※ 第7話 姉が妹で妹が姉で


「おはようございます、麗華さま」


「うん、おはよう」



翌朝、リビングに向かうと麗華が正座で出迎えてきた。

殊勝な心がけ……というよりは単に床だから寝られなかったのだろう。

股間から伸びるケーブルも繋がったままで相変わらず間抜けな絵面だ。

もし充電が終わる前に外したら私のスマホにアラームが鳴る仕組みになっているのですぐに分かる。



「うん、充電も100%になってるね。外して良いよ。朝食の準備して」


「はい」



脚を開いてコンセントを抜く姿もまた無様で滑稽だ。

麗華は冷蔵庫から食材を取り出して調理を始めた。

良い子にしてたから特別にエプロンは付けさせてあげた。

今は包丁でバゲットを切ってるけど、果たしてそれで反抗する気はあるのかどうか。



「お待たせしました」


「うん。影も食べて良いよ」


「ありがとうございます」



私のメニューはバゲットにベーコンエッグ、サラダにヨーグルト。

麗華にはいつかの私と同じようにシリアルの器を床に置いて昨夜に続いて犬食いさせる。



「ごちそうさま。影も大学の準備ね」


「かしこまりました」



服装も私は麗華の物を、麗華には私の服を着せる。

ウィッグも付けて見た目はバッチリ麗華そのものだ。



※※※※※



「麗華さん、おはようございます」


「えぇ、おはよう」


「麗華さん、今日は早いんですね」


「えぇ、少しね」



大学に着くと私は早速、同じゼミの女達から声を掛けられた。

麗華は外面は良いし、そもそもが花柳院家がこの学校と縁が深くて教師達も気を使う存在だ。

そんな麗華と仲良くしたがっている人は多い。

そして、私(影)との関係も……ハッキリ明言した訳では無いけれど、私達双子の間に明確な上下関係が存在する事は側から見ても明らかだ。

当初は何人か私に話し掛けてくる事もあったけど、その度に麗華に睨まれるから皆も関わり合いになるのを避けるようになった。


それが、今や逆だ。

麗華に成り代わった私は人に囲まれ、そして慕われている。

対して影に落とされた麗華は誰にも認識されず、ただ私の後を付いてくるだけの存在。

麗華が今までやってきた事が全部返ってきている。

なんて愉快なのだろう、なんて痛快なのだろう!

私は自然と顔が綻ぶのを止められなかった。



※※※※※



長年一緒に過ごした故の演技力か元々麗華に深い付き合いの友人が居なかったからか……私と麗華が入れ代わった事に気付かれた様子は無い。

昼食も麗華っぽく振る舞いながらお断りし、校内のベンチで麗華と二人座り弁当を広げる。

流石に公共の場で犬食いはさせられないから普通に食べさせてやる。

勿論この弁当も麗華が作ったものだ。



「うん、美味しいよ。影」


「ありがとうございます」


「よっと」


「!? れ、麗華様、何を……っ」



スマホで麗華の中の玩具を作動させると、ビクッと身体を震わせて周囲を見回す。



「何って……暇潰し」


「そんな……っ、つ、強すぎ……んんっ」


「怪しまれたり、時間が間に合わなかったりしたらお仕置きだから。ほら、早く食べなよ」


「は、い……んぁあっ」


「ふふ、可愛いよ影。でも……そんな大きな声出したらバレちゃうかもね?」


「っ! んっ、んむ……んぐ……」


「そうそう。良い子だね影」



本当は口を閉じていたいのに、食べきらないといけないからそれは出来ない。

弁当を食べながらビクビクと身体を震わせて喘ぎ声を上げる麗華のなんと無様な事か。

私はスマホをポケットにしまいながら、その様を眺めていた。



※※※※※



午後の講義もつつがなく終わり、帰宅。特別寮だけあってとても近い。



「脱げ」


「はい……」



帰宅早々麗華にそう命令すると、一瞬躊躇いながらも素直に従う。

そこに首輪を付けた姿が今の麗華の正装だ。

食材の買い出し等をさせるならその限りでは無いけれど、材料にはまだ余裕がある事は確認済みだ。



「掃除、夕食とお風呂の準備」


「かしこまりました」



麗華は恭しく土下座して、早速掃除に取り掛かった。

気まぐれに玩具のスイッチを入れてみる。



「んん……っ!? 麗華様……っ」


「早く掃除しなよ」


「はい……っ。ん、く……んぁ、あはぁ……」


「弱めにしてるから無理だと思うけど……家事が終わるまで絶頂禁止だから」


「そんな……っ。あ、ん……っ、く……」


「ほら、早くしないと」


「は……い。んっ、はぁ……はぁ……」



麗華は掃除を再開させる。けど、時折身体を震わせて手を止める。

まったく、不真面目な奴隷だな。



「麗華」


「っ!? は、はいっ」



名前を呼ぶとビクッと肩を跳ねさせてこちらに振り向く。

私が小瓶を掲げると、麗華は分かり易く顔を青ざめて

身体を震わせた。



「あ、あの……麗華様……」


「口開けて」


「は、い……」



麗華は観念したように跪いて口を開ける。

そのまま口の中に小瓶の薬液を少し垂らす。

流石というべきか、すぐに効果は現れた。



「うぅ……」


「さ、続き続き」


「お、お願いしますっ! これでは作業が手に付きません……っ」


「だったらずっと切ないままだね?」


「くぅ……っ」



悔しそうに、切なそうに唇を噛んで……だけど観念したのか、立ち上がって掃除を再会した。

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