書かれざる結末
長倉幸男
静岡の古本屋と隠された真実
静岡の静かな街の一角にある古本屋。そこを営む長田幸助は、売れない小説家だった。薄暗い店内で、彼は古ぼけた本に囲まれ、今日もまた、インスピレーションを求めてページをめくっていた。
ある日、ひときわ古びた日記帳が目にとまった。表紙には、埃をかぶって文字が判読できない。興味を惹かれた長田は、丁寧に埃を払い、ページを開いてみた。
日記には、今から数十年前、この街で起きた未解決の殺人事件の詳細が克明に記されていた。被害者は若い女性で、事件現場には一切の証拠が残されていなかったという。日記の筆者は、事件の目撃者であったらしい。しかし、なぜか警察には届け出ず、この日記に詳細を書き記していた。
長田は、この日記に強く惹かれた。まるで、彼の小説の題材が、自ら彼の前に現れたかのようだった。彼は、この事件を題材に、新たな小説を書き始める。
しかし、調査を進めるにつれて、長田は次第に、この事件に自分が深く関わっていくことに気づいた。日記に記された場所を訪ねたり、関係者に話を聞いたりするうちに、彼は、事件の真相に近づきつつあった。
そして、ある日、長田は、事件の鍵を握る人物と接触する。それは、かつての事件の容疑者として一度は疑われた人物だった。男は、長田に、事件の真相を語り始めた。
男の告白によると、事件は、嫉妬と復讐によって引き起こされたものだった。被害者は、男の恋人で、別の男と関係を持っていた。男は、激しい嫉妬に駆られ、衝動的に彼女を殺害してしまったのだという。
長田は、男の告白に衝撃を受ける。そして、彼は、自分が書いた小説が、現実の世界に影響を与えているのではないかと不安を感じ始めた。
小説の中で、彼は、事件の真相を歪曲し、犯人を別の人物に仕立て上げていた。それは、単に面白さを追求するためだったのか、それとも、無意識のうちに、事件の真相から目を背けていたのか。
長田は、自分の行為に深い後悔を感じた。彼は、小説家として、真実を追求し、それを世に伝えるべきだったのではないかと自問自答する。
そして、彼は決意を新たにする。彼は、自分の小説を書き直し、事件の真相を正しく世に伝える。そして、被害者の霊に、心から謝罪する。
静岡の古本屋で、長田は、再び筆を執った。彼は、この経験を通して、小説を書くことの責任の重さを痛感していた。
書かれざる結末 長倉幸男 @NagakuraYu95728
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