ。貴女も来なさい」


「……はい」


来た。今まで禄に人扱いしてこなかった癖にいったい何の用なんだか……



※※※※※



案内されたのは仏間だった。

仏壇の前に座る麗華と私。そして両親。



「喜べ影。お前に見合いの話がある」


「見合い、ですか……?」


「あぁ。お前の事を気に入ったと言っていてな。

由香里の結婚式に参加していてな。何でも奥ゆかしい姿に一目惚れしたんだとか」


「はぁ……」


「名前は高島 幸成。三十代で、大手企業の社長の息子だ。

お前のような出来損ないと釣り合うような者ではないが……まぁ、先方から是非にと強く言われてはな」



両親のウキウキ具合から喜びようが伝わる。

そりゃ、私で将来の大企業の社長を捕まえられればこれ程お得な話は無い。

海老で鯛を釣るとは正にこの事。


そして、これは私にとっても良い話だ。

お見合いで気に入られて婚約にまで漕ぎ着ければ麗華の元を離れられる。奴隷の立場から脱却出来る。



「高島さんは影の本性を知らないのでは?

奥ゆかしいと言えば聞こえは良いですが、実際にはただの臆病者。

祝いの場で1人陰気臭く、オドオドとしていたから目立ったのでしょう。

実際に会って印象と違った……となれば花柳院家の名に泥を塗るのと同じです」



麗華が珍しく焦った様子で口を挟む。

傍目からは気付きにくいだろうけど、私には麗華の動揺が確かに感じられる。

何しろ私が婚約してしまったら、今まで通り一緒に住んで好きに弄ぶなんて出来なくなるからだ。

流石に親も私を麗華の遊び道具にさせておくよりは高島さんと婚約させた方が利益が大きいし、麗華だって親の言う事には面と向かって逆らえないだろう。



「影の用途は当主である私が決めるものだ。

お前の妹だから好きにさせていたが、他に使い道が出来たからな。

お前もそろそろ人形遊びは卒業しなければな、うむ」


「……承知しました」



やっぱりと言うか当たり前と言うか、私の意見は一切聞かない。今回の話は万々歳だけど。



※※※※※



寮に戻ってきた。私と麗華の内心は由香里姉さんの結婚式の時とは真逆だ。

部屋に入るや否や麗華は私の肩を掴んで、切羽詰まった顔で問い詰めてくる。



「貴女……高島とか言う男と結婚する気!?」


「そうするしかないでしょ? 当主がしろと言ってるんだし」


「断りなさい! これは命令よ!」


「私が判断出来る事じゃないって」



私に対する麗華の態度は今までと打って変わって余裕が無い。

それだけ自分の元から私が去る、という事が現実味を帯びているんだろう。



「そんな事してみなさい! 貴女が私にした仕打ちを言ったらどうなるか……」


「確かに無事では済まないだろうね。少し前までの無価値な私なら処分されてたかも。

だけど、今の私には価値が生まれた。麗華が欲望を満たす為の道具、なだけじゃなくなった。

今の私は花柳院家にとって有用で有益な道具だ。

……そうだな、なんだったら私の方から言っておこうか?

貞操帯なんて着けてたらお見合いどころじゃないし、すぐに外すように命令してくれるかも」


「……っ」


「麗華に見下されながらの生活が嫌で仕方ないから、この話は渡りに船だ。

私は絶対に高島に気に入られて、麗華の支配から抜け出してみせる。

拷問でも陵辱でも何でもすると良いよ。

私を壊したらお父様に怒られるかもだけどね?」


「……絶対に渡さないわ。貴女は私の奴隷なの。絶対に」



一際強く肩を掴まれ、でも次の瞬間には手を放し、麗華は悪魔のような形相で自分の部屋へと戻っていった。

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