第21話 魔導師リューンの秘密
「待ってよ。師匠は? あの爺さん、今、何処にいるのか分からないの?」
「さあ、知らないな。むしろ、お前の方が師匠の居場所を知っていると思っていたんだが?」
「俺は兄様の方が知っているとばかり……」
「よくあることだ。あの人、以前もふらっと居場所を気取らせないよう、消えたことがあったから」
「兄様。それで納得しちゃ駄目だよね? 師匠はただ単に兄様に面倒事押しつけて、逃亡しているかもしれないんだよ?」
「……そうだな。その可能性もあるかもしれない」
「何、暢気にしているの?」
「暢気? これでも私は相当焦っている。師匠の行く先など調べようと思えば、調べられる。でも、そんな時間が惜しいから、私は魔神を優先しようとしているだけだ」
「それにしたって、一人で封じるなんて?」
「いや、むしろ一人の方がいい。ここから現場も近いし……。正直、魔神なんかより、魔導師の方が面倒だ。他の奴らに感づかれる前に、終わらせておかないと。……転移魔法で、数日あれば何とかなると思う」
他の魔導師に遭遇して、リューンがリューベルンに化けていることが、バレてしまったら大変だ。
絶対に発覚しないよう、複雑に術を組み合わせてはいるが、魔神と対峙している一瞬の隙に、感づかれる可能性は十分にある。
(それに……)
大切な聖女アルカを隠すためにも、速やかに対処する必要があるのだ。
「……下手したら死ぬよ。兄様」
「莫迦な。アルカさんの晴れ姿を見ないうちに、私が死ぬはずないだろう。……ともかく、お前は当初の話通り師匠に化けて……」
「ああ、分かってる。そのことについては、上手くやるよ」
「それと……。裏庭の手入れもな」
「へ? それは聞いてないけど?」
「私が不在になるんだ。お前以外、誰がやるんだ?」
「アルカちゃん……来ないんじゃないかな?」
「それでもだ」
以前は庭師が気づいて手入れすることもあったが、最近では忘れ去られてしまっている。
指摘して、誰かにやらせても良いが、あの裏庭はアルカのみならず、リューンにとっても大切な場所なのだ。変にいじられるより、思い出のまま、綺麗にしておきたい。
出来ることなら、リューンが遠隔で魔術を使い、水遣りくらいはやりたいところだが、今回ばかりは不可能だ。
「アルカさんのお父上が亡くなって、まだ日も浅い。泣き虫な彼女が今回は一度も庭に行ってないんだ。いつか、行った時に荒れてたら虚しいだろう?」
「……いや、非効率で虚しいことしてるのは、兄様の方だと思うけど。まあ……でも、ややこしいことになってしまっているのは、同情するよ」
リューンの曲がった背中を、ヴォルが軽く撫でた。
傍から見たら、子供に介抱されている、か弱い老人そのものだろう。
「可哀想だから、今回は請け負ってあげるよ。あの兄妹にも目を光らせておく。ヒルデは子供だから、どうとでもなるだろうけどね。問題はドリスだな。あれは……兄様の言う通りっぽいから」
「……そうか」
ある意味、魔神なんかよりも、人間の方が怖い。
変身術を解きながら、重い溜息を落とすリューンに、珍しくヴォルが真摯に告げた。
「頼むから、無理はしないでよ。兄様はアーデルハイドの第三王子。貴方だけは何がなんでも、生き延びなきゃ駄目なんだ」
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