第13話 悪役貴族、王都に到着する
王都。
それは国の頂点たる王の住まう街。
政治の中枢であり、国内で一番栄える場所。
平民視点から見ると、王都とは国内の流行が始まる場所であり、国中の物や人が集まる場所でもある。
特に実家のようなド田舎領に住む人達は「王都に行けば何とかなる!」やら「王都って何でもかんでもあるんでしょ!? 絶対住みやすいよ!」といった感想を抱きがちだ。
そういった感想を抱く理由の一因にもなる王都一極集中の是非は置いておくが――
「はえ~、でっかい」
大都会!!
それが最初に抱いた感想だった。
前世に見たコンクリートジャングル式な大都会の景色とはまるで違うものの、また違ったベクトルの大都会がここにある。
まずね、とにかくデカい。街がクソデカい。ド田舎領地なんて話にならないほどデカい。
街の奥に見える王城もデカければ、最近ホットな娯楽施設である演劇場とやらもデカい。
大都会といえば大きな建物。これは外せない要素でしょう。
次に利便性や住みやすさ。
街の玄関口でもある南区のメインストリート沿いには旅人向けの宿や店が並び、メインストリートを挟んだ左右の奥には平民向けの住宅が並ぶ。
南区の北側には大きな市場まであるようだ。
「しかし、土産物屋が多いな」
メインストリート沿いに並ぶ店の中には雑貨屋兼土産物を扱う店が多く、中でも共通しているのは『王都名物・お城クッキー』という物らしい。
どんなモンだろう? と思い店を覗いてみると、そのまんま王城の形をしたクッキーだった。
「味は悪くない」
一枚単位で買える店があったので買ってみたが、悪くない味だった。
因みに人気はチョコ味らしい。
「普段の買い物をするなら東区か」
東区には物流拠点と商会が固まっており、まさにド田舎平民が抱く「何でも揃う」が現実のものとなっている。
先に語った演劇場や謎のオブジェが配置された野外芸術広場なんて場所もあるし、メインストリート沿いは貴族向けの商会が並んでいるので実に華やかだ。
「……なんで男の裸体像が多いんだろう?」
野外芸術広場には股間部丸出しの男性裸体像が六体もある。
しかも、偉そうなオッサンが「ほう。これはこれは」と呟きながら裸体像を鑑賞しているのだ。
都会は華やかでもあるが、時にイカれたブームも起きるんだなと思った。
こういった理解できない部分もあるが、利便性と住みやすさは故郷の領地とは雲泥の差である。
正直、悲しくなってきた。
次に西区だが、入口付近には高級宿が並んでおり、北西方向には俺の目的地である王立学園があって北側へと敷地を拡げている。
商業施設が入口にしかないので、比較的落ち着いたエリアって感じだろうか?
賑やかな要素が溢れている一方、落ち着ける場所も必要とするのは、どの世界の人間も変わらんらしい。
中央区には王国旗が掲げられた円形広場があって、旗の横から王城を見上げるのがベストスポットと有名になっているようだ。
丁度、地方領地から旅行に来たであろう若いカップルが口を半開きにして城を眺めている。
その姿を見た王都民らしき人達がニヤニヤしているが、俺は決してニヤニヤできなかった。
俺もカップルと同じリアクションするだろうから……。
中央区には他にも銀行や役所? っぽい施設が見られ、平民達は北区を除いた三エリアで完結できるようになっているようだ。
最後に北区だが、こちらは貴族の屋敷と国営組織が固まったエリア。
柵に囲まれた高級住宅エリアと国防・治安維持の象徴たる騎士団の本部がよく見える。
最奥には王城もあることから、貴族が働きやすいように集中させているのだろう。
まぁ、この仕様が貴族と平民を区切る境界線のようにも感じてしまうが、北区だけ進入経路が限定されているなど、明確に区切られていないだけマシか。
「しっかし、やんなっちゃうねぇ」
街が馬鹿みたいに大きく、華やかなのは良い。初めて訪れた王都にワクワクしているのも事実だ。
しかし、華やかさに比例して人が多いこと多いこと。
メインストリートは馬車が通る車道と人が歩く歩道で分けられてはいるのだが、歩道には旅人と王都住民でごった返している。
特に旅人向けの商業施設が多い南区は自分のペースで歩けないほど。
観光しながら歩く人達を追い越すこともできず、遅い歩みを強制させられるのがネックだ。
ただ、南区を抜けてしまえばそれらは解消されるので、少し注意すれば煩わしさは減るだろうか?
さて、そんな王都であるが、驚いたことに未だ発展中らしい。
特に物流・商業関連が固まっている東区は東へ東へと区画を伸ばしている最中だ。
これは王都全体が巨大な壁で囲まれていないからだろう。
全体的に拡張性を重視した街の造りとなっているように見える反面、生息する魔物の侵入を防ぐ物理的な手段が施されていない。
魔物による被害が現実に発生しているにも関わらず、長年壁を作っていないってことはそれだけ戦力――魔物の討伐を主にする騎士団に自信があるってことなのだろう。
「さて、そろそろ行くか」
王都もざっと見回ったし、そろそろ本命である学園に向かおう。
北西方向に伸びる道を歩いていると、周囲には同年代の男女の姿ばかりになってきた。
見た感じ、今歩いているのは平民っぽい。
逆に貴族は馬車で向かう者が多いらしく、車道には装飾が施された馬車が何台も先へと向かっていく。
数分ほど歩いて学園の敷地入口に到着すると、学生達による列が形成されていた。
「並ぶのかな?」
列を見ると「とりあえず並ぶか」と思ってしまうのは、前世の記憶があるからだろうか。
大人しく列に並んでいると、ケープを身に着けた女性が紙とペンを持っている姿が見受けられる。
ありゃなんだ? と思いながら待っていると身分を問われた。
自分が貴族の息子であることを告げると、俺の前にいた男子がギョッと驚く。
女性曰く、ここは入学試験を受ける平民の列だったらしい。
……よくよく考えると、貴族は列に並ぶって行為をしないのだろうか? ド田舎出身すぎて分からん。
「貴族家の方はそのまま寮に向かって下さい」
女性に寮の場所を聞いてそちらに向かう。
因みにだが、寮は貴族用のものしか用意されていないらしい。
もちろん、男女別々ね。
平民学生は王都で家を借りるか、宿暮らしをしながら通学すると母様が言っていた。
中には一軒家を借りてシェアハウス化する平民学生もいるんだとか。
そっちもそっちで面白そうだ。
「こりゃすげえ」
さて、今日から生活する男子貴族寮であるが、これまた王都に相応しいというか何と言うか……。
外観は真っ白で汚れが全然見られないし、エントランスには赤絨毯が敷かれているし、二階に続く階段の手すりには芸術品のような装飾が施されているし。
天井にはシャンデリアだぜ、シャンデリア。
実家の屋敷とは大違いだ。
俺が今まで暮らしていたのは村長の家レベルなんじゃないかって思えちまうよ。
いや、まぁ、ド田舎貧乏貴族だからしょうがないんだろうけど。
とにかく、豪華絢爛という言葉が似合う。
寮の中に漂う空気も貴族用なんじゃねえかって錯覚しちまうね。
体に合わずにゲロ吐いちまわないか心配だぜ。
「失礼致します。今年から入学する方でしょうか?」
玄関口で鼻をヒクヒクさせながら貴族用の空気を堪能していると、メイド服を着た女性に声を掛けられた。
俺が「はい」と返すと、彼女は俺の名前と身分を問うてくる。
言われた通り名前と身分を明かすと、彼女は悩みもせずに「お部屋は二階です」と言って案内してくれるのだ。
まさか、全員の部屋を暗記しているのか? 王都のメイドは恐ろしいほど高いレベルを持っているのだろうか?
対して、うちのメイドは……。
『ケヒッ! 筋肉たまんね!』
邪悪な顔をしつつ、涎を垂らしながら俺の腹筋を触りまくるシオンの顔が浮かんだ。
シオン、大丈夫かな。
細マッチョ欠乏症で手の震えに悩まされていないかな。
「こちらです」
「ありがとうございます」
礼を伝えると、メイドさんは深く頭を下げて去って行った。
……部屋の中は案内してくれないんだね?
そんなことを考えつつも、部屋のドアを開けてみると――中は上品なワンルームって感じだ。
陽の光が差し込む窓には、これまたお上品なベージュのカーテンが取り付けられているではないか。
部屋の中には大きめの机とシングルベッドが既に設置されており、壁際には空の本棚とクローゼットが一つずつ。
クローゼットを開けてみると、中には学園の制服上下と白シャツが五枚も用意されている。シャツは別途用意しなくてもいいのでありがたい。
部屋にはトイレと洗面所が用意されているのだが、簡易キッチンなどの類は無かった。
食事はあくまでも食堂で済ませましょうってことかね。
「ん?」
机の上に冊子が置いてあった。
タイトルは『入寮した方へのご案内』である。
数ページしかない冊子を開いて中を読んでみると――要約すると寮での基本的な生活スタイルや飲食に関する案内が記載されている。
まず、寮生活にありがちな門限の記載は無かった。
ただ一言『清らかで貴族らしい生活を心がけましょう』とあるだけ。
しかし、飲食に関しては記載内容が多い。
食事は基本的に食堂で提供されることになっており、朝と夜には数種類のメニューを揃えた自慢の食事が出るらしい。
あとはお抱えのシェフについてが紹介されていて、元々王城の食堂に勤めていたシェフだという。
「これは期待できそうだ」
続いて食事時以外――例えば、夜食が欲しくなった時など。こちらに関しては自分達で用意して下さいと書かれていた。
ある程度はサポートするけど、個人の好みが出すぎる部分は各自で解消して下さいねってことなのかな。
最後に制服のサイズを確認して、合ってなかったら交換しますという旨が記載されている。
これは忘れず、入学式までに確認しておかなきゃな。
「さて」
とりあえず、荷物を置いて買い出しに行こうかな。
私服や下着はそこそこ持ってきたが、学園生活に必要なペンなんかは持ってきてないし。
現地で揃えようと思っていた物は早めに揃えてしまおう。
机の上にあった部屋の鍵を握り、部屋に鍵をかけてから寮を出た。
敷地の入口に向かうと、白いワンピースを着た女性が立っていることに気付く。
その人物が誰なのか判明すると同時に俺の胸がトゥクン! と跳ねた。
「あっ! ハーゲット様!」
リリたんだぁ!
ゲーム内では登場しない服装を身に着けたリリたんが、俺に手を振ってくれているよぉ!
彼女の笑顔を見るだけで絶頂しかけたが、俺はぐっと耐えながらも彼女へ手を振り返した。
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