第20話 魔導師リューンは、一人で魔神を封印しに行く
突然現れたヴォルのことを、アルカは
「可愛い、お孫さんですね」
――と、気安く問いかけてきた。
その時の心臓が止まるような感覚を、リューンは生涯忘れないだろう。
(孫?)
――コレが孫?
(しかも、可愛い?)
今現在、リューンはリューベルンの身体に変身している。
ヴォルとの関係を誤解されるのは仕方ないことだ。
けれど……。
(よりにもよって、ヴォルを可愛いだなんて)
リューンが師匠の姿ではなく、
老人の姿だと、どうもアルカも緊張してしまうようで、二人の距離感に虚しくなってしまうのだ。
リューンは、ただアルカと親しくなりたいだけなのに……。
(ヴォルの奴……)
アルカの前で無害な子供を演じて、すぐに仲良くなりやがって。
(私がアルカさんの笑顔を引き出すために、どれだけ頑張っていると思っているんだ?)
彼女が臣下から軽んじられていると、情報を提供してくれたのは助かったが、その功績を考慮したとしても腹立たしい。
(灰にしてしまおうかと、本気で考えてしまった)
何とか踏み止まったのは「緊急事態」と、深刻そうにヴォルが告げたからだ。
(まさか……?)
想像していたことは、自室に戻ってから確信へと変わった。
床が淡く発光している。
そっとリューンが掌を翳すと、大鳥が羽を広げたような図が闇の中にぼうっと浮かび上がった。
それは魔力で作ったアーデルハイドの地図。
その隅の方に光が集中している理由は……。
「魔神が覚醒した……?」
「十五年ぶりでしょ? 緊急事態だと思ったから報せに行ったのに、まさか殺意を向けてくるとはね」
ヴォルはそっぽを向いたまま、刺々しく言った。
よほど、リューンに睨まれたことが嫌だったのだろう。
「しかし……。それでも、あの登場の仕方は酷い。あんなふうに出て行ったら、アルカさんが不審に思うじゃないか?」
「はあ? 不審って……。それを言うなら、兄様の方じゃないか? あれだけ目立たないようにって念押されたのに、彼女に魔術だって見せているし……」
「それの何が悪いんだ? 私は見せる範囲を限定している。攻撃魔法は見せていない」
「いや……それ見せたら、もうおしまいだから。大体、俺の存在をアルカちゃんに隠す必要ってあるの? 彼女と結婚したのはリューンじゃない。リューベルンなんだよ」
「無論、承知している」
「いいや、分かってないね。意識しまくり。簡単に手を出しかけちゃってるくせに。外見が師匠な分、絵面が怖いんだよ」
「……それは」
即座に、否定できないのが辛かった。
「俺も不本意ではあるけど、牽制はさせてもらうよ。師匠から、そのように言伝されているし」
「うるさい奴だな」
「それ、こっちの台詞なんだけど」
「ふん」
イラつく。
(やむを得ない事情がなければ、絶対、この男を傍に置きたくないのに……)
この先もずっと、ヴォルにアルカとのやりとりを監視されるのかと思うと、腸が煮えくり返りそうだった。
「ともかく、魔神が覚醒したら封じるのが私の仕事だ。ちょっと行ってくるから、お前は……」
「何処に?」
「魔神を封じに……だが?」
「嘘……だよね?」
ヴォルが唖然として、仰け反っている。
そんなに変なことを、リューンは言ったのだろうか?
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