第11話お菓子工場の事務所にて…
「告知があったと思うんだけど…
今度不作之831さんと加賀烏さんと三人でこのゲームをプレイするんだ。
最高難易度でプレイするから今回は事前に把握しているってわけ…」
現在僕は三人でコラボするゲームを予習感覚で配信していた。
コメント欄は少しだけざわついており僕はそちらに目を向けていた。
「加賀烏と隣人ってマジ?」
「烏ちゃんの中の人って美人?」
「ハーレムとか思ってる?」
「お菓子工場とだけ絡み過ぎじゃない?」
「別箱とはコラボしないん?」
「カンナちゃん…可哀想じゃない?」
「最近ゲームばかりだけど作業は進んでいる?」
「このままVTuber一本で生きていくの?」
杞憂民と思われるお気持ちコメントが幾つも目に入ってきて僕は一つ一つに丁寧に答えていた。
「隣人って言うのは本当ですね。
中の人とか気になるでしょうけど…
推しに嫌われたくなかったら気にしないことをおすすめしますよ。
ハーレムなんて思ってないです。
生まれてこの方モテた経験なんて無いですから。
悲しいこと思い出させて…言わせないでくださいよ…。
有り難いことにお菓子工場の方々が僕を面白がってくれて…
本当に光栄です。
別箱のVの方々も声を掛けて頂けたら…
コラボもあるかもしれないですね。
僕もコラボを解禁したばかりですから…
連絡お待ちしております。
カンナちゃんが可哀想って…
どういう意味ですか…?
声が掛かればいつでもコラボしますよ…
ただあまりこちらから絡みに行くのは違うかも…
と思っているだけですよ。
一応生みの親ではあるかもしれませんが…
それ故に適切な距離感というものがございまして…
察してください。
進捗の方は問題ないです。
ゲーム配信が多くなったので作業配信が減っただけですよ。
裏では集中して確実に作業を進めております。
スケジュールを破ったことは無いので問題ないです。
一本で生きていけるほど才能があるとは思っておりません。
本業はイラストレーターなので…
食べていける選択肢は多ければ多いほど良いと思っております。
自ら他人に席を譲るほど僕はお人好しじゃないですし…
席を奪われたり用意されなくなるまでは全力でがんばりますよ。
ただ…席がなくなっても続けたいと思ったら◯ぬ気で頑張りますけどね…」
お気持ちコメントにしっかりと答える形で僕は向き合っているつもりだった。
多くのコメントがゲームに向けて送られてくるものばかりで…
しかしながら数名の杞憂民らしきコメントが目立っており僕は軽く苦笑してしまう。
「しかしながら…最高難易度ってだけありますね…
一人で登頂するのも難しいです。
登り始めて五分ぐらいの場所でいつも落下しますね…
何かコツがあるんでしょうか?」
コメント欄にアドバイスを求める形で問いかけてみると…
それに応える形でリスナーも話題を変更してくれるのであった。
長時間の配信が終了するとある程度の場所まで登頂できていた。
不作之831にキャリーしてもらいつつ僕は足を引っ張らない形で…
しかしながら加賀烏が足を引っ張ってくれたら…
きっと配信は成功するだろうと確信を得ていたのであった。
僕の知らない所で…
「一輝先生のことで呼び出し?」
不作之831はクールな表情を顔面に貼り付けて口を開く。
馬生カンナは口を閉じているが明らかに不機嫌そうに思えてならなかった。
そのまま彼女は後輩の加賀烏に視線を向ける。
「私は…引っ越したらたまたまお隣だったんです…」
何かを言いたそうにしている馬生カンナにお菓子工場の他のメンバーも口を開いていく。
「カンナちゃんは一輝先生のイラストが好きで…
デビューが決まった時に事務所に直談判したんだよね…
一輝先生にイラスト担当して欲しいって…
だから…最近の831ちゃんとか加賀ちゃんが一輝先生と絡んでいるのが許せないんじゃない?」
話をまとめるようにお菓子工場初期メンバーの一人である富士ケイルが口を開き…
馬生カンナの様子をうかがっているようだった。
ただ…ここで黙っていた馬生カンナは突然口を開く。
「私の勘違いかわからないけど…加賀ちゃんは一輝先生が好きでしょ?」
鋭い視線であったわけではない。
ただ加賀烏は完全に怖気づいているようにも思える。
それでも彼女はどうにかして立ち向かうと口を開いていった。
「好きというか…私もカンナさんと一緒で昔から一輝先生のファンでして…
カンナさんの見た目に惹かれてお菓子工場を選んだんです…
もちろん私も直談判して一輝先生にイラストの依頼をして欲しかったんですが…
運営スタッフに断られたんですよ…
一輝先生と関わりを持てない中で…
たまたま引っ越した先の隣人が…」
加賀烏の苦しい言い訳の様な言葉に馬生カンナは話の途中で手を前に出して制する。
そのまま話に割って入ると厳しく思える視線を向けていた。
「本当に偶然?特定したんじゃない?
もしくは知り合いの特定班を使ったとか…
そんな偶然無いでしょ。
リスナーに嘘を言うのは自らの身を守るために必要なことかもしれないけど。
私達にまで嘘つく必要ないわよ。
ただね…そうなると私は許せないかも。
一輝先生のファンを名乗っているのにストーカー行為をしたってことでしょ?
ちょっと…うん…分かるよね?」
馬生カンナは明らかにキレているようにも思えてならなかった。
その様子を見ていた他のメンバー達も息を呑んでいたことだろう。
話をまとめるように富士ケイルが割って入る。
「まぁまぁ。今のところその憶測は一輝先生にも悟られてないんでしょ?
今後も隠しておくとして…
カンナちゃんは自分も一輝先生とコラボしたり関わり持ちたいってことでいい?
他にも言いたいことある人!?
何かあったら今のうちに言っておこうよ」
しかしながら初期メンバーで中心人物である富士ケイルの少しだけ不機嫌そうな笑顔を見た彼女らは自然と口を噤んでいた。
「本当に何も無い?もう良いのね?後で裏でグチグチとかやめてよ?
お菓子工場はメンバーが仲良いことが売りでもあるんだよ?
リスナーの夢を壊すような行為を表では絶対に見せないで?
分かったね?」
富士ケイルがメンバーの意識の最終確認をしっかりと取ると事務所での話し合いは終了したのであった。
その帰り道で…
加賀烏は明らかに俯いて歩いていた。
その姿を目にした不作之831は彼女の肩を叩く。
「あまり気にし過ぎないで。
もしもカンナさんが言っていたことが本当だったとしても…
一度の過ちぐらい誰にでもあるでしょ?」
励ましの言葉を投げかけると加賀烏はため息を付いて頷く。
「ありがとうございます。
でも…どうして831さんは一輝先生と仲良いんです?
何処かに関わりってありましたっけ?」
当然の疑問を投げかけられた不作之831は少しだけ困ったような表情を浮かべていた。
事実を口にしようとも思ったが…
それを口にしてしまえば新たなトラブルの火種になるような気がしてならなかったのだ。
そして不作之831は意を決したような表情で口を開いたのであった。
三人でのコラボ当日がやってきていた。
僕らは配信が始まる一時間前には通話アプリに集合していた。
そこで不作之831と加賀烏が口を開く。
「カンナさんがコラボしたいみたいだよ…」
「そうみたいですね。パパと関わりが薄いことを憂いていました…」
そんな言葉を投げかけられた僕は何をどう思ったのか…
そこからも僕らはコラボ前に起きた出来事を報告しあって過ごしていた。
三人でのコラボ配信まで…
残り数十分…!
次回へ。
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