第12話三人でのコラボは大成功!その裏で…
時は少し遡り。
お菓子工場の事務所での話し合いが終わった後の帰り道のこと。
加賀烏は明らかに焦っていた。
偶然を装ってストーカー行為にも似た行動を正当化していたのに…
そんな自らの邪な行動や想いを馬生カンナは全て言い当てた。
かなりの動揺を表情として表に出していたことだろう。
馬生カンナは明らかに怒気に塗れた表情を浮かべていて…
思い出すだけで軽く寒気を覚えていた。
加賀烏の肩を叩いた不作之831は慰めるような言葉をかけていて…
そのお陰で加賀烏の気持ちは少しだけ軽くなっていた。
そして疑問を覚えていた加賀烏は思わず問いかけたのだ。
一輝先生と不作之831の接点は何処にあるのかと。
どうして初コラボの相手に選ばれるほど仲良くなれたのかと。
その疑問に不作之831は少しだけぎこちない表情で口を開いたのだ。
「信じられないかもしれないけど…一輝先生は元カレなんだ…」
不作之831は思い切って事実を口にしてみせた。
その表情は普段のクールなものではなく…
完全に恋をしている女性のそれだったのだ。
それを理解できた加賀烏は驚きのあまり言葉を失いかけていた。
何か反応を見せようと思って思わず意味のわからない言葉を口走る。
「絶対に誰にも言いません…!」
何の宣言かわからなかった不作之831は柔和な笑みを浮かべて微笑む。
「ありがとう。
この事実を知っているのは私と一輝以外だと加賀ちゃんだけだよ」
憧れの先輩から秘密の共有をされた加賀烏はあまりの嬉しさに表情を明るくさせていた。
「光栄です!でも…応援は出来ないかもです…」
加賀烏も想いを寄せている憧れの一輝先生のことを譲らない姿勢を見せていた。
それに対して不作之831も怪訝な表情は見せない。
「分かったわ。じゃあ私達は仲間でありライバルね」
憧れの先輩からの言葉に加賀烏は嬉しそうに頷く。
先輩に差し出された右手の握手を受け取ると二人は先に進むのであった。
そして現在に戻ってくる。
三人でのコラボ配信まで後数分だった。
配信開始告知の文章を全員が作成していた。
配信開始のボタンを押すと僕らは同時に告知も行っていた。
数分後に画面が開けて…
「はい。始まりました。
僕がコラボ配信を解禁してから三回目になりましたが…
ついに三人でのコラボとなります。
では本日のコラボ相手ですが…
入ってきてください」
「こんばんは。毎度コラボ相手としてお馴染みの…
不作之831です。
今回はお菓子工場の後輩を連れてきました。
と言うよりも彼女の配信を観た人は知っていると思いますけど…
私が紹介したと言うよりも二人は…
なんと…!
引っ越した先の隣人同士だったようで…!
凄い偶然ですね!
まぁ配信環境が十分に整っているマンションってなると…
大体限られてくるわけですよ。
ですからそういう偶然も起こることが往々にしてあるわけです。
なので皆様も余計な邪推を彼女や一輝先生に向けないでくださいね」
「831さん…?誰も何も言っていませんよ…?」
ツッコミを入れるように加賀烏がカットインしてくるとコメント欄はかなり盛り上がってきていた。
「この声は…加賀ちゃんだ!」
「今日をどれだけ待ち望んだか!」
「一輝先生…羨ましい…」
「一輝先生とのコラボの時だけ…831ちゃんってクールじゃなくね…?」
「女の声出してる…」
「お前が女を語るな」
「知らんくせに格好つけるな」
「は…知ってるし…」
「ど…ど…◯貞ちゃうし…」
「ガチの◯貞やん…」
コメント欄を見ていた僕らは関係のない所で盛り上がっているリスナーに苦笑していた。
ツッコミを入れることもなく僕らはゲームを開始することになる。
「今回のコラボの発案者は加賀烏さんで…
僕と831さんの初回コラボをかなり気に入ってくれたらしく…
初回と同じゲームを一緒にプレイしたいと打診されたんです。
ファンやリスナーの皆様はご存知だと思いますが…
831さんはゲーム全般得意で上手ですよね。
僕は御存知の通り可もなく不可もなくと言った所で…
そして…加賀烏さんはキャラ操作がかなり下手だそうで…
それなのに加賀烏さんは最高難易度を挑戦したいそうで…
確実に耐久配信並みの長時間配信になることが予想されます。
リスナーの皆様は程よい所で寝てくださいね。
一応明日は土曜日ということで…
休みで明日の予定がない人や興味があって最後まで観たい人は…
僕らが登頂する勇姿を御覧ください。
それではゲームスタート…!」
ゲーム画面のスタートボタンを押すと僕らは登頂を開始するのであった。
「事前にプレイした感想を言うと…
開始五分の場所は初見◯しだから…
加賀烏さんは確実に落ちると思うよ。
そして僕らは連帯責任で一緒に落ちます」
「え…じゃあどういうギミックがあるか今の内に教えてくださいよ!」
「教えないほうが良いんじゃない?
リスナーからしたら落ちるほうが盛り上がると思うし」
「831さんの言う通りですね。
っていうか831さんのスーパープレイで奇跡が起きたら…
それこそ盛り上がるんじゃないですか?」
「足手まといの私が居ても…奇跡っておきますか…?」
「確かに僕が怖がらせるような事を言いましたが…
初見プレイの加賀烏さんは無邪気にはしゃいで楽しんでくださいよ…」
「無邪気にはしゃぐって…子供じゃないんですから…」
「でもきっと本当にはしゃぐと思うよ。
そんなこと言ってたら一輝先生が言っていたギミックの所ですよ」
「僕はここで結構な時間沼ったんだ…」
「確かにこのゲームのキャラ操作ムズいよね。
先に言っておくべきだったけど…感度調整しておくべきだったね」
「一回落ちてからにしよう。加賀烏さんがプレイ感的にどう思うかわからないし」
「確かに。っていうかなんで加賀ちゃんのことフルネーム呼び?」
「あ…私もそう思っていました。何か違和感あるなーって…
って…えぇぇぇー…!!!」
「やっぱり落ちた。流石の私でもスーパープレイを魅せれなかったよ」
「じゃあ気を取り直して感度調整しようか」
「はい。今のままだとヌルヌル動きすぎて滑っているみたいで…
端的に言ってやりにくいです…
831先輩のおすすめあります?」
「うーん…自分にあった数字を見つけたほうが良いと思うよ」
「わかりました。じゃあちょっと設定変えるので雑談していてください」
「それじゃあ…さっきの話に戻るけど。
なんで加賀ちゃんのことフルネーム呼びなの?」
「なんでって…なんとなく?初めてのコラボだから?」
「なんで自分の発言に疑問符がついている感じなのよ…」
「じゃあ加賀さんで良い?」
「良いんじゃない?本人は設定に忙しそうだけど」
「本人も違和感があるって言っていたから…加賀さんで良いか…」
「事前配信では何処まで登ったの?」
「えっと…クリア前のギミックまで…そこまで言って眠気に襲われた」
「なるほど…そこでかなり沼ったでしょ?」
「かなりね…何時間掛かるかわからなかったからリタイアした…」
「情けない…」
「そう言わないでよ。前日の作業で疲労と眠気が限界だったんだ」
「それでもクリアまでやってよね」
「今日のために楽しみにとっておいたってことで」
「物は言いようね」
僕と不作之831は加賀烏の感度調整中に雑談を繰り広げていた。
加賀烏は設定が終わったようで微笑ましい表情を浮かべて話に割って入った。
「二人は仲良しですね。微笑ましいです」
「まぁ…仲良いね。私にしては珍しいでしょ?」
「ですね。お菓子工場の中でも831さんはクールで有名ですから」
「意外な一面を知った?」
「はい!嬉しいし光栄です!」
「ははっ。とりあえずもう一度トライしようね」
そして僕らは再び登頂を開始するのであった。
僕が宣言した開始五分のギミックに加賀烏は何度も沼っていた。
僕と不作之831のアドバイスを何度も受けた加賀烏はどうにか次に進むことが出来たのだが…
また次のギミックにて加賀烏は沼り散らかして…
それが何度も何度も行われて十時間程が経過していた。
加賀烏は初見プレイなため新鮮なリアクションを繰り広げており…
僕らが予想していた通り加賀烏ははしゃぎ楽しそうにゲームをプレイしていた。
そしてコメント欄は難所をクリアすると何度も盛り上がり沢山のスパチャなどに溢れかえっていた。
同接数も明らかに多く…
このままいくとトレンド入りしそうだと予想される。
そして遂に…
最後のギミックがやってきていて僕らの疲労もピークに達していた。
「僕も突破できていない箇所だ…」
「そうだったね。でもコツを掴んだら意外に簡単だから。
最後だから事前にアドバイスしても良い?
これ以上時間掛かると眠くて気絶する…」
「831先輩…私からもお願いします…助言をください」
「うん…じゃあ…」
そうして最後のギミックの前で僕らは立ち止まって不作之831からのアドバイスを受けていた。
完全に攻略できると確信した僕らは最後のギミックに挑戦して…
「やばい…絶対に落ちる…終わったぁぁぁぁ…!」
集中力が切れてプレイミスをした加賀烏の嘆きの声が配信上に流れている。
僕も加賀烏につられて落下寸前だった。
このまま中腹辺りまで急降下して再び数時間掛けて登頂することになる。
就寝時間はまだまだ先だと僕は嘆きの想いに駆られていた。
だが…
ここで不作之831のスーパープレイが光った。
彼女は足を引っ張る僕と加賀烏をすくい上げるとそのままキャリーする形で殆ど一人でクリアをしてしまうのであった。
「すげぇー!流石ゲーマー831!」
「やっぱり最後は831ちゃんが決めてくれるって信じてた!」
「今のプレイなに!?」
「このゲームであんな動き出来るん!?」
「バグちゃうよな!?」
「どれだけこのゲームやってんだよ!」
「すごスンギ!ハイパーつよつよゲーマー831伝説に新たな一ページ!」
「今のプレイで終わってくれて良かった…」
コメント欄にはスパチャなどのコメントが幾つも投げかけられており僕らは十分な達成感に包まれていた。
「トレンド入りしますかね…?」
加賀烏の気の抜けた声に僕らは適当と思える返事をしていた。
「入ったら凄いわね…」
「長時間配信だったし…最後のスーパープレイのお陰で入るかもね」
僕らは大きな伸びをして配信上に乗ってしまうぐらいの欠伸を漏らしていたことだろう。
そして僕らは配信の締めの言葉を口にしていた。
「はい。一輝先生です。じゃあ本日のコラボ配信はこれにて終了となります。
長時間配信で皆様もお疲れだと思います。
最後まで付き合ってくださった皆様も本当にありがとうございました。
お二人も本当にお疲れ様でした」
「はい。不作之831です。
最後はしっかりと魅せられてゲーマーとしての誇りは保てたかと…
アーカイブも残るので現在就寝中の方々も最後まで御覧ください。
本日はお疲れ様でした」
「はい。加賀烏です。お二人とコラボが出来て本当に幸せでした!
また次の機会があったら…嬉しく思います。
散々足を引っ張りましたが…こういう存在も必要ですよね!?
なんて開き直りはここら辺で…
大変ご迷惑おかけしましたしリスナーさんはイライラしたかもしれません。
ですが…!
私は次回もこの三人でコラボできたらと思います。
では…本日は本当にありがとうございました!
お疲れ様です!」
「はい。ではコラボ配信第三弾。これにて終了です。
長時間お付き合いくださった皆様も本当にありがとうございました。
では…次の配信で会いましょう」
僕らは配信を切ると通話だけ繋いでいた。
「本当にお疲れ様。ふたりとも付き合ってくれてありがとう」
「今回は私が誘ったコラボでしたから…私からもお礼を言わせてください。
ありがとうございます」
「とにかく…今日は眠いわ…また後日…打ち上げでもしましょう」
「だな。じゃあおやすみ」
「おやすみなさい…」
「ありがとうございました!おやすみなさい」
僕らは通話を切って…
不意に窓の外の景色が目に飛び込んでくる。
明らかに朝日が差し込んできており僕はカーテンを閉めた。
そのまま自室のベッドに倒れ込むと気絶するように眠りにつくのであった。
僕らが眠っている最中のこと。
SNSでは僕らの配信がトレンド入りしており大盛りあがりを見せていた。
アーカイブの再生数はうなぎのぼりで急上昇ランキングでも上位に食い込んでいる。
そんな記録を目にしていた馬生カンナと富士ケイルは何を思っていたのだろうか。
僕らの知らない所でお菓子工場のメンバーが動きを見せていた…。
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